プロローグ


「以上が今週のレベル1、およびレベル2案件の報告ほうこくとなります」


 会議室。


 木製の長いテーブルが組み合わされ、数字のゼロの形に並んでいる。

  簡易的かんいてき円卓えんたくの席に、中間管理職っぽい中年の男が椅子に座った。


 すると、空中に立体的なヴィジョンが浮かび上がる。

 SF映画などに見られるホログラム技術だ。

 では空想の産物とされている架空かくうの技術だ。


 彼はそれを使い、様々な年齢層の男女に何らかの支持を出している。


「先月、関東一円かんとういちえんで発生したレベル1案件、計237件。レベル2案件、10件。いずれも人命の危機に発展することなく、発症はっしょう前に対処済たいしょずみだ。修正バッチは正常に適用てきようされたとみていい。引き続き業務を遂行すいこうしてくれ」


 中年男はそう支持を出すと、空中に浮かんだホログラムを閉じ安堵あんどした。


 自分たちの部下は優秀だ。

 問題は全て解決できた。


 今月もこれで安泰あんたい

 地上の人類は、問題なく愛をはぐくむことができる。


 地上の人々の幸せな光景。

 実に天使冥利みょうりに尽きる。


 そう――この男は人間ではない。

 彼は、天使と呼ばれる別次元の生命体だ。


 地球に住む人々の運命を管理している。

 罪もない人間が、不幸に会うことのないように。


 幸せな人生を全うできるように。

 たとえそれが叶わなくても、来世で幸せになれるように。


 常に地上に目を光らせ、愛の種を見守っている。


「ふう、今月も無事に終わりそうで何より。来月もこの調子で行くといい――」



 ――ヴィーッ! ヴィーッ!

     ――ヴィーッ! ヴィーッ!


「何事だ!? 報告を!」

「か、課長-ッ! 大変です! 数十年ぶりに超巨大バグが発見されました! レベルは4! やばいです!」

「何ィーッ!?」


課長の全身が総毛そうけ立った。

レベル4はまずい、本気でやばい。

今すぐ対処しなければ、地上の人間の命に関わる。


「場所は!? 発生した場所は何処どこだ!?」

「場所は日本の東京都! 対象者は17歳の高校生です! アカシックレコードに異常が出てます!」


アカシックレコードの異常……その人間が送るべき運命に大きなひずみが生じている。

しかも規模はレベル4……最悪だ。


本来幸せに過ごすはずの、何の罪もない人間を起爆剤きばくざいに、大勢の人間が不幸になる。

今すぐ対処しなければならない。


「バグの種類は《ヴォイド》、あらゆる恋愛フラグを無かったことにしてしまう、文字通り《虚無きょむ》を象徴しょうちょうするバグです!」

「ヴィドか……また厄介な!」


バグを修正するために必要なことは、バグの発生源の人間と正常な誰かを運命で結びつけ、恋愛的な幸福を用いて修正すること。


しかし、ヴォイドではそもそも恋愛フラグが立たない。

まともな手段では――の話だが。


「兵器の使用を許可する! 担当区域の天使は急行し、対象者と協力して事に当たれ! 以上だ!」

「了解!」


この日、この時――1人の天使が地上へ急行した。

彼女の名はキズナ。


この課に配属されたての……新米の天使である。




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 《あとがき》

10年以上前に書いた作品のリメイクです。

デビュー前に書いたもので、新人賞で高次に残りました。

自分がプロデビューするきっかけというか、作品作りの転機になったものなので、今でも結構気に入っています。

よかったら読んで行ってください。

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