40. 宿主
そのとき、ユイの携帯端末がふるえた。画面には水渕の名前が表示されている。
ユイが、スピーカーにして電話に出た。
「どうした?」
『ごめーん。今夜は動けそうにないんだ。退治には二人で行ってね』
突然の連絡に、ユイが眉をひそめる。
「何があった?」
『それが、昨日から桜ちゃんと連絡つかなくて』
ソラは携帯端末に顔を近づけた。
「
『そう。俺は桜ちゃんを捜さなくちゃならない。というわけで、今回は二人でがんばって』
そう言って、水渕は電話を切った。
ソラは、ユイと顔を見合わせた。
「とりえず、行きは電車で行けるよな」
「ああ」
だが、時間的に帰りは電車もバスも動いていない。つまり、以前のように、本来の姿のまま走って帰ってこなければならないということだ。
水渕たちと協力するようになってから、車を出してもらえるようになったため、深夜でも移動に困ることはなくなった。さらに、本来の姿で出歩く範囲が減ったことで、視える人間の目に留まる心配も減った。
(水渕たちのおかげで、かなり助かってたんだな)
ソラはあらためて、人間の協力者がいることのありがたみを知った。だが、涼正が行方不明となっている今、水渕に協力をあおぐのは酷というものだ。
「まあ、今夜はしかたないか」
ソラは、ユイに続いてマンションを出た。
***
退治の帰り道、ソラはため息をついた。
「今夜の寄生霊魂もはずれだったな」
かなり苦戦したのに、天龍王の魂を食らった寄生霊魂ではなかった。
ソラたちは、狼の耳と尻尾を生やしたまま、閑静な住宅街を走っていた。深夜とあって人気はない。
ソラは、斜め前を走るユイにたずねた。
「これ、あとどのくらいで家に着くんだ?」
「一時間ほどだ」
「……そっか」
本来の姿にもどっている今、人間の姿のときとくらべて体力も脚力もある。だが、一時間も走るのはきついし、なにより明日は学校があるので睡眠時間が心配だ。
(明日は、弁当を作るのやめようかな)
ソラが悩んでいると、学校らしき建物が見えた。ソラたちの通う高校よりはるかに広くて、緑が多い。
(ここが大学ってとこか)
存在は知っていたが、見るのははじめてだ。
大学沿いに走っていると、構内からジャケットを着た男が出てきた。視える人間だった場合を想定して隠れるべきか、とソラは考えたが、男の後ろ姿に見覚えがあるのに気づいた。
「あれって、涼正じゃないか?」
ソラは、ユイとともに足を止めた。
男は、間違いなく涼正だ。疲れているのか酔っているのか、足がふらついている。
ソラは、涼正に声をかけた。
「大丈夫か? こんなところで、どうしたんだ?」
涼正はゆっくりと振り返った。涼正と目が合った瞬間、ソラは首筋をなでられるような、不気味な気配を感じた。涼正の表情はぼんやりしていて、メガネごしに見る目は焦点が合っていない。
「すべて、私のせいだ……私が、身勝手な振る舞いをしたばかりに!」
涼正が、ソラたちに背を向けて走り去っていく。
ソラは首筋を押さえながら、隣にいるユイを見た。
「なあ、今のって……」
「寄生霊魂の気配だ」
遠ざかる涼正に、ユイは鋭い視線を向けている。
なんで涼正が、と思ったが、理由を考えたところでソラにはわからない。
「どうする? 退治するか?」
「まだ、障壁を張れるだけの霊力がもどっていない。出直す」
「わかった。水渕には、俺から連絡しておく」
ソラは携帯端末を取り出して、メッセージアプリを開いた。水渕に、大学前で涼正を見つけたことと、寄生霊魂の
やれることをやったのち、ソラたちは
***
マンションにもどって、布団に入るころ、ソラの携帯端末に水渕から返信が届いた。
『桜ちゃんは確保したよ。話がしたいから、今日の夕方五時に事務所近くのファミレスまで来てほしいんだけど』
ソラはユイと相談してから、水渕に『わかった』と返信した。
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