3. ホワイトウルフ
学校前の道を歩きながら、ソラはほっと息をついた。まわりには、ほかの生徒たちもたくさんいる。
(いつもの時間に間に合いそうだ)
ソラたちが通うのは、
おかげで、ソラが霊力を封じるために銀のチョーカーをつけていても、ユイが同じく銀のブレスレットをつけていても目立つことはない。
ソラは校門をくぐったところで、隣にいるユイに目を向けた。
「じゃあ、またあとでな」
「ああ」
ソラはユイと別れて、一年五組の教室に向かった。
年齢的に、ソラは一年でユイは二年だ。年を偽って同じ学年になるという手もあったが、別々に行動したほうが情報を集めやすいというユイの意見で、学年をわけた。
ソラの席は、窓側から二列目の真ん中あたりだ。
ソラがリュックを下ろして席に着くと、前の席の女子生徒がソラを振り返った。
「
ソラもユイも、人間界では神守という苗字で通している。
なにやら目を輝かせている少女に、ソラは笑顔で返した。
「おはよう」
彼女の名前は
入学したてのころ、継美は窓辺で女友達とアニメの話をしていた。ソラは実地訓練中にそのアニメを観ていたため、席にもどった継美に話を振った。それから半月、ソラは継美から、趣味の話ができる相手として重宝されていた。
継美が、ソラの机に身を乗り出す。
「聞いて! 昨日の夜、またホワイトウルフが現れたんだって!」
そう言って、携帯端末の画面をソラに見せてくる。
画面に表示されていたのは、黒い服の二人組がビルの屋上を走っている短い動画だ。小さくてぼやけているが、髪が銀色なのと、獣の耳と尻尾があるのがわかる。
ホワイトウルフとは、二月下旬から
なお、その二人組とは、封じをはずしたソラとユイである。
ソラは、目が泳がないよう気持ちを落ち着かせながら、自分の映る画面を見ていた。
「へえ……」
それ以上、なにも言えなかった。
画像や動画になれば、視えない者でも封じをはずしたソラたちを見ることができる。しかも、人間たちは、インターネットを使ってデータをあっという間に広めることができた。
救いなのは、今のところ、顔がわかるような鮮明な画像や動画がないことくらいだ。
(夜中に動いたり、黒い服を着たり、ビルの上や路地を移動したり、人目につかないようにはしてるんだけど)
あらためて動画を見ると、銀色の髪も、人間とは異なる耳や尻尾もかなり目立つ。だが、霊力を封じたままでは、寄生霊魂に遭遇したとき力を発揮できない。フードをかぶると聴覚が鈍るし、尻尾を隠すのもなかなか難しい。
(ロングコートは動きにくいし、今の季節じゃ暑いんだよな……でも、パーカーをリバーシブルにしたのは正解だったな)
人間たちは、ホワイトウルフといえば黒い服、というイメージを持っているらしい。そのため、服の色をかえれば、退治の前後に人間の姿で街を歩くソラたちを、ホワイトウルフだと疑う人間は減らせるはずだ。
いっそ、マンションから本来の姿で移動すれば、変装の必要がなくなるのでは――とソラは思ったが、本来の姿でマンションを出入りすれば、視える人間に「異形の
継美はソラの悩みなど知らずに、ホワイトウルフについて熱く語る。
「ホワイトウルフの正体については、コスプレイヤー説とか人外説とかいろいろあるけど、私は人外説を推してて、人知れず悪い妖怪を退治してる人間の味方の妖怪、なんてことだったら夢がふくらむ……って、私、妄想しすぎ? あと、アルファとシリウスの関係も気になってて」
ソラは首をかしげた。
「アルファとシリウス?」
はじめて聞く言葉だ。
継美が、ループする動画を指差しながら鼻息を荒くする。
「前を行くのがアルファで、後ろにいるのがシリウス。最近、ネットではそう呼ばれてるんだ」
つまり、ユイがアルファで、ソラがシリウスということだ。
ユイは今回の任務の隊長で、ソラにとっては上司に当たる。アルファは狼の群の最上位を表す言葉なので、名づけ方としては間違っていない。
シリウスはというと、異国では天狼と呼ばれる星なので、たぶん狼つながりで名づけられたのだろう。
(継美の話しぶりだと、ホワイトウルフがだれか、特定しようとしてる人間がいてもおかしくないよな)
そう考えたとき、教室に担任の教師が入ってきた。生徒たちがあわてて席に着く。継美も前を向いた。
ソラは、教卓の後ろに立つ担任を見るともなしに見ていた。
ソラたちが人間でないことがばれれば、任務に支障をきたす。それだけではない。当主から「人間に極力影響をおよぼさないように」と命じられているので、相応の罰を受けることになるだろう。
(これ以上、さわぎが大きくなるのは困るな)
担任が連絡事項を話すのを聞きながら、ソラは胸の内でうむとうなった。
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