第20話 5日目ー5


「今、彼が何をしたのか分かるヤツは居るか?」



 リーダーのラウルが小声で訊いたが、答えられるやつなんて居る訳が無い。 

 自分の目で見ていたが、ほんと、訳が分からん。


「命力を感じたので、多分、治癒魔法を応用したんだろうけど、それ以上は分らんな」


 狩りの時に、気体魔法を器用に応用する弓士のベンジャミンがボソリと答えた。

 

「治癒魔法? 怪我を治す魔法を逆に使ったと?」

「そんな高度な応用が出来るのか? 前に知り合いの魔法尉に聞いた話だと、精霊って治癒魔法の時は他の魔法以上に呪文を厳格に正確な節で唱えないと魔法を発動してくれないと言っていたぞ? 逆に使うなんて最初から手を貸してくれないんじゃないか?」

「そう言えば、今、詠唱無しだったよな?」

「まじ、あり得んぞ」

「忘れているかもしれんが、5人同時に気絶したんだ。そんな同時に発動出来るもんか?」

「まあ、真実はここで喋っても分からんだろう」

「そうだな。取り敢えず今の出来事も報告に入れておこう」

「また、嘘つき呼ばわりされるだろうがな」


 

 俺たちは今日からスラム街で情報を集める様に役人から命令されていた。

 

 スラム街が出来始めてからずっと外壁上からスラム街を監視しているみたいだが、昨日、いきなり石造りの建物が現れた、と大騒ぎになったらしい。

 その段階で、俺たちがいつもは滅多に通らない経路ルートを使ったせいで偶然発見した石造りの建物との関連が指摘されて、俺たちへの依頼になったそうだ。


 あの日は魔獣が多過ぎて散々な目に遭ったんだよな。いつもの経路ルートにしときゃよかった。

 しかも、疲れた身体に鞭打ってその日の内に報告したのに翌日には姿を消していたそうだ。おかげで嘘つき呼ばわりだ。

 仕事なんかしてられるかと、昼間からヤケ酒を煽って気持ち良くなった頃に、嘘つき呼ばわりした役人が来やがって、偉そうに命令しやがった。

 くそ、ついてない時にはとことんついてないと、ヤケ酒を更に煽ったぜ。


 で、早速、二日酔いにも拘わらず朝から確認に来たのだが、確かにあの時に見た石造りの建物だった。

 見間違える筈が無い。

 むしろ、他にも在ったとすれば驚きだ。


 驚く程、まっすぐな直線で構成された建材は、見た目は滑らかな石だった。

 普通なら石を組み合わせて隙間を充填固定材で埋めるか、レンガ造りなんだが、巨大な岩から削り出したかの様に継ぎ目が無かった。




 

 彼は、確かジョージと名乗っていたが、顔立ちが俺たちと違っていた。

 何と言うか、デコボコしていない、彫が深くない、ちょっと平面的、とみんなは表現していたが、俺の意見はあっさりしている、という感じだ。

 優し気とも言える整った顔立ちという点はみんなと一致した意見だったので、まあ、好みの問題も有るんだろうが、モテても驚かないな。


 要するに、初めて会った時の印象は、異常な状況とは裏腹に、それほど驚く様なものは無かった、って事だ。

 俺たちと同年代のごく普通の20歳台後半の青年という感じだった。

 

 だが、今さっき見た印象は全く違う。


 視界に入る前から感じる、恐ろしい程の存在感に満ち溢れていた。

 魔獣とは全く違うのだが、それ以上に軽く見ては駄目な存在と言うか、とにかく初めて遭う存在・・・・ 

 そうか、分かった気がする。



 彼は、人間を超えた存在、大精霊が人間に化けた姿なのかもしれない。



 なんにしろ、全員が一致した意見は彼と敵対するくらいなら逃げた方が良い、というものだった。


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