第7話 3日目ー2


 残りの9人も昼までには無事に転移出来たが、何故かみんな石造りの小屋の方に興奮していた。

 さすがに12畳の広さでは狭いとしか言えないが、取り敢えず増築は明日に回した。


 で、今日は何をするかと言えば、美味しいご飯を食べさせるイベントだ。


 昨夜も食事を振舞ったが、消化の良さを優先したのでガッツリ感は少なかった筈だ。

 なんせ、孤児12人全員が栄養失調なのだ。

 リックとベスの兄妹も1日2日程度の食事では栄養が身体に行き渡る筈も無い。

 取り敢えず、初日に確保した皮魚と流木を使って、栄養補給重視のスープを作ろう。

 もちろん、消化し易い様に工夫も忘れずにだ。


 みんな、自分の荷物を小屋の中に置いて、俺の後に続いて小屋から出た。

 あ、1歳半の赤ちゃんはレベッカが抱いている。

 周りの様子を感じているのかいないのか、なんかやたら笑い声を上げているんだが、意外と大物になる気がするな。


 土砂魔法でかまどを造ると『おおぉ』

 12人分のスープが入る大きな土鍋を造ると『おおぉ』

 皮魚5匹と流木を取り出して具と調味料に変質させながら土鍋に投入すると『おおぉ』

 土鍋を液体魔法で造った純水を満たすと『おおぉ』

 煮立って来て、美味しそうな匂いがしだすと無言になったのには笑ったが。


 ちなみに今日は完熟トマト鍋風スープだ。

 鳥のモモ肉モドキとソーセージモドキが動物性蛋白質摂取用で、たっぷりのキャベツモドキとエリンギモドキとシメジモドキでバランスを取った。


 各自に流木から造った丼とレンゲを渡すと、食事の瞬間が近付いた事に気付いたのか、目がキラキラしだした。


 いやあ、みんな、無言で食べ始めたが、途中からはうるさい位にしゃべる事しゃべる事。


 赤ちゃんには離乳食という事で一手間掛けた別メニューだ。

 消化し易い様に小麦モドキと肉団子を気体魔法で細かく刻んで、みんなと同じスープを薄味にする。

 冷ましてから食べさせないといけないので、気体魔法でフーフーを代用させて丁度良いぬるさにしてから食べさせた。


 うん、本当に魔法は便利だ。

 なんせ俺の場合は自分のイメージで使えるからな。

 人類が使う魔法はパターン化された定型文を組み合わせて精霊にお願いする分、自由度が少ない。

 


 それと、レベッカが赤ちゃんに「おいしいね、おいしいね」と話しかけたおかげで、新しい言葉『おいしいね』を覚えて、連発していたのが妙に嬉しかった。

 みんなも幸せそうな笑顔で赤ちゃんとレベッカを見ていた。


 みんなが食べ終わった後には、特別サービスでオレンジジュースを出して上げた。

 この辺りになると、マイケルとレベッカが明らかにおかしいと思い始めているのが分かった。

 そりゃあ、精霊を全く使わずに魔法を連発しているし、変質魔法なんて未知の魔法を使っているし、魔力切れの様子も無い。

 うん、怪しさ満点だな。


 満腹になったみんなは年長組を除いて昼寝の時間だ。

 手持ちの最後の流木を使って薄いマットを造る。もっと厚いマットを造って上げたがったが、無い袖は振れない。

 まあ、直に板張りの上で寝るよりはマシだろう。



 リック、マイケル、レベッカの3人と今後の事を話し合う事にした。


 まずは食料をどうするか? が一番の問題だ。

 郊外に出来たスラムにも食料が多いとは思えないので、その対策をどうするか?


 普通に考えれば、何らかの仕事をスラムで見付けて、その収入で買う事が出来れば良いんだが、仕事を見付ける点と食料の流通量の点で厳しいと思われる。

 仕方が無いので、食料に関しては当面は俺が何とかする事にした。


 次に住居だ。

 今居る場所を拠点とするのも有りだが、いつかは見付かるだろう。

 見付けられた相手が王都の人間なら役場?役所?に通報されて、下手すれば小屋ごと没収という事も考えられる。

 昨日の話し合いの通り、外壁沿いのスラム街を引っ越し先第一候補のままにする。


 まあ、安全だけを考えたら、あの河原付近が一番良いのだが、出来ればスラムの住人と交流を持たせたい気持ちも有る。

 人間は社会性の強い生き物なので、他人との交流を経験せずに育つ弊害が心配だからだ。

 安全だからと河原に移住して、特に大人との接点が無く育つ場合、外交スキルが不足して将来に禍根を残す気がする。

 だからスラムの中か近くに居を構えられるかを探るのを最優先にしておく。


 ま、河原付近という代替案が有るからこそ、試せるんだが。


 衣食住最後の服関連だが、この話し合いの後、流木を拾いに行って、変質魔法で麻モドキの衣服に変換する事に決まった。

 変に綿などの上質な衣服だと目を付けられる危険性が有るからな。綿は下着に使うだけにしておこう。


 遠征隊はリックとベスの兄妹、マイケル、俺の4人だ。

 レベッカは幼少組みんなを見る為にお留守番だ。

 ついでにまだ余裕は有るが、今後の事も考えて皮魚の補充もする予定だ。


 丁度、方針が固まった頃に昼寝組が起き出して来た。


 大人しくさせる小道具として、おやつのクッキー生地をレベッカに渡しておく事にする。

 1人3枚だから予備を含めて30枚をちゃちゃっと作った。

 かまどの使い方は先程の調理でほぼ理解したらしい。


 まあ、レベッカも孤児院で調理の手伝いをしていたから、火加減にさえ気を付ければなんとか食べられる範囲で焼けるだろう。



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