第6話 2日目ー2/3日目ー1
リックの説得により、ねぐらを替える事になった。
今までは王都内であれば多少は治安が保たれていたが、人攫いが出るまでに治安が悪化して来たのなら、むしろ
食料もジリ貧になって行くのは明らかだ。
第一、雨風を防げないここで過ごしていては健康状態の改善が図れない。
ならば、王都から出てしまった方が良い。
俺は意見を言わない無い様に心掛けた。
可能な限り、彼らが自分で決める様にしないと俺に過度に依存してしまうからな。
ただし、行く先に関しては決定に時間が掛かった。
リック以外(ベスは幼過ぎて記憶に残っていないそうだ)は王都の中しか知らないから候補地が出て来ない。
兄妹2人は住んでいた所を希望したが、魔獣のテリトリーと化している為に不可能だ。
結局、王都の外壁の外に造られた(自然と発生した、が正しいか?)スラム街に決まった。
まあ、現実的な選択だろう。
昨日の河原も候補地だったが、スラム街がダメな時の予備になった。
今夜はこの場所で寝る最後の夜だ。
夜の廃墟に、久しぶりに入るお風呂と、温かくて美味しい食事を喜ぶ幼い歓声が響いた。
当然だが、廃墟の外に音が漏れない様に気体魔法をがっちり掛けたさ。
「みんな、忘れ物は無い? 忘れても取りに来る事は出来ないよ?」
最年長で孤児たちのリーダーのマイケルがみんなに声を掛けた。
茶髪を短く切ったブラウンの目をした子だ。
曲がりなりにも孤児たちが今まで生き残れたのはこの子の存在が大きい。
この廃屋もこの子が昔使っていたから知っていたんだからな。
相変わらずカツカツの「神力」だが、4回に分けて転移する事にした。
罠では無い事を証明する為に、初回はリックとベスとマイケルの3人だ。
マイケルは危険が無い事を確認してからこのねぐらに戻ってみんなに報告する段取りだ。
転移先は外のスラム街から歩いて30分ほどの見通しの利かない丘陵地帯の低地にする。
さすがに転移している現場を見られると色々とまずいからな。
「マイクにい、あっというまにつくの。ちゃんとめをあけていてなの」
ベスがマイケルに先輩風を吹かせていた。
思わず笑みが零れてしまった。
その笑みを見たマイケルが少しだけ警戒心を減らした様だ。
悪だくみをしている様な笑顔では無かったんだろう。
オレハイイカミサマだからな、うん良かった。
「では、行くぞ」
何気ない風を装って、転移を行う。
初めて転移を経験したマイケルだが、彼は転移直後には周囲を見回した。
なかなか、いや、かなり出来る子だな。
「ね、ね! あっというまだったでしょ?」
ベスがドヤ顔で言っている。
マイケルは周囲の様子に気を取られていて、声が耳に入らなかった様だ。
「あっという間だったね、ベス」
代わりにリックが答えた。
自分も周囲の警戒をしながら妹の言葉に反応して上げるとは、さすが妹思いな兄だ。
ベスがムフウとばかりに胸を張った。
「どうだい、これで信じてくれるかい?」
敢えて、余り声を掛けて来なかったマイケルに何気なさを装いながら訊いた。
「ええ、本当に王都の外みたいです。すごいなぁ」
一瞬だけ、年相応の幼さが垣間見えた。
「では、戻ろうか? あ、その前に」
俺は土砂魔法で少し先の地面を均した。それから収納していた石造りの小屋をそこに設置した。
むしろマイケルは転移よりも驚いた顔をした。
「すごい・・・」
ちょっとだけドヤ顔になったのは仕方ないと思う。
「2人とも中で待っていてくれるか?」
兄妹の返事は重なって聞こえた。
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