第30話 6日目ー4
謁見の間は緊張感に包まれていた。
筆頭公爵側についた近衛騎士の1人、ドランツ2等近衛騎士がとんでもない情報と共に新たな神の言葉を届けたからだ。
伝承に残っているこれまでの神々とは明らかに違う。
魔獣の大量発生でも無く、食糧危機でも無く、収まらない流行り病でも無く、長過ぎる異常気象でも無く、泥沼の人類同士の争いでも無く、大規模な自然災害でも無く、人口爆発による危機でも無いのに訪れた神が何を語り、何を齎すのか、予想が出来なかったからこその緊張感だ。
昨日半日を掛けた調査で分かった事は余りにも少なかった。
筆頭公爵にどれだけ差を付けられていたかを思い知っただけが収穫だ。
その筆頭公爵と会っている筈の時間に齎されたチャンスは危険な罠でもあった。
余りにも情報が少な過ぎる。
集まった情報から分かる事は、ドムスラルド家の幼い兄妹を庇護下に置いている事と、王都外のスラム街に深い影響を与えつつある事だ。
一方、その過程ではさすがに神だと言わざるを得ない事案も多数発生していた。
雑草を小麦や小麦粉に変えてしまうなど、常識的に人類には不可能な事だ。魔法具を使っていると言っている様だが、きっと違う。神の御業としか思えない。
人類が作れない様な石造りの小屋を、生やすかの様に瞬く間に建築したり、誰も出来なかった巨岩群の排除をするなど、その場を見ずに話だけ聞いては信じる事など無理だ。
大精霊ゴックス様から齎された情報も少ない。
いや、御宣託を賜っただけでも僥倖というものだろう。
もし、それが無かったとすれば完全に筆頭公爵の独占で事態が終わっていた可能性が有る。
そして、ドランツ2等近衛騎士が齎した新たな情報。
身体強化も魔法も発動出来なくなったなど、どう解釈すれば良いのか見当も付かない。
扉を守っている近衛騎士が緊張を隠せない声で到着した事を伝える言上の言葉が謁見の間に届いた。
「ジョージ・ウチダ様並びにフルクラン・ガダム筆頭公爵様、
筆頭公爵も一緒に来るなど想像していなかったせいで、謁見の間の空気が更に重くなった。
先に入って来たのは見慣れない風貌の30歳台前半に見える男性だった。
顔立ちや表情は特に険しいものでは無い。むしろ優し気と言える。
だが、人間では無いと思い知らされる存在感と威圧感。
現にジョージ・ウチダ様の身体の線に沿って背景が微妙に歪んで見える。
そんな存在が人間で有る訳無い。
もし誰かに彼は人間だと言われたら即座に否定してしまうだろう。
異様な光景が続いた。
ジョージ・ウチダ様の後ろの空中にフルクラン・ガダム筆頭公爵が浮いていた。
常人の3倍は有ろうかという体重が無いかの様に浮いていた。
思わず、魔法管理省長官を見たが、いつも冷笑を浮かべている彼が口を半開きにして目を見開いていた。
そう、あり得ない無いのだ。
魔法で生成した物質ならば精霊にお願いすれば、動かす事も浮かせる事も飛ばす事も、魔法士以上なら可能だ。
だが、それ以外の物質をどうこうする事は出来ないというのが常識だからだ。
この時に去来した感情は安堵であった。
大精霊ゴックス様とミグロウザ2世・クン・ゴック王の決断は正しかった。
もし、玉座に拘って、高みから迎えていればどうなったかを考えるのも恐ろしい。
玉座に至る階段の手前で、そう、せめて同じ高さで迎えようという決断は正しかったのだ。
「新たな神ジョージ・ウチダ様、当地にお迎え出来る事、ゴック王国国王たるミグロウザ2世・クン・ゴック、光栄の極みで御座います」
我らが王がそう声を掛けて、スッと傅いた。
我ら臣下も同時に膝を付く。
護衛の近衛騎士も例外無くだ。
そして、一瞬のスキを突くかの様に思考が逸れて、疑問が湧いた。
・・・・・新たな神ジョージ・ウチダ様は後世で何と呼ばれるのだろう?・・・・・
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