第32話 6日目ー6
「ついでに言うと、先ほどの4件では支配を魔獣に渡さなかった。だが今回は違う。この地域の人類生存域が縮小した。それも重要な地域を手放した形でだ。原因が魔獣側に有ったり、自然に依るもので支配を失う事はこれまでにも有った事態だが、今回は人類側の過失だ。その責は誰が贖うのだ?」
謁見の間は完全な静寂に包まれた。
「・・・・・・・・・・・・」
「なるほど、魔獣の侵攻を食い止める為に努力している事は認めよう。だが、完全に食い止められる保証は有るのかな? ドムスラルド地方を失った事で、他の地域の魔獣に影響が出ている事に気付いているだろうか? 足元の王都近郊でも魔獣討伐失敗の報告が増えている事に気付いているだろうか?」
ジョージ様は一旦言葉を止めて、気付かない内に用意したグラスから何かを口に含んだ。
「失礼、喋り過ぎて喉が渇いてしまったもので。ミグロウザ2世・クン・ゴック王もどうぞ?」
左手を差し出したが、その手にはいつの間にかグラスが握られていた。
我らが王は何とか手を出して受け取った。
「バタフライエフェクトという言葉が有るのだが、一匹の蝶の羽ばたきが周り巡って全然別の場所で気象災害を起こす要因になりうるという考え方だ。ドムスラルド地方失陥は蝶の何万匹になるんだろうね? どう思う、ガダム筆頭公爵?」
それまで大人しくしていたフルクラン・ガダム筆頭公爵が喚きだした。
もしかすれば口を塞がれていたのかもしれない。
「知るか! 早く離せ、この無礼者! 第一、一番悪いのはちゃんと管理出来なかった代官だ。代官に責任を取らせれば良いだろが!」
その後も何か喚いていたが、声は聞こえて来なかった。
「なるほど、ガダム筆頭公爵はトカゲの尻尾切りをお薦めか」
ジョージ様は何度か頷いた。
妙に白々しい仕草に却って不安を覚えた。
「新たな神ジョージ・ウチダ様、我が王国の者の御無礼をお許し下さい。また、責任を明確にして、再発防止に努める事を誓います」
「謝罪は受け入れよう。ただ、彼が勘違いしている様なので老婆心ながら一つ真実を教えよう」
ジョージ様はじっと大精霊ゴックス様を見た。
「・・・・・・・・・・・・」
「なんと! そんな・・・」
我らが王が大精霊ゴックス様の言葉に驚きの声を漏らした。
「うん、運命の皮肉だね。ガダム筆頭公爵にゴック王家の血は流れていない。むしろ遠い祖先にドムスラルド家の祖先、まあ、大精霊ドムスから庇護を得る前の祖先だが、その血が入っている。どういう経緯でそうなったかは些事なのでどうでも良いが、そういう事だ」
我らが王はその言葉を否定する事無く、だが真実を拒否したいかの様に額に手を添えて頭を左右に振っている。
フルクラン・ガダム筆頭公爵でさえ、喚く事を止めて呆然とした表情をしている。
「ガダム筆頭公爵、君にはトカゲの尻尾になる資格がある様だよ。第一おかしいと思わなかったのかな? 庇護を受けているのに、何故ゴックス殿の姿をはっきりと見れないのか? ああ、兄上の先王がそういう王族も居ると言っていたのか。優しくて、残酷な嘘だな」
正直に言うと、余りにも速い事態の推移と齎される情報が多過ぎて、理解が追いつかない。
「さて、俺がザビナオーレ様から任された役目は、ドムスラルド一族最後の兄妹の庇護だ。想定していた以上に協力を得られそうなので、ゴックス殿とその庇護下に在る全てに対して何かを干渉するという事は無いと明言しておく。取り敢えず、今しばらくは今の場所、まあスラム街だが、そこを貸しておいて欲しい。ドムスラルド兄妹の希望次第だが、最終的には失地回復をしても良いとは考えている」
その御言葉を聞いた瞬間の安堵感は言葉に出来なかった。
謁見の間に居る全員も同じ思いを抱いたのだろう。
呼吸をする事を忘れていたのを思い出したかの様に空気を求める呼吸音が鳴り渡ったのだ。
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