第11話 3日目ー6
「元々あの土地に根付いていた名も無き大精霊が、気に入った兄弟に加護と言うか庇護と言うか、色々と助け始めたのが100年くらい前の話なんだ。大精霊ドムスという名前も、兄弟の家名から取ったりして、良い関係を築いていたと言っていたな。どうでも良いが、お年寄の昔話が長いのはどこの世界でも同じだな。で、その後、ドムスラルド地方は、急拡大して勢力を伸ばして来たこのゴック王国に組み込まれた。が、意外と平和的に併合されたそうだ。初代の王が信仰心が篤かったからな。自身が大精霊ゴックスの加護を受ける身だったから、らしい。その後も同類のよしみで便宜を図って貰った事でドムスラルド領は栄えたんだ」
俺が神の端くれと知った、エド爺ことエドガルト・マイスナー翁に懇願されて口調はフランクなものにしている。
社会人をしていた日本人としては、年長者には軽くても丁寧語の方が却って気楽なんだが。
で、今は、何故俺が降臨したのかを対面で説明し始めたところだ。
ドムスラルド兄妹はお風呂も済ませてぐっすりとお休み中だ。
ベスは特に上機嫌のままで寝たから、さっき見に行くと笑顔で寝ていた。
良い夢を見ているんだろうな、と考えたら、ホンワカとした気持ちになるのは庇護神故なのか、父性の賜物なのか、悩む所だな。
うん、意外とこの酒はイケるな。
そのまま食べると酸っぱくて美味くない果実から作った密造酒と言っていたが、フルーティで飲み易い。
「大精霊ドムスも、初代王を知っているだけにまさか領地を取り上げられるとは思っていなかったそうだ。自然界相手と違って人間社会には非干渉というのが精霊たちの掟なんで、王都に連れられたドムスラルド兄妹に対する庇護は続けられなかったんだ。昔の様に自然だけに庇護を与える事も出来たんだが、失意の大精霊が選んだのは何もせずにそっと去る事だった。おかげで今ではドムスラルド領は魔獣天国だ。天敵の人類が居ないし、大精霊が残した残滓で食物連鎖が上手く嵌って餌も豊富だからな」
そう、農地は今では野生化した作物が生い茂る豊かな草原と化しているから草食動物が一気に増えた。
その草食動物を食料にする筈だった肉食動物を蹴散らして、代わりに食物連鎖の頂点についたのが魔獣たちだ。
まあ、肉食動物と魔獣の違いは、より凶暴で、更に属性魔法を使えるか? なので上位互換と言った所か?
エド爺、呑まないなら、瓶に残っている酒を全て呑むよ?
「なるほど、領主様から昔に聞いた話に合致する事が多いですな。領主家には王国の初代様に関しては逸話も多く残っていて恩義も感じていた様です。ですが時代が下って来ると、魔獣よりも王家に注意しろ、という家訓が残される様になりましたからな。もっとも、不穏な動きを察知した前領主様が根回しをする為に向かった王都行きがこの様な結果になるとは・・・。不運以外の何物では有りませんな」
そう言いながらも、その言葉を信じていないと顔にわざと出しているでしょ、エド爺?
元領主夫妻と前領主夫妻が魔獣に襲われて同時に死んだ裏に王族の関与が有ったと判断しているんだろう。
いや、疑わない方が異常か。
「さて、そこで
エド爺の息が一瞬詰まった。
実はこの世界には『神罰』と言う言葉は無い。
なんせ、神様モドキにとって、人類は庇護されるべき存在で、数を減らす事はそれに反するからだ。
だから、この世界にはソドムやゴモラやバベルの塔や洪水審判の様な逸話は皆無だ。
エド爺には同情するよ。
この世界が変わってしまうかもしれないと言う認識を最初に叩き付けられた人間にされてしまったのだからね。
もう少し酒を呑もうかな。良いよね?
地球で飲んだ銘酒とは完成度が比較にならないくらい低いのに、何故か癖になるな、この酒は。
もしかしたら神様の端くれになって変な属性が付与されたのか?
で、最後は大量の酒を飲まされて退治されるまでが1セットだったりするかもな。
「ところで、エドガルト・マイスナー、折り入って頼みが有るんだ」
俺の雰囲気が変わった事に気付いたエド爺の顔色がみるみる悪くなった。
「リックとベスの兄妹をこれから先も見守って欲しい。やはり信頼出来る人間が傍に居る方が良いからね。だからささやかながら神の祝福を授けよう。残念ながら拒否は受け付けないよ」
俺はエドガルト・マイスナーの身体を蝕む病巣を全て正常な細胞に置き換えた。
ついでに、寿命が延びる様に小細工もする。
これで少なくともリックが成人になるまでは寿命で亡くなる事は無い。
ああ、『神罰』という言葉以外にも、『悪魔』という言葉もこの世界には無かったな。
もしかすれば、俺は初代の悪魔になったかもしれないな。
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