第2話 過去
俺は独身のまま35歳という若さで日本の病院で病死をした。
我慢強過ぎたのか、自覚症状は有りつつも仕事に打ち込んだ挙句に倒れて、担ぎ込まれた病院で幾つかの最新の機械を使った診察を受けた時には手遅れだった。
入院して1週間後にはそのまま儚くなったのだから、覚悟も何も出来ないまま亡くなった訳だ。
ただ、運命は第二幕を用意していた。
或る存在から第二の人生を持ち掛けられたのだ。
人類は数十万分の一という確率で、他の特定の世界線に適応するらしい。
実際、これまでの十万年間で延べ数十万人分の人類が送りこまれたそうだ。
理由は2つ有る。
1つ目は人類の保護だ。
自力で宇宙に進出した知的生命体は三桁の単位で確認されているらしい。
だけど、絶滅している知的生命体の方が圧倒的に多く(ほとんどは遺跡を残しているが生命体としては居なくなっていた)、今も現存する知的生命体は希少らしい。
確か宇宙の年齢は137億年かそこらで地球のそれは46億年だったから、そりゃあ人類よりも先に知的生命体が誕生している方が多いだろう。人類は後発組と考えたら、ちょっとしぼむけどな。
で、地球人類は保護対象らしい。
宇宙にまで手を伸ばせている現存する知的生命体は本当に貴重だからな。
例え本家本元の地球の人類が自身の愚かさ故に滅亡しても、分散しておけば一度に絶滅はしない、と言う考え方というか対策は理解出来る。
もう1つの理由は、手っ取り早く他の世界線の惑星に知的生命体を根付かせる為だ。
上手く行けば新天地でまた宇宙に手を伸ばすかもしれんしな。
もっとも、接触して来た存在が従っている規則により、神隠しでは無く、死亡後に死体の完全なデータを造られて、死亡原因を取り除いた複製体をこちら側の一定の範囲内に転移させられるらしい。生きている間の拉致は絶対ダメって事かな?
複製体を造る際には改修も入るらしい。
代表的なのは、生きる為に必須の消化酵素と免疫系の追加と強化、それと魔法を使える様に魔素対応の細胞へと改修が施される。
特に魔素対応の改修で、「魔力」と「命力」を体内で生成可能になるので、魔法を司る精霊に魔法発動を要請出来るようになる。
この2つの改修が可能な体質を持つ人類が、数十万人に一人という確率らしい。
そして俺なんだが、数憶分の一という確率の体質だったらしい。
その世界でのエリアボスクラスの上位精霊レベルの能力を付与出来るという話だった。
で、そんなある意味逸材の俺だが、他世界転移の権利と交換条件で仕事を頼まれた。
今は不遇の、と或る幼い兄妹を、彼らが天寿を全うするまで庇護するというお仕事だ。
そういう役目をこなせる上位精霊たる大精霊は全て土着しているので、今回の場合は使えないらしい。
ただし、ぼかして伝えられたが、狙いは兄妹の庇護だけでは無い。
普通に考えれば俺の方が先に寿命を迎えるんだが、大精霊レベルの能力を付与された段階で少なくとも数百年から千年くらいは生きられる身体になるらしい。エルフかな?
35歳までしか生きられなかった事を考えれば、破格の報酬と思ってしまったのは仕方が無い事と思わないか?
改修後、身体を慣らす意味も有り、特別に用意された閉じた空間で魔法の習熟をしていると、思わぬ副産物が有る事が分かった。
神格付与も可能という副産物だ。
もし永遠に生きる事になるなら却って断ったんだが(人間の精神は永遠の命に耐えられ無いと思う)、数千年で寿命が来るらしいので、寿命が有るならと言う事で神格付与も受け入れた。
まあ、神様の端くれ程度なんだが、八百万の神が居ると言われる日本で育ったが故の気軽さで了承したんだ。
ほら、一神教的な厳格さを求められなくて、ある意味緩い神様なら大丈夫って思わないか?
で、お仕事の具体的な内容だが、俺を異世界転移に誘った存在からの説明では、と或る大精霊の庇護下にあった一族の末裔がその地域を含めた一帯を治める王族の一部から難癖を付けられて、先祖伝来の領地を召し上げられて困窮しているらしい。
その困窮している末裔というのが両親を事故で亡くした10歳の男の子と4歳の女の子と言うんだから、酷い話だ。
一応王都に在る王家が後援する孤児院に入れられたんだが、その孤児院も失政の影響で最近になって閉鎖の憂き目に遭ったとか。
本当に酷い話だ。
そんな俺の反応を見て、主犯の神様モドキが伝えた言葉が『善い父親になりそうだ』だった。
「良い」ではなく「善い」と表現する所が神様モドキ流ジョークなんだろう。よく分からんが。
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