第27話 6日目ー1


 召喚状を持った近衛騎士の訪問は早朝だった。


 首謀者が持っている辞書には「迷惑」という言葉が載っていないんだろうな。

 もし載っているのなら、その項目を1文字も欠ける事無く丸暗記する事をお薦めしたいものだ。

 


「ジョージ様、願わくば御慈悲の御心を賜りますように」


 ほら、エド爺が悲壮な顔をしてしまっているじゃないか。


 俺に傅くエド爺の姿を見て、エド爺の家の玄関前に並んだ近衛騎士4名が怪訝な表情を浮かべている。


 全く。本当に首謀者は迷惑な奴だ。


 ただ1人の我儘のせいで、この星の人類史に残るかもしれない出来事がこれから起こるかもしれない。

 それは大惨事かもしれないし、大災害かもしれないし、神の起こす奇跡なのかもしれない。

 元日本人なんで、俺としても、本音を言えば意味も無く波風を立てたく無いんだ。

 穏便に行きたい気持ちの方が大きい。


 ただなぁ・・・

 今回は色んな意味で見逃せないんだよな。

 

 第一、人類社会の政治という小さな側面で考えても、大精霊が庇護を与えていたドムスラルド領という、この国にとっての宝物庫を失った責任も取らせない、というのは見過ごせない。

 このまま行くと、国が傾きかねないし、バタフライエフェクトによって、他の国にとんでもない影響が及ぶかもしれない。


 これから起こる事を例えるなら、人類は「おくるみ」を失う可能性に直面するという事だ。


 赤ちゃんにとって、「おくるみ」に包まれるというのは、母親の胎内に居るかの様な安心感を得られる魔法具と言える。

 知的生命発生惑星監視カミサマモドキシステムが人類の前に顕現した時の影響で「八柱」もの神像が造られる程、人類は何度も神の庇護を受けて来た。


 なんせ、魔法が使えたとしても、この地の人類は地球上で実現した様な飛び抜けた存在に成り切れていない。


 本能的に魔法を使える魔獣の脅威が大きいのは確かだ。

 どれだけ脅威かと言えば、毒蛇を例にすれば分かり易いか。

 地球の毒蛇は噛んで毒を獲物の体内に送り込むが、こちらの毒蛇は魔法の力で毒を弓矢のやじり状で固く形成して、人間の皮膚に突き刺さる位の速さで50㍍先に飛ばす事が出来る。


 人間の狩人もビックリだ。



 その他にも、ラノベ風に言うと、斬撃を飛ばす虎モドキ、風魔法を纏える猿モドキ、テーザー銃以上の威力を持つ電撃を使いこなす犬モドキ等々、脅威だらけだ。


 それらの魔物が何らかの原因で大量発生したら、知的生命発生惑星監視カミサマモドキシステムが手を貸さなければ人類が滅んでいてもおかしくなかった世界だ。



 それと、魔法と言う便利なツールに頼り切っているせいで科学技術や色んな知識が発展しきれていない点も見逃せないな。

 それは50歳台に届いていない平均寿命を見れば明らかだ。


 そんな人類にとって、今はもう居ないが創造神や、創造神の後を継いだ知的生命発生惑星監視カミサマモドキシステムという母親の庇護を失う事も有る、という新しい概念を受け入れる事が出来るんだろうか?



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