第14話 4日目ー3


 まずは1番大きな岩の前に移動する。

 この空き地のシンボルでもあるんだが、地中に埋もれている部分を含めると軽く100㌧を超える。

 他も数十㌧クラスがゴロゴロしているが、まずはコイツからだ。


 何気なく周りの気配が増えたので、目を上げるとギャラリーが集まって来ていた。


 スラム街のまとめ役のエド爺と、元領主の子供たちを危機から救い出したとされる魔法尉が揃っていたら興味も持たれるかな。

 

 早目にここの作業を済まさないと雑草採取に出掛けたお母さんたちが帰って来るからな。サクッと済まそう。


 金属魔法で岩の中に混入している鉄、銅、鉛、亜鉛、更には極微量の金と化合している物質ごと固定する。

 その状態で土砂魔法で巨岩を土にしてしまう。


 長年、誰もがどうにも出来なかった巨岩が一瞬で崩壊した事に驚きのどよめきが背後で起こった。

 魔法と言うよりも大掛かりな手品、そう、「イリュージョン」に見えたかもな。


 金属魔法で固定している金属化合鉱石を足元に集めると、30㌔くらいの量になった。

 意外なところで各種金属を手に入れる事が出来たのは嬉しい誤算だ。

 まあ、鉛は身体に悪いし、すぐに使う予定が立たないんでしばらくは死蔵だろうけどな。

 一方、亜鉛が手に入った事は大きい。

 防錆メッキにも使えるし、合金の元にもなるし、人体の必須微量栄養素の1つだ。


 地表に一部が出ている他の巨岩も同様の処理を施していく。

 

 さあ、次は地下室群の邪魔になる地中の巨岩群に手を出そうとしたところで、雑草採取を頼んでいたお母さんたちが帰って来た。

 思ったよりも早く帰って来たな。


 うーん、仕方ない。

 地上に置いていた鉱石の小山を収納して、小屋を設置する場所を確保する。

 次に、小屋と周辺の地面を平坦にしてから硬化させる。この辺も人類の属性魔法との違いだな。人類が同じ事を精霊に頼んでも魔力が抜けると元の土に戻るからな。

 

 まあ、地中に埋もれている巨岩群を処理する時の事を考えると二度手間だが仕方ない。


 今となっては死語となった「レディース&ジェントルメン」と呼びかけたいところだが、敢えて無言で次のイリュージョンを披露しよう。


 地面からゆっくりと石造りの小屋が生えて来る様に見える具合に空間収納魔法を使った。


 更に増えたギャラリーのどよめきとざわめきが止まらない。

 『創造の男神ザビナオーレ』の名前や、山を平地に変えたと言われる『大地の男神ドズナオーレ』の名前が聞こえるけど無視だ。


 ま、おひねり代わりの御褒美として神力がまた増えた事は嬉しいけどね。

 

 小屋が完全に姿を現したところで、ギャラリーの方を向く。

 うん、やり過ぎたな。完全に崇拝の対象だ。

 みんな、俺に向けて跪いている。

 エド爺、君はこっち側に居て欲しんだが?



「エド爺、感動しているところ申し訳ないけど、取り敢えず雑草採集から戻って来た人をここまで連れて来てくれないかな?」


 俺が声を掛けると、エド爺が正気に戻って、立ち上がってくれた。

 病魔に侵されていた影響は見えないね。うん、元気そうな動きだ。



「分かりました、ジョージ様。みんな、後ろに居る者を通してくれ。雑草を採集して来た者は前に出て来てくれ」


 大掛かりなイリュージョンを見せられて興奮していたみんなの顔が一斉にキョトンとした。

 何故、ここで雑草が出て来る? という疑問符クエスチョンマークが頭の上に浮かんで見えるよ。


 最初に辿り着いたのはマイケルと6歳の男の子アルバート君を泊めてくれたマリアンヌさんだった。

 40歳台前半で、瘦せているのに何故かふくよかと思わせる雰囲気のマダムだ。

 きっとおおらかで優しい人柄なんだろうな。



「ジョージ様、これ、お願い致します」

「大変だったでしょ? ありがとうございます」


 麻袋とファインセラミックス製の鎌を返して貰った。刃毀れはしていないから気を付けて使ったんだろうね。

 鎌の方はそのままエド爺に渡しておく。

 麻袋の中にはびっしりと雑草が入っていた。重さにして6㌔は有るな。

 

「小麦粉でも、小麦のままでも選べるけど、どっちが良いですか?」


 一瞬考えた後で選んだのは小麦のままだった。

 まあ、パンにするよりもスープに入れてボリュームを増やす方が簡単か?

 スープに入れるならスペルト小麦かな?


「ちょっと待っていてね」


 と声を掛けて、小屋に入って雑草を地球で袋入りで売っているスペルト小麦モドキに変質させて、新しく造った麻袋に移し替えた。

 いつもの小麦粉と違う匂いがして、連想の様におなかが空いている事に気付いた。

 お昼に近いからな。


 昼食をどうしよう?

 


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