第9話 3日目ー4
出発してしばらく経った頃にふと、あの
普通、石造りの小屋が忽然と消えるなんて有り得ないからな。
まあ、
大人の足では30分くらいの距離だが、小さな子供も居るのでゆっくりと歩いて行く。
この辺りは丘陵地帯な為に農地にはなっていないが、地力は有るので15㌢から20㌢くらいの雑草がびっしりと生えていた。
そして、よく見ると明らかに植物を引き抜いたと思われる空白地帯があちらこちらに点在している。
多分だが、俗に言う薬草を採集をした跡だろう。
もしかすれば食べられる雑草も採取されているかもしれない。
日本に居た頃はわざわざ食べた事が無かったが、俗に言う雑草にも食用になる雑草が有るらしい。
となれば、こちらの世界でも同じ様な雑草が有ってもおかしくない。
まあ、美味しさや腹持ちの点で劣るから、こちらの主食の地球の小麦に似た穀物とは比較にならない量しか流通していないと思うが。
誰とも会わなかったので正解は不明だが、「役に立つ=金になる」植物が有れば有るほど、俺の力を使わずに済むし、今後の生活の足しになるかもしれないな。
取り敢えず、せっかくなので食料や布にする素材として雑草を集めながら2時間近くかかって、外壁沿いのスラム街が遠くに見える丘に辿り着いた。
途中で赤ちゃんを抱いているベッキーや年少組の疲労を考えて何回か休憩もしたし、時間としてはこんなものだろう。
幸いな事に夕方頃にはスラム街には着きそうだ。
今の時点で見える住居は粗末なバラック小屋ばかりだが、無秩序に建てられていないせいか、思ったよりも整然としている印象を受けた。
しかも、興味深い事に、俺たちを遠くから見掛けた住民の1人が奥の方(首都の外壁方向)に急いで向かって行った。
意外と自治がしっかりとしているのかもしれないな。
その後も歩いて、もうすぐスラム街という所まで来た。
だが、敢えて、スラム街には入らずに、住民の反応を待つ。
もしかすれば、排他的かもしれないからな。無策に入って石でもを投げられると、子供たちの情操教育に悪い。
ただ、様子がおかしい。
何というか、まさか? という雰囲気が漂っている。
5分ほど待っていると、60歳代後半に見える人物が、伝令役の住人に連れられてやって来た。
苦労をしているのだろう。顔には皺が深く刻まれていて、険しい表情をしている。
しかも病的な程に痩せこけている。
服装は他の住民と同じ様な質素な麻の衣類だ。何となく縄文人の復元図を思い浮かべてしまった。
その男性は、ある瞬間から或る一点だけを見ていた。
その視線は、俺の右隣に居るリックに釘付けだった。
1歩近付くごとに表情が崩れて行く。
反応に困っていると、あと3㍍という所まで近付いた時に、急に右膝を地面につけ深く頭を下げた。
意味を掴む前に、リックが思わずという感じで声を上げた。
「エド爺か?」
それほど大きな声では無かったが、周りが異常に静かだった為に男性の耳にも届いたのだろう。
「
頭を上げた老人の頬に涙が流れ落ちた。
「リカルド様がご立派になられて、爺は嬉しいですぞ。もしやフローラベス様もご一緒に?」
安全確保の為に後ろの方に控えていたベスをリックが呼んだ。
周りの雰囲気を感じて不思議そうな表情を浮かべながらベスがリックの横に来ると、エド爺と呼ばれた老人の涙腺が決壊したかの様に涙が溢れて、落ちた。
「アリステレス様によく似ていらっしゃる」
その頃には、住人が次々とエド爺の後ろで同じ様な格好をし始めた。
着ている服とか衛生状態を見ただけで、楽な生活をしていない事が分かる。
かと言って、どうしようもなく生活に困窮しているという風でも無い。
王都内で見たスラム街とは、明らかに活気と生活水準が違う。
もっと、こう、苦労している暮らしと言う想像をしていたのだが。
それはともかく、目の前の光景を見ると、意味も無く、王の帰還、という言葉が頭を
リックとベスは今も旧領の住民に慕われているんだな。
だとすれば、思わず意味も無く嬉しくなるな。
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