第24話 5日目ー9


 エド爺は夕方になってから戻って来た。

 

 俺が悪性腫瘍を完治させていなかったら倒れていてもおかしくない程に疲れた表情だった。 

 呼び出しの内容は分かっているので、対応策を協議するのは夕食を摂った後にして、取り敢えずは帰宅する事にする。

 


「エドじい、きょうね、ベスね、ちょうちょおいかけてたなの」


 ベスが帰り道にエド爺に今日の出来事を報告している。

 よほど楽しかったのだろう。俺にも散々話してくれた内容を、同じテンションでエド爺に話している。

 精霊+が2羽も憑いているからか、視える様になって来ているのだろう。

 まあ、元々、大精霊ドムスと触れ合っていたから、普通の精霊は無理でも、中位の精霊に進化した精霊+の姿を捉える事が出来るのかもしれない。



「ほう、それは凄いですね、フローラベス様」

「ベスなの。ベスとよんでなの」

「おお、それは失礼しました、ベス様」


 何故かベスがムフウ!という感じでドヤ顔になった。


「きれいなの、あかくなったり、あおくなったりするの。えどじいにもこんどみせてあげるの」



 うーん、流石に無理かな?

 大精霊ドムスの庇護を受けていたのと、精霊と親和性が高いベスだから視えているだけであって、エド爺には視えないだろう。

 まあ、魔力の波長が合えば視えるらしいけど、十万分の一以下の確率らしいから無理だろう。

 それに、精霊+はステルスモードになれる。

 現に王城に呼び出されたエド爺に憑けた精霊+は透明になって今も胸の所に留まっている。

 神力を扱える人間は居ないから、魔力波長の合わない人間相手なら完璧に姿を隠せる。


 もっとも、大精霊ゴックスにはバレたがな。

 

「おお、それは楽しみです、ベス様」



 ベスの独演会は家に着くまで続いた。

 

 今夜のおかずは、子供が大好きなハンバーグにしてみた。

 うん、異世界でもハンバーグは子供に受けた。

 リックもベスも大喜びだ。


 エド爺も思わぬ美味しさに一口目で動きが止まったくらいの出来だったからな。

 こちらでは手に入らないナツメグを使ったとは言え、ごく普通のハンバーグがこれだけ受けたから、これからも時々アレンジを変えて出してみよう。


 パッと思い付くだけでも、大葉と大根おろしを使った和風ハンバーグだろ、トロリと絡むスープが堪らない煮込みハンバーグだろ、チーズ・イン・ハンバーグも良いかもな。


 スープはコンソメ味に替えたが、これも好評だった。


 今日の炊き出しを手伝ってくれた奥様衆の話では、スラム街では塩くらいしか手に入らないから、味付けは9割以上が塩だけらしい。残り1割も2種類のハーブでそれらしくする程度らしい。

 もし日本の調味料を創造出来なかったら、と考えると恐ろしい気がして来た。


 どうりで、歓迎の宴で出て来た料理が全部同じ味に感じた訳だ。


 それと奥様衆はこうも言っていた。

 ドムスラルド領はハーブ類の名産地でもあったそうで、そこで採れていたハーブ類が懐かしい、と。

 バジルやローズマリー、ラベンダーやローレル、ミント、コリアンダー等などに似たハーブ類が豊富に採れて、味付けや香り付けの他にも薬草や飲料としても利用されていたそうだ。


 ドムスラルド領が廃棄されたせいで、他の領が潤っている面も有るけど、ドムスラルド領の穴埋めになる程は採れないから品切れ気味らしい。



 やたらと美食グルメチートを強調する異世界転生小説は苦手だったが、自分がその立場になって分かった。


 日本は本当に美食の楽園だったんだな。

 


 俺が神様の端くれで無かったら、きっと、塩味が続く食事が苦痛になってしまって、ホームシックで泣き暮らすところだった。




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