第8話 また一つ、旅の目的が見つかる
その後、落ち着いたら二人の名前を聞く。
男の子の方が十二歳の兄でアルト、女の子の方が十歳の妹でエルルというらしい。
「アルトにエルルじゃな。儂の名前はシグルドといい、こっちの狼はオルトスという」
「ウォン!(よろしくなのだ!)」
「シグルドさん? ……た、助けてくれてありがとう!」
「わんちゃんも、ありがとうございました!」
「ククーン……(わんちゃんではない、我は誇り高きフェンリルなのに……)」
二人がきちんと姿勢を正し、儂に向かって頭を下げてきた。
礼などを求めていたわけでははないが、中々に好感が持てる子供達じゃ。
きっと、親御の教育が良かったに違いない。
……オルトスの嘆きは、可哀想だが無視するとしよう。
「それより話を戻すが、子供二人でこんな森で何をしていたのじゃ? 近くに親や連れの者は?」
「え、えっと、俺たちだけだよ!」
「お、お母さんのお薬取りに来たの!」
「ふむ……詳しい話を聞くとしよう」
その後、たどたどしい説明を聞いた。
要約すると母親の薬の原料を手に入れるため、冒険者ギルドに依頼に行った。
しかしその薬の原料は森の奥の方にあり、労力に見合う報酬は出せなかった。
故に二人で森の中を探索していたということらしい。
冒険者とは依頼を受けて仕事をする自由業なので、彼らを責めることはできない。
「ふむ、そういうことじゃったか。よし、わかった。儂が代わりに取ってくるとしよう」
「えっ!? いいの!?」
「ねえねえ、このお兄さん強かったよ! これでお母さんも助かるね!」
「そ、それは……い、妹を代わりに売るとか言わない?」
すると、兄の方が妹を守るように儂の前に立つ。
そして毅然した瞳で、儂を見つめてきた。
うむ、いい兄じゃな。
「そういう輩がいたのかは知らんが、儂にはそんなつもりはない。ただし、無料というのも怖かろうな……よし、儂に何か美味いものをご馳走しておくれ。それを報酬としよう」
「そ、そんなことでいいの? ……お願いします!」
「あ! あのね! お母さん料理上手なの! 私も手伝うから!」
「決まりじゃな。では、その原料を探しに行くとしよう。歩きながらでいいので、説明をしておくれ」
そして、再び森の中を歩いていく。
どうやら、目当てのものは森の奥深くの岩山にあり、道中には魔獣などもいると。
ちなみに妖魔と魔獣は別物で、魔獣は四つ足で人類と共存する生物。
妖魔は二足歩行で、人類と明確に敵対する存在だ。
故に妖魔に出会ったなら、必ず倒さなければならない。
「魔獣か……話の通じる相手だといいが。オルトス、お主に任せよう」
「ウォン!(うむっ!)」
そして、歩いていると妹のエルルに疲れが見えてくる。
それも当然、子供の足で町からここにくるだけでも大変じゃったろう。
「うぅー……足痛いよぉ〜」
「が、我慢しろって! せめて、足手纏いにはならないようにしないと……」
「でもお腹も空いたよぅ……」
「そりゃ、俺だって減ってるけど……」
これは儂の配慮が足りなんだ。
見たところ痩せているし、十分な栄養も取れていないのかもしれん。
「これはすまんかった。少し休憩を取るかのう」
「で、でも、急がないと!」
「慌てるでない。腹が減っては何とやら、というじゃろ? 急いては事を仕損じる、ともいう」
「……どういう意味?」
「ははっ! お主達にはまだ難しかったか! つまりは……焦って動いても良いことはないということじゃ。そういう時こそ、冷静に動くべきともいう」
儂の言葉に二人が顔を見合わせる。
「……うん、そうかも」
「わたし達、黙って出てきちゃったからお母さん心配してるよね」
「シグルドさんに会わなかったら死んでたかもしれないし……」
「そういうことじゃな。というわけで、まずは食事を取ろう。というより、儂が腹が減ったわい」
すると、二人がクスクスと笑う。
やはり、子供は笑顔が一番じゃな。
そうと決まれば善は急げともいうもので、儂は急いで準備に取り掛かる。
といっても、いざという時のために買っておいた串焼きじゃが。
すると、それを見た二人の目が輝く。
「わぁ……! 袋から串焼きが出てきた!」
「すげー! 湯気が立ってる! これ、魔法袋ってやつだ!」
「ほほっ、中々に珍しいからのう。さて、これを二人で食べると良い。言っておくが、遠慮はいらん」
「「うん! ありがとう!」」
「良い返事じゃ。オルトス、食事の間の護衛は任せるぞ」
「ウォン!(わかったのだ!)」
二人はお腹が空いていたのか、ものすごい勢いで串焼にかぶりつく。
「お、おいひいよぉ〜!」
「な、泣くなって!」
「グスッ……だって、最近はこういうの食べてなかったから」
ふむ、どうやら母親以外にも理由がありそうじゃな。
「村には食料がないのかのう?」
「え、えっと、魔王? とかを倒すために若い人達や冒険者達が少なくなってるんだ。俺たちの父さんも、二年前にそれで死んじゃった」
「それもあって、冒険者さん達もわたし達の依頼を受けてる場合じゃないって……」
「そういう事じゃったか」
……儂はなんと愚かじゃ。
魔王を倒し、それで全てが終わったと思った。
しかし、そんなわけがない。
魔王を倒すために多くの者が死に、戦う者達のために税を徴収してきたのじゃろう。
むしろ、大変なのはこれからじゃ。
荒れた土地に住む者、貧しい日々を過ごした民達にとっては。
「シグルドさん? どうして悲しそうな顔をしているんだ?」
「……いや、自分に嫌気が差してのう」
「ねえねえ、それよりお兄さんはどうしてお年寄りみたいな喋り方なの?」
「それは俺も気になってた!」
儂は自己嫌悪を抑え込み、聞いてくる二人に適当に返事をする。
この子達はある意味で、儂らの戦いの犠牲者だ。
そして自分が騎士を目指す時、何を誓ったのかを思い出した。
ロイス様に対して、儂は弱き者のために剣を振るう騎士になりたいと願ったのじゃ。
何も目的がない旅と思っていたが、どうやら目標がまた一つ見つかったようじゃ。
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