第16話 再会は突然に

 やはり、ゴブリンの数が多いのう。


 こんな町の近くだというのに、森に入ってすぐに十匹を簡単に倒してしまった。


 無事に依頼を終えた儂は、帰り道にそんなことを思う。


「魔王が死んで北の大地から、この地にやってきたか?」


「ウォン(あり得るのだ)」


「だが、倒さないという選択肢はなかった……しかし、儂の責任でもあるか。ふむ、各地にいる妖魔退治も旅の目的に加えよう」


「ウォン!(手伝うのだ!)」


「うむ、共に戦うとしよう」


 そんな会話をしつつ、町の近くに戻ってくると……門の前が騒がしいことに気づく。


「何やら騒がしい?」


「ウォン!(主人、門のところにアルトがいるのだ!)」


「ふむ、ならば急ぐとしよう。何か嫌な予感がする、オルトスもついてこい」


「ウォン!(わかったのだ!)」


 オルトスに目配せをし、儂は急いで門へと駆けつけた。

 非常事態かもしれないので、今回はオルトスも連れて行く。

 すると、すぐにアルトとロハン殿が気づく。


「あっ、シグルドさん!」


「これはシグルド殿……その狼は?」


「あぁー、後できちんと説明するとして……それより、何があったんじゃ?」


「……そうですね、今はこちらが優先ですか。実は、アルト君の妹であるエルルちゃんが攫われてしまったらしいのです」


「何と……」


 すると、アルトが儂の足にしがみ付く。

 そのか弱い力とは裏腹に、熱い気持ちが伝わってくる。


「シ、シグルドさん……! 俺、何にもできなくて……! お兄さんなのに、妹を守れなかった……!」


「アルト……」


「じ、自分では何もできなくて……こんなこと頼める人、シグルドさんしか」


 儂は泣きじゃくるアルトの頭をそっと撫でる。

 それ以上、この子に言わせないために。


「安心せい、儂が必ず見つけ出す」


「シグルドさぁぁん……!」


「だから泣くでない。それに、お主にもできることがあろう」


「お、俺にも?」


「そうじゃ、現場と犯人の顔を知っているのはお主だけなのじゃから」


「そ、そっか……泣いてる場合じゃない」


 アルトは、自ら目をこすり涙を拭う。

 その顔はさっきとは違い、やる気に満ちていた。

 それを確認し、儂はロハン殿に向き合う。


「ロハン殿、オルトス……我が相棒を街に入れる許可が欲しい。此奴なら、おそらく匂いで辿れるはずじゃ」


「その魔獣をですか……確かに狼系は賢く、従魔に向いておりますが。しかし、未登録ということですね?」


「うむ、左様じゃ」


「そうなると、中々に難しいかと。私が見ても、その魔獣は強いのがわかります。無論、見たところ理知的であることはわかっていますが……」


 ふむ、やはり厳しいか。

 儂としてはゴリ押しは好きではないのだが、あの紋章を使うべきか?

 そんなことを考えていると、後ろから馬の足音がした。

 その馬は止まることなく、門へと迫ってくる。


「な、何奴!?」


「待ってくだされ! あれは……ユーリス!?」


 儂はロハン殿を手で制する。

 何故なら、馬に乗っていたのは我が息子のユーリスだったからじゃ。

 ユーリスはそのまま、儂の横に馬をつけて下馬する。


「全く、貴方って人は……まだ王都を立って数日なのに問題を起こしたのですか?」


「わ、儂は何もしとらんぞ!」


「はいはい、わかりました……失礼、私は王宮騎士団所属のユーリスと申します。まずは、私にもお話をお聞かせください」


「その銀の鎧は、確かに王宮騎士団の方……! では、私から再度ご説明をさせて頂きます」


 そしてロハン殿が、ユーリスに事の経緯を説明する。

 その間、儂はアルトと向き合う。

 オルトスも邪魔をしないように、儂の側で伏せをしていた。


「アルト、よく話の邪魔をしなかったのう」


「……だって、俺が何か言ったらそっちの方が邪魔になるかと思って」


「ほほっ、それがわかっているだけ上等じゃよ」


 儂が思っている以上に、アルトはしっかりしているようじゃな。

 そういえば、ユーリスを拾ったのもアルトくらいの歳じゃったか。


「あの人は誰なの?」


「儂のむす……弟分のようなものじゃな。儂の信頼する男の一人じゃよ」


「良いなぁ……俺もなりたい」


「ほほっ、お主も努力次第ではなれるわい。ところで、どうして門の前にいたのじゃ?」


 時間が惜しいので、状況確認だけはしておかねばなるまい。


「えっと、エルルが攫われて……母さんに知らせに行ったんだ。母さんは騎士団がいる方に行って、俺は何かできることあるかなって……そしたら、シグルドさんのことが浮かんだんだ。情けないけど、人を頼ることしか浮かばなかった」


「いや、それで正解じゃ。お主はまだ幼く弱く、頼ることは決して恥ではない。本当の恥は、自分の弱さを認められないことじゃ」


「自分の弱さ……」


「お主はエルルを助けるために、必死に考えたのじゃろう? もしお主が一人で行動して、何かあれば二次被害になるところじゃった。何より、エルルを助けるのが遅れることになる」


「……俺、ちゃんと出来てた?」


「ああ、良き判断であった」


 そんなやりとりをしていると、話を終えたユーリスがやってくる。


「シグルド様、話は聞きました。ひとまず、オルトスを入れても良いと許可が下りました。私の銀の鎧が、それを保証いたします。私がいることやその他については後にして、まずはその女の子を探しに行きましょう」


「うむ、事は一刻を争う。ユーリスよ、感謝する」


「あ、ありがとうございます!」


「いえいえ、それでは行きましょうか」


 その後、ロハン殿に騎士団と町の人々へのオルトスの知らせを任せた。


 途中で別れ、儂らは現場へと向かうのじゃった。

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