第17話 騎士の誓い
現場に向かう間に、ユーリスから軽く事情を聞いた。
どうやら、儂が紋章を見せたことがロハン殿を通じて領主に伝わったらしい。
そして真偽を確かめるために王都に知らせが行き、何か問題が起こったと思いユーリスがやってきたと。
「なるほど、そうじゃったか」
「無論、それだけではありませんが……シグルド様が疑われたように、最近は人攫いが問題になっているのです」
「……なんじゃと? 儂は聞いておらんが」
「貴方は十日ほど、眠っていましたから。本当はお伝えしようと思ったのですが、これから自由になる貴方に負担をかけないようにと……王妃様が」
「そうか、ユリア様が……やれやれ、そんな気配りができるようになっておったか」
「後で言っておきますね」
「やめんか! ほれ、さっさと行くぞ!」
儂らは走る速さを上げ、裏路地に向かう。
アルトをオルトスが乗せていることもあり、あっという間に到着する。
「ここだよ!」
「なるほど……オルトスよ」
「ウォン!(任せるのだ!)」
森から帰る際、オルトスはエルルを乗せていた。
故に、おそらく匂いがわかるはず。
このことを予期していたわけではないが、不幸中の幸いというものか。
オルトスの邪魔をしないように、少し下がって様子を見る。
アルトは気になるのか、オルトスの側を離れない。
「して、人攫いとな?」
「実はそれまでも問題になっていたようなのです。ただ戦時中ということもあり手が回らず。あとは親を亡くした子供達がいなくなるのは良くあることだったので……私がそうであったように」
ユーリスは親を戦争で亡くし、何もかもを奪われて街に居られなくなったとか。
行くあてもなく彷徨っているところを、北の大地を彷徨っていた儂に拾われた。
そして、そのような境遇の者は珍しくなかった。
皆、自分のことが精一杯で他者を気にかける余裕がなかったのじゃろう。
「ふむ、そういうことか。して、どうして明るみに出た?」
「戦争から帰ってきた兵士達の中に、家に子供や妻がいない者がいたのです。しっかりと仕送りをしたのにも関わらずに。そして搜索した結果……中には、既に奴隷にされていた者もいたとか」
「……なんということじゃ」
その兵士の絶望たるや、筆舌に尽くし難かろう。
家族や民のために戦い、苦労して生き残り戦地から帰ってきたというのに。
それは、あんまりというものじゃ。
「ええ、本当に」
「それで、犯人の目星は?」
「一部の貴族の連中が関わっているのではないかと……その、自分の趣味嗜好のために」
「……クズめが……!」
アルトが側にいなくてよかった。
こんな話は聞かせたくないし、儂の今の顔は見せられない。
「シグルド様……お気をお鎮めに」
「わかっておる……なるほど、アルトが攫われなかった理由はそれか」
「ええ、恐らくは。殺されなかった理由まではわかりませんが」
「ふむ、その辺りは後で調べれば良い。とにかく、一刻も早く救い出さねば……っと、オルトスも終わったようじゃな」
儂とユーリスは気持ちを切り替え、オルトスとアルトの元に行く。
「ウォン!(匂いの跡を見つけたのだ!)」
「よくやってくれた。では、儂らをそこに案内してくれ……の前に、アルトよ」
「な、なに?」
「お主は家に帰ると良い」
「えっ!? お、俺もついていくよ!」
儂がそう言うと、アルトは反対の意を示す。
その反応はわかっていたが、ここは押し通してもらおう。
「ここからは大人の仕事じゃ。お主がいると、下手をするとエルルを助けるのが遅れる……わかるな?」
「お、俺が弱いから?」
「そうじゃ。強い気持ちがあっても、それを成す強さがない」
「……っ! で、でも、俺はお兄さんで!」
「わかっておる。だが同時に……ローザ殿の息子でもある。そして、エルルは彼女の娘であるのじゃ」
儂の言葉に、アルトがハッとした表情を浮かべた。
どうやら、少しはわかったらしい。
「お主の母は不安で仕方なかろう。それを支えるのが、息子であるお主の役目ではないのか? それとも、母に更なる心配をかけるのか?」
「俺まで行ったら、母さん心配するよね。ただでさえ、エルルが攫われて不安なのに……俺、父さんにエルルと母さんのこと頼むなって言われたから……」
「安心せい、エルルは儂が必ず助ける。お主はその間、母を守るのじゃ」
「わかった! 俺は母さんに平気だよって励ます! シグルドさんが、きっと助けてくれるって……だから、どうかエルルを助けてください!」
「うむ、任されよう——我が騎士の誓いに懸けて」
そうじゃ、儂は……弱き者の代わりに戦うために、騎士を目指していたのだ。
それがユリア様を守ること、魔王を倒すことで忘れておった。
……この約束は果たさねばなるまい。
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