第21話 旅立ち
ユーリスを見送った儂は、ローザ殿の家へと向かう。
すると、その前でアルトとエルルがオルトスとじゃれ合っていた。
「ウォン!(こっちなのだ!)」
「待てって!」
「待て待てぇ〜!」
その姿は、儂やユーリスといる時とはまた違う。
まさしく、子供といった表現が正しい。
やはり、儂らに合わせて大人ぶっていたのであろう。
「……やれやれ、父親失格じゃな」
「ウォン!?(主人!? こ、これは違うのだ!)」
儂に見つかって慌てふためくオルトスに、ゆっくり近づく。
そして、その頭を優しく撫でてやる。
「オルトス、良いのだ。お主は慌てて大人になることはない。お主が大人になるその日まで、儂はのんびり待つとしよう」
「……ククーン?(……主人、それまで死なない?)」
「約束はできんが、前のように死んでも良いなどと思わんと誓おう」
「ウォン!(約束なのだ!)」
「ああ、そうじゃな」
此奴を焦らせたのは、間違いなく儂の責任じゃ。
これからは、ゆっくりと成長させてやろう。
そして、そのためには……。
儂はオルトスから離れ、アルトと向き合う。
「アルトよ、お主は今でもついていきたいと思っておるか? 母親や妹は数年は会えないかもしれんぞ?」
「つ、ついていきたい! そりゃ、寂しいけど……ここで行かなかったら後悔する気がするんだ!」
その目は真っ直ぐに儂を見つめていた。
まるで、若き日のユーリスのように。
「そうか……強くなる目的は見つかったか?」
「……俺、弱いの悔しかった。結局、薬を取ってくれたのはシグルドさんだし、エルルを助けてくれたのもシグルドさんだ」
「ふむ……」
「だから俺は……いざという時に、誰かを守れる強さが欲しい。それを成し遂げられる強さが……こんな理由じゃダメかな?」
不安そうに顔を上げるアルトに対し、儂はアルトの頭に手を置く。
「いや、良き理由じゃ。自分のための強さなど、高が知れている。もちろん、それで極める者もいるが……儂は個人的には好かん」
「え、えっと?」
「つまりは、合格ということじゃ。儂にとってな……儂は、そういう者が好きじゃよ」
「つ、ついて行っても良いってこと?」
「ああ、そうじゃ。行っておくが、ついてくるからには甘やかさんぞ?」
「う、うん! 俺、頑張るよ!」
そう言い、満面の笑顔を見せる。
ふと視線を感じて振り向くと、玄関の前でローザ殿がいた。
その目は、その子をよろしくお願いしますと言っていた。
……やれやれ、また生きる目的が増えてしまったのう。
だが、悪くはない気分じゃな。
◇
それから更に数日後、いよいよ再び旅へと向かう。
目指すは東の地域、国の目が行き届かない場所だ。
王都の近くでこのような行為があったということ、それは離れた地ならどうだろうか。
おそらく、何かしらの問題があるじゃろう。
儂はできる限り、それをどうにかしたいと思っている。
……陛下やユリア様には悪いが、それが儂という生き物じゃな。
「まあ、それ以外にも目的はある。美味いものを食い、良い景色でも見に行こうかのう」
「シグルドさん! 俺の特訓も!」
「ウォン!(我と遊ぶのだ!)」
「二人共、わかっておるよ。さて……ローザ殿、世話になった。エルルも、元気でな」
門の前で改めて二人と向き合う。
既に別れは済ませているので、二人の顔は笑顔だ。
ただし、エルルの顔には涙の跡が残っている。
それでも、兄を応援すると決めたのであろう。
「シグルドさん、アルトをよろしくお願いします」
「お、お兄ちゃんをお願いします!」
「うむ、任されよう。立派な男に鍛えてみせるわい」
すると、エルルが儂の服を掴んで見上げてくる。
「ま、また会えるかな!?」
「もちろんじゃ。アルトを無事に連れて、ここに戻ってこよう」
「うん! 約束! 私、それまでに料理の腕をあげておくの!」
「ほほっ、そいつは楽しみじゃな!」
また一つ、約束をしてしまった。
しかし、それは未来への嬉しい約束だった。
それを食べるためにも、ここに戻ってこよう。
最後に儂は、アルトへと問いかける。
「さて……アルトよ、良いのか?」
「うん、もう大丈夫……もう、嫌ってほど泣いたから」
「そうか……では、参ろうか」
「ウォン!(行くのだ!)」
「行こう!」
そうして、儂らは門を出ていく。
ここでの出来事が、儂に未来を与えてくれた。
これからが、儂の第二の人生の始まりじゃ。
さてさて、どんな出来事が待っているかのう。
役目を終えた英雄はただ立ち去るのみ~若返った老騎士のセカンドライフ~ おとら @MINOKUN
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