第14話 冒険者ギルド
翌朝、儂はすっきりと目を覚ます。
窓を開けて日差しを浴び、四肢を伸ばして体をほぐす。
これは日課でもあるのだが……あることに気づいた。
「……あんなに食べたのに、ほとんど胃もたれもしとらんとは。いやはや、若さとは恐ろしいのう。白飯なんか、三杯は食べたというのに」
「シグルドさん、おはよう!」
「お兄さん、おはよう〜!」
振り向くと、朝から元気な二人がいた。
「おはよう、二人共」
「ねえねえ! お腹すいたから早く!」
「朝ごはん〜! 朝ごはん〜!」
「ほほっ、流石に若さでは負けるかのう」
二人も昨日はよく食べていたが、まだまだ足りないようじゃ。
そのまま急かされるように朝の支度を済ませ、四人で朝食の席に着く。
朝食はパンに、肉と葉物野菜などが挟まったものだった。
「こんなものですまないね」
「いや、実に美味そうじゃよ。このパンに挟まってる肉は、トンガの肉かのう?」
「ああ、そうだよ。肉を細切れにして、ケープの腸で包んで焼いたものさ」
「ほう、それは楽しみじゃ」
それらはシルフィード家や、北の大地でも食したことがある。
ケープという羊の一種の腸に、余った肉を粉々にして詰めたものだ。
すると、アルトとエルルから視線を感じる。
「そうか、儂が食べないといかんのか」
「そうだよー!」
「お兄さん、早く早く!」
二人にせがまれたので、急いで口に運ぶ。
先に固いパンの食感がきて、後から肉の脂がジュワッと口の中に広がる。
それが固いパンをほぐし、丁度いい塩梅となった。
肉の腸詰は一度茹でてから焼くことで、中はしっとりと外側はパリッとしている。
間に挟まるレタスが、良い仕事をしている。
「つまり……美味い!」
「ふふ、それは良かった。ほら、二人も食べなさい」
「「いただきます!」」
「美味しい! もう一個食べたい!」
「美味しい〜! 私も!」
「やれやれ。ひとつ食べ終わってからになさいな」
その姿を見た儂も、恐る恐る手を挙げる。
「……儂ももう一個食べたいのじゃが」
「はいはい、わかってるよ。ったく、作り甲斐がある子達だね」
「……子って、儂は大人なのじゃが」
「老成してたって、私から見たら子供だよ。ほら、追加のパンだよ」
……そうじゃった、今の儂の姿は二十代中頃じゃったな。
その後、一足先に食べ終えた儂は、二人が美味そうに食べるのを見つつ確認をする。
いつまでも、ここでお世話になるわけにはいかんしのう。
「ローザ殿、昨日言った通りトンガの残りは譲るので好きに使ってくれ」
「本当にいいのかい? これだけあれば、それなりの値段で売れるけど……ましてや、シグルドさんは魔法袋を持っているし」
「うむ、構わん。宿代と飯代と思ってくれ」
「いや、明らかにこっちが得すぎるよ」
「なに、儂もこの子達に教えられたことがある。だから、良いんじゃ」
自分がこれから何をしたいか、今まで何を成してきたか。
そして、昔の自分の夢を思い出させてくれた。
「そうなのかい? ならいいけど……とりあえず、好きなだけ泊まって行っておくれ」
「それは助かる。それでは、有り難く世話になるとしよう」
「それで、今日はどうするんだい?」
「ひとまず、冒険者ギルドに登録しようかと思う。それまでは傭兵業のようなことをしていたのでな。ちなみに昼飯は適当に食べるので心配せんでくれ」
「そうかい。それじゃ、夜ご飯だけ用意しとくね」
すると、食べ終えたアルトが目を輝かせていた。
「冒険者登録するの!? 俺も……あっ」
「まだ答えが出ておらんじゃろ? なに、儂はすぐには出て行かん。焦らずに、答えを見つけるといい」
「……うん」
儂はアルトの頭を撫でてから席を立つ。
そして、そのまま家を出るのだった。
◇
街の中を散策しつつ、目的地である冒険者ギルドに到着する。
中に入ると左側にカウンター席があり、多少の飲み食いはできるようだ。
右側には掲示板があり、張り紙がしてある。おそらくあれが依頼表なのだろう。
儂はそれらを確認しながら、一番奥にある受付に向かう。
「すまない、冒険者登録がしたいのじゃが」
「それでは、こちらにお名前と出身地と特技などを書いてください」
「うむ、わかった」
儂はすらすらと文字を書いていく。
名前はシグルド、出身地はシルフィード領、得意武器は剣と。
書き終わったら、受付に返す。
「これでいいかのう?」
「少し検索するので待っててください」
「何か不備があったかのう?」
「いえ、犯罪者履歴にないか確認しないといけないのです」
「おっと、そうじゃった。うむ、それは大事じゃな」
冒険者とは自由な職業で、ギルドは大陸のあちこちにある。
ギルドカードがあれば、国や街の出入りが楽になる分、意外と審査は厳しい。
犯罪者はもちろん、何か問題を起こせば剥奪されるとか。
その後、問題なく審査は通り、儂は名無しと書かれた冒険者カードを受け取る。
「冒険者については知っていますか?」
「うむ、大体は。掲示板に張っている依頼をこなしたり、ダンジョン探索や未開の土地の探索を功績として、位を上げていくのであっているかのう?」
「はい、それで大体合っているかと。上から白銀等級、金等級、銀等級、鋼等級、銅等級、鉄等級、石等級、名無しとなります。昇格するには自分の位の依頼をいくつか達成し、ギルドが昇格に相応しいか判断いたします。ちなみに、自分の一つ上の位までは依頼を受けることが可能となっております」
確か白銀等級は、大陸にも数えるくらいしかいないんじゃったか。
金等級にはあったことがあるが、かなりの強者だった記憶があるのう。
儂もやるからには、上を目指してみるとしよう。
「ふむふむ、丁寧な説明に感謝する。では、儂は名無しと石等級の依頼を受けて良いのか?」
「説明は足りず申し訳ありません。名無しの方はお試し期間でもあり、こちらの指定の依頼を受けて頂きます。そして、それを失敗するような方は冒険者に向いていないと判断いたします」
「いや、それは当然じゃな。すぐに辞められたりしても手間がかかるしのう」
「ご理解いただき感謝いたします。それでは、こちらが指定の依頼になります」
「ふむふむ」
儂は目の前に差し出された紙を眺める。
そこにはゴブリン討伐と、薬草採取の依頼が書いてあった。
「最弱の妖魔と言われるゴブリンも倒せないようであれば、冒険者にはなれません。そして、基本的な薬草の見分け方もわからないと冒険者として苦労するでしょう」
「そうじゃな。奴らは何処にでもおるし、探索中に怪我でもしたら薬草が必要になるじゃろうな」
「ええ、その通りです。精霊使いの方などがいれば話は別なのですが……そうはいきませんから。本当なら、いてくれると助かるのですけど」
「それはそうじゃろうなぁ……死亡率は間違いなく下がるじゃろう」
水の精霊使いは、回復魔法を扱える。
しかし精霊使い自体が貴重であり、ましてや高度な回復魔法を使える者はさらに限られる。
なので基本的に、回復や治療は薬草や手動で行うことが普通だ。
何より、そんな人が冒険者になることが少ない。
大体が教会か、良い待遇で国に雇われるじゃろう。
「ええ、仰る通りです……それでは、これにて説明を終わりにいたします。何か質問はございますか?」
「従魔について聞きたいのじゃが……」
確か冒険者の中には、魔獣を相棒として活躍する者が少なからずいると聞いたことがある。
それを受ければ、オルトスも街の中に入れるかもしれん。
「従魔は最低でも鉄等級からになっております」
「なるほど……最低でも、本人がそれくらいの強さは持っている必要があると」
「ご理解いただき感謝いたします。従魔に負んぶに抱っこでは、従魔が死んだ時に困りますから。それを込みで位が上がった場合、本人には見合わない位になってしまいますから」
「いや、当然の話じゃ。受付の方、丁寧な対応に感謝する。それでは、早速行ってくるとしよう」
「いえ、こちらこそ温厚な方で良かったです。では、お気をつけて」
儂は軽くお辞儀をしてから、その場を後にするのだった。
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