第19話 成敗
……殺さずを貫くのもしんどいわい。
いやはや、ユーリスがいてくれて助かった。
儂らの前には、悶絶して倒れている兵士達が多数いた。
殺してはいないが、流石に骨の一本や二本は折れている者もいる。
「ふぅ……こんなものかのう」
「そうですね、粗方片付いたかと。しかし、こうしてシグルド様と共に戦えるとは。そして、その強さは今まで以上ですか」
「若い分、体が動くからのう……むっ」
その時、オルトスから魔力のパスが届く。
言語ではないが、歓喜の気持ちが伝わってきた。
つまり、作戦は成功ということじゃ。
「ユーリスよ、オルトスがやってくれたようじゃ。これで……証拠もあり、遠慮はいらんか」
「ええ、そうですね。後は貴方の思うままになさってください、尻拭いは私がしましょう」
「うむ……感謝する」
長い付き合いからか、儂の内なる激昂に気づいたようだ。
儂は戦いに個人的な感情は入れないように心がけておる。
たが、しかし……この手の手合いには容赦はせんと心に決めていた。
その気持ちを胸に抱き、儂は屋敷へと入っていく。
「ほぅ、これは……」
「オルトスも張り切っていたみたいですね」
そこには足を押さえて蹲る兵士達の姿があった。
儂との約束通り、誰も殺してはおらんようだ。
彼らがどこまで関与していたかは、後で調べるとしよう。
すると、エルルを乗せたオルトスがやってくる。
「おおっ、エルルよ!」
「お兄さんだぁ!」
その笑顔に曇りはなく、まだ何も酷いことはされてないようだ。
それは、不幸中の幸いと言っていい。
「オルトスよ、良くやった」
「ウォン!(うむっ!)」
「シグルド様、この子はどうしますか?」
「そうじゃな……」
すると、後ろからロハン殿が騎士を連れてやってくる。
「こ、これは……」
「ロハン殿、たった今、動かぬ証拠を見つけたところじゃ」
「……仰る通りですね。いえ、以前から怪しいという噂はあったのです。しかし、中々手を出し辛く……」
「貴族相手では仕方あるまい」
間違っていてごめんなさいではすまない。
最悪、言った側が不敬罪で殺される可能性もある。
それほど、貴族と平民の命の重さは違う……悲しいことにな。
「お兄さん! 他にも女の子いるの! 私がいた地下の部屋の別のところ!」
「何? ……確実じゃな。ロハン殿、そちらは任せても?」
「はっ、我々にお任せください」
「感謝する。オルトスよ、お主はエルルを連れたままロハン殿についていけ。エルルがいれば、女の子達も和らぐであろう」
「ウォン!(わかったのだ!)」
話し合いを終え、ロハン殿やオルトスは地下の通路へ。
反対に、儂とユーリスは階段を上っていく。
すると、上がってすぐの部屋の中に震えているメイド達を見つけた。
「ひぃ!?」
「おっと、すまん。お主達に手を出すつもりはないのじゃ。この屋敷の主は、何処にいるかのう?」
「こ、この通路を言った先の大きな扉の中にいます……」
「わかった。ちなみに、すぐに衛兵達が来るので逃げない方が身のためじゃよ」
メイドはこくこくと頷いたので、静かに扉を閉める。
ユーリスと顔を合わせ、奥の通路を進み……一際目立つ扉を見つけた。
「ここじゃな、中から人の気配がする」
「ええ、待ち構えていそうですね」
「ユーリスよ、我が背中……お主に預けるぞ」
「っ……! はっ、お任せください」
ずっと側にいた頃は分からなかったが、もうユーリスは立派な騎士じゃ。
この短い動きでも、成長が伺えた。
きっと儂が眠っている間も、鍛錬を積んだに近いない。
……いや、儂がいたから成長を阻んでいたのかも知れんのう。
ユーリスを死なせたくない故、魔王との決戦の時も後方支援させてしまった。
「シグルド様?」
「いや、何でもない。ユーリス、精霊魔法を使うことを許可する」
「室内でですか?」
「うむ、中の気配から察するに何か嫌な予感がする」
「なるほど……畏まりました」
「それでは——参るとしよう」
儂は覚悟を決め、思い切り扉を開ける!
そして、目の前の光景を見て……己の判断が正しかったことを知る。
「ユーリス!」
「はっ!」
何故なら、目の前には弓を構えた兵士達がいたからじゃ。
中心には、ぶくぶくに肥えた男がいた。
おそらく、あれが屋敷の主だろう。
「き、来たぞ! 早く撃てぇぇぇ!」
「し、しかし……く、くそぉぉ!」
その声に兵士達は躊躇いながらも弓を引く。
しかし、その行動は遅い。
「風の精霊よ、眼前の矢を撃ち払いたまえ!」
儂らに放たれた矢は、ユーリスの起こした風により床に散らばる。
そう、ユーリスは風の精霊使いでもある。
だからこそ、儂の従者となり共に辛い旅をしてきた。
「なっ!? せ、精霊使いだと!?」
「シグルド様!」
「うむっ!」
その混乱を突き、一気に相手に迫り……鞘の部分で兵士達の手を打ち付ける!
ごきっという鈍い音がし、兵士達の手から弓がこぼれ落ちる。
「ぐぁ!?」
「がっ!?」
「これで、弓は引けまい。お主達には、儂らに対する躊躇いがあった。故に、手首を切ることはしない。ユーリス、そいつらを縛りあげてくれ」
「畏まりした」
其奴らはユーリスに任せ、儂は腰が抜けて尻餅をついている男に近づく。
よく見ると年齢は若そうだが、情けない体型をしている。
その目には、傲慢さが見て取れた。
「お、お主ら! 私を誰だと思ってる!? 伯爵位を持つ、ボルーノ様だぞ!」
「ほう、伯爵位を持つ者か。お主こそ、何をしている? 幼き少女をさらいおって。言っておくが、証拠はあるので言い逃れはできんぞ?」
「ふん、貴様ごときに証拠を掴まれたところで痛くも痒くも無いわ!」
「ほう? これを見ても同じことが言えるかのう?」
「なんだ、それは……まさか」
儂が紋章を見せると、顔色が変わっていく。
虎の威を借る狐のようで悪いが、ここは使わせて頂こう。
きっと、このような時のために渡されたと思う故に。
「国王陛下の代理人……!? あ、あれは勝手に奴らが連れてきただけだ!」
「ここはお主の屋敷じゃろ? お主の許可なく、勝手に連れてくるのか?」
「そ、それは……」
儂の問いより、相手の目が泳ぐ。
どうにかして、言い逃れをしようとしているようじゃな。
「どうした?」
「……あ、あんな、平民の少女一人減ったところで何だという! 私のような高貴な者の役に立てることを有り難く思うのが筋だろう!」
「この——貴族の風上にも置けぬ屑が!」
「く、屑……!? 私に向かって何という口を! その紋章を持っていようが、私は王都に懇意している方がいるのだ!」
「それはいいことを聞いた。では、それは後ほど聞くとして……」
儂は剣を抜き、相手に迫る。
「な、何をする? 馬鹿な真似はよせ!」
「わかっておる、お主を殺すような真似はせん」
「そ、そうだろ、そうだろ、何せ私にはあの方がついている」
「だが、それでは儂の気が済まん……潰れろ」
「な、なにを——っ〜!!!!」
儂は剣ではなく、鞘を男の股間に振り下ろした。
カエルが潰れるような音がし、男が声にならない声を上げ……泡を吹いて気を失うのだった。
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