役目を終えた英雄はただ立ち去るのみ~若返った老騎士のセカンドライフ~

おとら

第1話 魔王対英雄

あと少しで妖魔を統べる者、闇の神に魅入られし魔王を倒せる。


もう、この場には儂しか生き残りはおらん。


ここでとどめを刺さなくては、此奴はまた逃げ出して回復してしまう。


今、ここで——儂がやらねば。


儂は剣を構え、最後の一撃を放つ!


「これで終わりじゃ!」


「グフッ……わ、我が負けるとはな……流石は英雄シグルドよ」


儂の剣は、弱っていた魔王の身体を見事に貫いた。

もはや、此奴に助かる術はないはず。


「……儂の勝利ではない。これまで死んでいった仲間達、そしてここにいるまで支えてくれた仲間達のおかげじゃ」


「そ、それが人間の強さよな……だが、同時に弱点でもある。貴様は、私を倒したことで居場所を失うだろう。必ずや、英雄など邪魔になる……人は弱く醜い、貴様は人に絶望することになるのだ」


「元より承知の上。この老いぼれ、今更地位や名誉など求めておらん。老兵は、静かに消え去るのみよ」


「そ、そこまでの覚悟が……だが、まだ我は死なぬ!」


その時、魔王の身体が光り輝く!

そして何かの結界が発生し、儂を吹き飛ばした。


「くっ!? な、何を……!?」


「フハハッ! 残念だったな! 我は妖魔の王にして闇魔法を極めし者! 幼体に還り、再び生を受けようぞ!」


言っている意味はわからないが、一つだけ確かなことがある。

此奴を、このままにはしておけない。

儂は老いた体に鞭を打ち、力を振り絞って立ち上がる。

そして、奴に向けて駆け出す。


「させてなるものかァァァァ!」


「クク、無駄な事を……この状態に入れば、何人たりとも我を傷つけることは……はっ!?」


すると、魔王の表情が変わる。

そう、儂を吹き飛ばした結界がある限り、奴に触れることは難しい。

だが、一つだけ可能性が残っていた……そう、儂が刺した剣だ。

その柄の部分だけが、結界の外側に出ていた。


「気づいたようじゃな?」


「や、やめろォォォ!」


「魔王——覚悟!」


儂は柄の部分に、渾身の力を込めて飛び蹴りをした。

すると剣がめり込んで行き……結界が弾ける!


「グァァァァァ!?」


「くっ!?」


お互いに吹き飛ばされ、魔王は地面を転がって仰向けになる。

儂は膝をつきつつも、どうにか持ちこたえた。


「かはっ……わ、我の転生の術が解かれただと? これでは、復活ができない……!」


「……なるほど、そういうことじゃったか」


魔王とは度々現れてきた災害。

人族の中から数百年に一度現れ、闇の精霊魔法を使い妖魔を操り人々に厄災をもたらす存在。

何故倒しても現れるのか不思議だったが、どうやら蘇りの呪文があるらしい。


「わ、我が死ぬ? ……こんな人間ごときに……」


「お主の怠慢じゃな。儂らを殺そうと思えば、いつでも殺せたものを。それを、人が苦しむのを楽しんでいるからじゃ」


此奴に対して慈悲はない。

儂らの仲間を殺し、数名だけを生かしたりして遊んでいた。

そしてとどめを刺さずに、ほどほどで去っていた。

きっと、転生という切り札があったからなのだろう。


「わ、我が消える? ……ふざけるなァァァァァ!? ならば、せめて貴様だけでも……くらえっ!」


「な、何をしたのじゃ?」


丸い球体が飛んできて、儂の体の中に入っていった。


「ククク……我が幼体の術の残滓を貴様にかけた。これで、貴様は時を遡り消滅するのだ。我以外では、転生はできんからな」


「……ふむ、そうか」


魔王を倒せた今、別に死を恐れることはない。

むしろ、仲間達に会えるというものだ。


「自分が縮んで消滅していく様を恐怖して眺めるがいい……我は……見ることが叶わんのが残念だ」


「ふんっ、今更ジタバタなぞせんわい。ようやく、お主の面ともおさらばじゃ」


「……あぁ、我が消える……人間に復讐するために生きてきた……我の番が来たということか」


そうして、魔王は砂になって消えていった。

これで、長きに渡る戦いが終わった。


「結局、名前も知らなんだ。何十年も戦っていたというのに……くっ!?」


その時、儂の身体中に痛みが走る。

どうやら、魔王の言う通りらしい。


「……後のことは部下達に任せよう。儂の役目は、これで終わりじゃ……主君よ、今行きますぞ」


そして、耐えきれないほどの痛みが来て……儂は意識を手放すのだった。


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