4話 一連の事件の黒幕 第6章完
俺は奏さんに呼び出され、ある倉庫に向かった。奏さんによると倉庫の中に夏実が監禁されているという。俺は急いで倉庫の中に入った。すると夏実が手足を縛られた状態で椅子に座っていた。
「夏実!大丈夫?」
すぐに縄をほどいた。夏実は生きていた。
「夏実さんを誘拐したのは夏実さんの彼氏さんですよ」
奏さんは言う。
「え?」
「この前、武昌さんから彼氏さんのある違和感を聞いたので彼氏さんをこっそり尾行していたんです。そしたらここに夏実さんがいました」
そう。俺は奏さんに夏実の彼氏(拓人)と話した時の違和感を話していた。その違和感とは初対面で話した時の「俺の所にも助けてって送られてきたんですよね」という言葉だった。俺は夏実から『助けて』と送られてきたことをまだ拓人に話していなかった状況で拓人はそのことを知っていたのだ。この小さな違和感を奏さんに電話で伝えていた。
「何で彼氏さんが夏実を?」
「危害は加えてないと思いますよ?ご飯とかもちゃんとあげてたみたいですし」
「というと?」
「もしかしたら夏実さんが頼んだんじゃないですか?」
奏さんは夏実を問いただす。
「え、どういうこと?何で夏実が誘拐してくれって頼む必要があるの?」
俺は頭の中がハテナでいっぱいだった。
「おそらく夏実さんが今回の一連の事件の黒幕だからです」
「え!?一連の事件って。家に死体があった事件から?」
「ええ。そうですよね?夏実さん?」
奏さんは夏実にそう聞く。夏実は諦めたように口を開いた。
「ええ。そうよ。私が武内寛介、いや、私の実の父を殺したの!」
「知ってたの?母さんの不倫のこと」
「母さんが部屋でコソコソ話してたから気になって耳を済ませたら全部聞こえてきたわ。私は母さんが不倫して生まれた子供だってことも。だから彼氏に頼んで寛介の居場所を突き止めてもらった。寛介を問いただしてもアイツは反省をしてなかった。むしろ開き直ってきたの!だから私、その場で殺しちゃって、、」
「その場って?」
「寛介の家よ!そこから彼氏に頼んで車で寛介の遺体を運んで私たちの家に持ってきた」
「何でわざわざうちに持ってきたの?」
「事件を大きくするためためよ!マスコミに騒いでもらって私の母さんが不倫してたってことを世間に知らしめるため!復讐よ!」
「そんなことして何になるんだよ?」
「私はアイツらのせいで心に傷を負ったのよ?復讐して当然でしょ?母さんに世間からの批判を浴びせたかったのよ!」
「俺が週刊誌に事件のことを話すように彼氏を誘導したのも夏実なの?」
「ええ。アイツは私の言う通りに動いてくれた。最終的にアンタがネットで犯人扱いされて誹謗中傷に耐えかねて自殺してくれたら一番都合良かったんだけどね」
「何で?俺にも復讐したかったの?」
「こうなったら一家心中みたいなもんよ!あの女はどうせほっといてもそのうち死ぬでしょ。アンタが犯人扱いされて死んでくれれば私の完全犯罪だったのよ!」
夏実はそう言って泣き出した。泣きながら奏さんに聞いた。
「何で私が犯人って分かったんですか?」
「ネット記事のリプライだよ。『タケナミウツチ』ってアカウントが武昌さんを犯人に仕立て上げるようなリプライしてから世間の目は武昌さんに傾いたからね。あのアカウントの主が武昌さんを犯人に仕立て上げたい人物なのだろうって推測はできた。そしてタケナミウツチを並び替えるとタケウチナツミになることに気づいた時にピンときたんだよ。夏実さんの本名、武内夏実のアナグラムなんじゃないかって」
「なるほど。さすが名探偵ですね」
夏実は泣きながら奏さんが呼んだ警察に連行されて行った。俺は夏実の後ろ姿をただ見つめることしかできなかった。
数日後。俺は奏さんにお礼のお金を払いに探偵事務所へ行った。そして疑問をぶつけた。
「でも何で夏実はわざわざ自分の本名のアナグラムでリプライしたんでしょうかね?すぐバレちゃうかもしれないのに」
「本当は誰かに気づいてほしかったんじゃないかな?愚かな自分の存在に。それか母親の不倫のせいで武内夏実という名前になったことへの憎しみを世間に伝えたかったのかもね」
夏実の本当の気持ちは分からない。想像でしかない。ただ、夏実が母さんの不倫を知ってしまったことに俺が気づいていれば。俺がもっと夏実を気にかけていれば。この事件は起きなかったのではないだろうか。俺が兄として不甲斐なかったばっかりに!
俺は今でも自分を責め続けている。
〜完〜
ミステリー短編集 yama @yamu1222
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