2話 母への疑惑

 俺と夏実は母さんの入院している病院へ行き、母に色々聞いた。


「あのさ、母さん!警察から色々話は聞いてると思うんだけど。俺の家に死体があったのね。その人の名前、武内寛介って言うんだけど知ってるの?」



母さんは目をそらして答えた。



「知らないわよ?そんな人」



それが嘘ついてることくらいすぐに分かった。


「嘘だよね?お願い!正直に答えて。何で俺の家で殺されたのか、真相を解明したいんだ!」



母さんはしばらく黙り込んでいたが俺の熱意に負けたのか、重い口を開き始めた。


「母さん、昔仕事してたでしょ?それこそ、武昌がまだ小さい時に。夏実が生まれてからは育児に専念するためにやめたけど。その仕事してた時に同じ部署だった先輩よ。凄く面倒見の良い先輩だった。仕事やめてから会ってなかったんだけどね。その人がいきなり自宅で死んだなんて聞いたからびっくりしちゃって、、」



「なるほどね。教えてくれてありがとう!」



帰ろうとした時、夏実がヘルパーさんに質問した。



「ちなみにお母さんは昨日の夜、ずっと病院にいました?」



「ええ。私がずっと着いていたからね。途中寝ちゃったけどその間は看護師さんが交代で早苗さんの側にいたの!」



「わかりました。ありがとうございます!」









 帰り道。俺は夏実に聞いた。



「さっきの質問、母さんのアリバイを確認したのか?」


「ま、まあね。合鍵持ってて被害者と面識あったなんてミステリー小説では犯人の第一候補なわけだし。一応念の為ね?私は母さんが犯人じゃないって信じてるよ?」


「だよな。まあとにかく母さんのアリバイは証明できた。となると誰が何のために殺したのか全く分からなくなったな、、」


「私たちのお父さんって今どこで何してるんだろう?」



「確かに。父さん、鍵持ってたり、、ってなわけないよな」


一瞬、蒸発した父さんが母さんから合鍵を借りてやった線を考えたが父さんに母さんの同僚を殺す動機が全く思い当たらなかった。それに何年も前に蒸発した父さんがいきなり現れるとも考えられなかった。



 俺は警察の事情聴取を受けた優香を安心させるため、夏実を先に家に送り届け、優香の家へ向かった。



「大丈夫だった?」


「うん。武昌の方こそ大丈夫なの?家で殺人があったんでしょ?」


「ああ。正直何が起きてるのか分からなくて怖いんだ。合鍵持ってる人で優香の名前出したのは優香を信じてるからこそだよ?」


「わかってるよ。大丈夫。事情聴取もすぐ終わったから。早く犯人捕まるといいね」


「うん。優香も何かあったらすぐ電話してね!」



俺はそう言って優香の家を出た。優香の顔が見たかったし優香と話すことで俺自身も心が落ち着いた。







 家の近くまで帰ると隣人の下田さんが家の前に立っていた。


「おかえりなさい。ちょっとお時間よろしいかしら?」



「何ですか?」



「あなたのお母さんの秘密知りたくない?」



知りたかった。母さんへの疑惑を潔白にするためにも。


「本当のことなら知りたいです」



「本当のことよ?これ、見てちょうだい!」



そう言って下田さんが渡してきた一枚の紙。俺はそれを見て鳥肌が立った。



なんとその紙はDNA鑑定の結果報告書だった。そして俺の父さんと夏実は血のつながりがないことが判明した。



………ということは?………



「俺と夏実は血がつながってない、?」


「そうよ。あなたのお母さんから相談された時は本当にびっくりしたわ。まさかあなたのお母さんが不倫して作った子供が夏実ちゃんだったなんて。そんなの知ったらお父さんがいなくなるのも無理ないわよねえ?」



頭が真っ白になった。



………もし自宅で殺された武内寛介さんが母さんの不倫相手だったら、、?

父さんが寛介さんにいまだに恨みを持っていたとしたら?………






点と点が繋がる…!


俺はすぐに母さんの病院へ戻った。もちろん夏実にこの事実を伝えたら夏実を怖がらせてしまうかもしれないので夏実には言わずに。


病院へ着いたらすぐに母さんにDNA鑑定書を見せつけ問いただした。母さんはすぐに口を開いた。



「ええ。そうよ。私は寛介さんと不倫してしまった。私と寛介さんの間に生まれた子が夏実よ。」


母さんは悪びれる様子もなく、そう語る。流石の俺も怒りが湧いてきて、ついきつい言い方で返してしまった。



「ふざけんなよ?じゃあ父さんは?俺は父さんがそのことを根に持ってて殺した可能性を疑ってるんだけど」



「それは、、多分ないわ。1ヶ月くらい前にあなたの家に帰ってた時に父さんから電話がかかってきたの。あなたにも夏実にもバレないように自分の部屋に籠もってコソコソ電話に応対したんだけどね。父さん、病気を患ってもう長くないって言ってきたの。それで久しぶりに昔の妻に電話したかったって。もう過去の事だから恨んでないって言ってくれたわ。」



「その話、本当かよ?」



「本当よ。父さんが嘘ついてるかついてないかくらい私分かる。夫婦だったんだから」



「今さら夫婦ズラするなよ。不倫したくせに!父さん、俺たちの住所知ってるの?」



「流石に知らないと思うわよ。だから今回の事件は父さんが犯人じゃないと思う!」



母さんはそう言い切った。しかし、母さんの言葉を聞いて俺の中では父さんは容疑者に浮上してしまった。



その時だった。俺のスマホに夏実からのメッセージが届いた。





『助けて』



俺はそのメッセージを見て急いで家に戻った。家の鍵は閉まっていたが窓ガラスが割られていた。




「夏実!夏実!」



何度名前を呼んでも返事はない。夏実は何者かに誘拐されてしまったのだ。
















_______________________


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!このお話には明確に犯人とその動機が存在しますので是非考察しながら読み進めていただけたら嬉しいです。登場人物が多くてキャラの相関など難しいかもしれませんが犯人予想などコメント欄に書いていただけたらとても喜びます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る