第6章

1話 密室殺人

 キャー。


 妹の悲鳴で俺は目覚めた。悲鳴の聞こえたリビングの方へ駆けつけると妹の目の前に死体があったのだ。


「え、何これ!」


「わからない!起きたらここに死体があったの!」



パニックだった。いきなり家に男の死体があったら誰だってパニックになるだろう。とにかく警察を呼ぶしか思いつかなかった。



 警察はすぐに来た。家は玄関も鍵がかけられていて窓も全て閉まっていた。つまり密室。警察は俺と妹に事情聴取を始めた。



「この家の合鍵を持ってる人はいますか?」



俺はすぐに答えた。


「一応二人います。一人は俺たちの母の中村早苗(なかむら さなえ)。もう一人は今俺が結婚を前提に付き合っている彼女、越智優香(おち ゆうか)です。」



この二人しか思い当たらなかった。一応妹の夏実(なつみ)にも付き合ってる彼氏がいるらしいが一度も家に来たことがないし合鍵を渡していた気配もない。よって合鍵を持っていて家に死体を置くことができる人物は俺があげた二人だけだった。



 警察は男の身元調査をして合鍵を持っている二人に事情聴取をしたらまた連絡すると俺たちに伝えて帰って行った。


 


 俺は気持ちの整理をつけるため、その日は仕事を休むことにして職場に連絡を入れた。彼女の優香にも事の経緯を説明し、警察が事情聴取に来るだろうと伝えておいた。合鍵を持っている人物を聞かれたから二人の名前を出したが二人共、犯人ではないだろうと信じていた。まず彼女の優香は俺の家で殺人をする動機がない。見ず知らずの男を殺して彼氏の家に死体を置くなんてクレイジーなこと、とてもやるとは思えなかった。そして母親にもできないだろう。母親にはできない明確な理由があった。






 ここで俺のことや俺の家族構成を簡単に説明しよう。




まず俺の名前は中村武昌(なかむら たけまさ)。人材系の会社で正社員として働いている。現在26歳。越智優香とは友達の紹介で出会い、結婚を前提に交際している。そして現在は妹の夏実と二人で暮らしている。




妹の夏実は現在19歳。大学生。俺とは7つ離れている。一度も会ったことがないが社会人の彼氏がいるらしい。




 俺たちは親とは離れて暮らしている。まず、俺たちに父親はいない。俺が9歳の時、つまり妹の夏実が2歳の時に蒸発してしまった。それ以来、父の行方は誰も知らない。しかし、顔も名前もハッキリ覚えている。俺の家にあった死体の人物とは全く違うことだけは分かっていた。そして母親の早苗は現在、ヘルパーが付きっきりで病院で暮らしている。歳を取ってから身体が不自由になり車椅子生活をしている。これが俺の母親が今回の事件の犯人ではないと断言できる明確な理由だった。身体が不自由な人間が人を殺せるわけないし、ましてや病院を抜け出していたら病院関係者にバレるだろう。物理的に犯行が不可能なのだ。




では誰がどんな理由で人の死体をわざわざ俺の家に置いていったのだろう。謎は深まるばかりだった。




 数時間後。隣に住んでいる下田(しもだ)さんがチャイムを鳴らしてきた。俺は正直この人が苦手だった。しかし、居留守を使うわけにもいかなかったので仕方なく応対した。


「はい。どうしました?」



「お宅、今朝警察来てなかった?どういうこと?何かやらかしたの?」



「何もしてませんよ!ちょっと色々あっただけで。詳しくは話せません。まあそのうちニュースとかでやると思うんでそれを見ていただければ分かるんじゃないですか」



「だって〜。怖いのよ私は!もしかしたら隣に犯罪をした人が住んでるかもしれないわけでしょ?」



「犯罪はしてません!そこは安心してください」



「てことはあなたのお母さん関係でやっぱり何かあったわけ?」



「お母さん関係?どういうことですか?」



「あら、あなた、知らないの?あなたのお母さんの秘密」



「何の話ですか?」



その時、警察から電話がきた。


「あ、ごめんなさい。電話きたんでまた今度でもいいですか?」



正直下田さんと話すと疲れるので電話を口実に話を切り上げられるのは嬉しかった。そして家に戻り、警察からの電話に応対した。



「もしもし?」



「あ、中村さん!調査の結果、男の身元が判明しました。武内寛介(たけうち かんすけ)という人物で65歳、現在は無職の男の人でした。この人物に心当たりは?」



「いえ、全くありません」



聞いたことすらない名前だった。



「そして合鍵を持っている二人にも聞き込みをしたのですが彼女さんの優香さんはその人物に全く心当たりがない様子でした。しかし、母親の早苗さんは武内寛介という名前を聞くと妙に余所余所しくなりました。こちらの勘違いかもしれませんがもしかしたらこの人物に心当たりがあるのかもしれません。引き続き調査の方を進めていきます」



そう言って警察は電話を切った。俺は警察の言葉を聞いて少し衝撃を受けた。





母さんが心当たりあるってどういうこと!?





その真相を探るべく俺と夏実は母親の入院している病院に向かった。


















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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!このお話には明確に犯人とその動機が存在しますので是非考察しながら読み進めていただけたら嬉しいです。登場人物が多くてキャラの相関など難しいかもしれませんが犯人予想などコメント欄に書いていただけたらとても喜びます!

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