2話  轢き逃げ事故

 菅原ひなた。私はこの名前を本当に聞いたことがなかった。犯人の手がかりになるのだろうか。


奏さんは帰宅するとすぐに『菅原ひなた』で検索をかけた。すると目を疑う物がヒットした。




『5歳の女の子、交通事故で死亡!轢き逃げか?』


といった見出しの記事だった。その記事によると轢き逃げの被害に合い、死んだ5歳の女の子が菅原ひなたという名前だった。3年前の事件らしい。



「どういうことですか!この事故とストーカー、何か関係が?」



「本当に聞き覚えないのですか?」



「はい。この女の子の事も初めて知りました。どういうことなんでしょう?」



「明日、この人の遺族の元に行ってみます?もしかしたら何か手がかりが掴めるかも!」


奏さんはそう提案した。私は全く関係ないと思ったがストーカーがそう呟いたなら行ってみるのも悪くない。そう思って奏さんの提案に乗った。




 翌日。奏さんの車がパンクして走らせることができなくなっていた。



「一体誰がこんなこと!」


「もしかしてストーカーですかね?昨日、奏さんが追いかけたせいで敵だと思われたのかも」



「もしそうだったらかなり執念深い犯人ですね。まあ仕方ない。彩花さん、車出せます?」



「あ、はい!」



こうして私が菅原ひなたの遺族の家まで運転することになった。



………一体3年前の轢き逃げ事件と私をストーカーしてる犯人が何の関係があるのだろうか?もしかして轢き逃げの犯人と私をストーカーしてる犯人が同一人物?でもそれだったら何故私のストーカーをしているんだ?………



そんなことを考えながら運転していたからだろうか。注意が疎かになっていたのだろう。「危ない!」と奏さんが叫んだ。信号が赤だったのだ。私は急ブレーキをかけた。



「考え事しながら運転してると危ないですよ!人轢いちゃったらどうするんですか!」



奏さんは少し怒鳴って注意をしてきた。確かに奏さんの言う通りだ。私まで轢き逃げ犯になってしまうかもしれない。私はその後は落ち着いて運転をした。




 菅原ひなたの遺族の家に着いた。奏さんはひなたの母親であった菅原夏美さんに単刀直入にストーカーかどうか聞いた。



「ストーカー?私はそんなこと、、。」



「ですよね?彩花さんとは関係ないですもんね?」



「ええ。どちら様ですか?」



奏さんは夏美さんにこの家に来ることになった経緯を話した。



「そんなことが。私は元々母子家庭だったのでひなたの遺族は私しかいません。私はストーカーなどしていません」



「そうですか。ちなみに事故はどのへんであったんですか?」



奏さんは事故について詳しく知りたい様子。私はセンシティブな話題なのであまり聞かない方がいいと思っていたが奏さんのペースにのまれてしまっていた。


「この家から少し離れたところですね。駅の近くにイオンモールあるじゃないですか!イオンモールをまっすぐ行った先にあるファミマの近くの交差点です!」


「ああ!じゃあ割りと彩花さんの家に近いところですね!」


確かに私の家の近くにファミマはある。どの交差点なのかも話を聞いただけですぐ分かった。でも…



………轢き逃げ事故なんてあったっけ?………


正直思い出せなかった。私はあまりニュースを見ないタイプなのだが家の近くで事故があったなら流石に情報が回ってくるはず。それなのにその事故は一切思い出せない。そんなに騒がれてなかったのか?



「ちなみに事故の詳細とかって覚えてます?どんな感じで轢かれてしまったとか」



「奏さん!もう聞くのやめましょ?思い出すのも辛いでしょうし」



「いえ、良いんです。犯人まだ捕まってないですし。そうですねぇ、詳細。轢き逃げ犯はすっごく乱暴な運転をしていたんです。スピード違反並みのスピードも出していたと思います。そんな時にひなたが信号を飛び出してしまって。車は止まらずにひなたを交わそうとして反転したんです。それでひなたは吹き飛ばされてしまったんです。そのまま止まらずに轢き逃げ犯は走っていきました。大体こんな感じだったと思います。」



「なるほど。ということはひなたちゃんは、はねられたというより車にかすってしまったという感じですかね?」



「そうですね。飛び出したひなたも悪いと思います。でも明らかにスピード違反してましたし、ブレーキ踏んでくれればひなたは死ななかったかもしれないのに…」



そう言って夏美さんは泣き出した。



「奏さん!もうやめましょ!」



「そうですね。ごめんなさい。嫌なこと思い出させて。」



結局ストーカーの手がかりは掴めなかった。私と奏さんは線香を上げて帰宅した。






 帰り道。私はストーカーの手がかりが掴めなくて内心イライラしながら運転をしていた。そして例の交差点の前まで来た。私の手から汗が滴り落ちる。そんな時、前から女の人が飛び出してきた。私は避けようとハンドルを左に切った。幸い、当たりはしなかったが女の人はよろけた。



「危なかったですね、、」


「は、はい」


とりあえず女性の無事を確認し、車を邪魔にならない場所へ寄せた。


「どうかされました?」


私の様子を心配して奏さんが聞いてきた。



「い、いえ何でもないです」



「ストーカー被害で色々溜め込んでるのは分かりますが僕を信用して吐き出してくださいよ。」


私は今考えていることは絶対に言わないと決めていた。しかし、私の精神は限界がきていた。奏さんは私にそっと寄り添った。


「僕はあなたに依頼された探偵であると同時にあなたの身の回りのことが良い方向に進むよう願ってます。不安があるなら言ってください。味方ですから!」



奏さんにそう言われ、私は菅原家で話を聞いた際に感じた違和感を話してみることにした。



「仮定の話ですよ?まだ確信は持ててないんですけど」


「はい」



「3年前に菅原ひなたちゃんを轢いてしまったのは私かもしれません」

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