3話  告発者      第4章完

 時は遡る。稀咲陣の自殺配信の前日。陣は宝の部屋で、ある紙を見つけてしまった。それは『自殺配信で陣を自殺に見せかけて殺すための計画書』だった。紙には事細かく計画が書かれていた。それを見て陣は恐怖を覚えた。



………自分の一番の親友だと思ってた宝がこんな計画を企てるなんて!………



ショックだった。いくら再生数のためとはいえ、親友の自分まで裏切られるとは思っていなかった。一緒にYouTubeを頑張る唯一の友、陣にとって心の底から信用していた家族以上の存在の宝に裏切られるショックは並大抵のものではなかった。精神的ダメージは計り知れないものでどうせなら計画通りに死んでやろうとさえ思った。



 それでも陣は家族にだけは死ぬ前に一言伝えたかった。そのため、母親に『親友に裏切られたから死にます』とメッセージを送り宝の計画書の写真も一緒に送った。







 翌日。陣は宝の計画通り、煉瓦に頭をぶつけて死んだ。








 陣が死んだ後、宝は計画通り有名ユーチューバーとなった。世間から同情の声が寄せられ続ける宝を陣の母親(町子)は許すことができなかった。


町子はそこで宝の計画書を世間に公表することを決意した。



………悲劇の相方面して。アンタが殺したくせに………



町子はそれから至るところで計画書をアップし続けた。X(旧ツイッター)、インスタ、tiktok、YouTube。様々な媒体を使い、宝の計画書を世間に伝え続けた。しかし、そもそも再生数が少なかったのに加え、計画書は偽装だと言われてしまい、世間の注目は全く集まらなかった。



 そこで町子は考えた。仮面を外し、陣の母親であることを公表したらどうなるだろうか。陣の死ぬ間際のメッセージも晒せば宝が殺人鬼だと信じてもらえるだろう。町子はただ宝に復讐したいだけだった。息子の無念を晴らしたいだけだった。でもそのためには世間の注目を集め、宝を『悲劇のヒロイン』から『相方を殺した殺人鬼』と世間に認識させる必要があった。



町子は覚悟を決め、仮面を外した。



「私は自殺配信で亡くなった稀咲陣の母親です。陣の自殺配信は相方の峰岸宝が計画したものなんです。証拠もあります」



そう言って陣とのメッセージのやり取りを動画にアップした。これにより、世間の声は一気に町子に傾いた。今まで信用されていなかったのが嘘だと言わんばかりに同情の声が寄せられた。そして宝は一気に相方を殺した殺人鬼として世間からバッシングされた。



 その動画の数日後。峰岸宝は陣を殺した容疑で警察署に連行されていった。母親の町子の告発動画は急上昇ランク1位に浮上し、町子は一気に時の人となった。そして町子は思った。





………今まで私を嘘つき呼ばわりしたくせにこの手のひら返しは何?………



 今まで同情されていた人がいきなりバッシングされることもあればその逆もある。それがネットの世界。町子は考えた。




………陣はこんなくだらない世界で有名になるために命を落とさなきゃいけなかったの?もしそうだとしたら有名になる意味って何?………




町子は煮えきらない感情をブログに綴った。しかし、皮肉なことにそのブログがバズってしまう。そしてコメントで同情の声が多数寄せられる。今や何をしても話題になってしまう運命となった。





 1ヶ月後。町子の口座には今までの比にならないくらいのお金が振り込まれた。YouTubeの再生数やブログの閲覧数が伸びたことで広告収入が入ったのだ。この収入が続けば1年で生涯年収を稼ぎきってしまうくらいの金額だった。




………これが陣が有名になりたかった理由なのか………




この時、初めて町子は息子の気持ちを理解した。その後、町子はYouTubeで世間からの同情を集めると共に『悲劇の母親』としてメディア出演も果たした。町子の収入はどんどん増えていった。コメント欄の同情の声のおかげで承認欲求も満たされた。







 町子は息子(陣)の遺影写真を見ながら言う。




「お金と承認欲求。これがあなたがYouTubeで有名になりたかった理由なんだね。お母さん、やっと分かったよ。理解させてくれてありがとう!そして私を有名にさせてくれてありがとう!あなたが自殺してくれたおかげよ。本当にありがとう!」



町子はそう言いながら笑っていた。







                〜完〜

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