3話 真犯人       第1章完

「犯人は…」


父がそう語った瞬間。窓ガラスが割れ、犯人が俺の部屋に入ってきた。女性だった。


「お前の母さんだ!」



「え!母さん?」


確かに母だった。小学生の時、他界した母が今、目の前にいた。顔はあまり変わっていなかったため、すぐに分かった。


「どういうこと?母さんは亡くなったはずじゃ、、」


「母さんは死んでない。実は母さんは精神的におかしくなっちゃって俺と離れて暮らすことになったんだ。おかしくなった母さんをお前が見て悲しまないように死んだって嘘ついてたんだ」


「じゃあずっと生きてたってこと?」


「ああ。」


俺と父が電話でそんな会話していると母が襲いかかってきた。母は言う。


「歩!お母さんが買ったぬいぐるみはどこにやったの?早くそれで遊びなさい。お母さんがせっかく買ってあげたんだから」



「な、何言ってるの?母さん!」 



「母さんはおそらくアルツハイマーを患っている。記憶が正常な時とお前のことを子供だと思う時があるんだよ!今はお前のこと、子供だと思ってるんだ」



「歩!ぬいぐるみはどこ?送ってあげたでしょ?」



「あ、あのぬいぐるみは、、」



「お母さんが買ってあげたのにあなた、床に放置してたじゃない。お母さん、すっごく悲しかったのよ?だからお母さんが預かることにしたの!いつ、ぬいぐるみが無くなったことに気づくんだろうって思って。でもあなたは気づいてくれなかった。だからあなたに思い出してほしくて送ったのよ!ぬいぐるみで遊びなさい!」



「父さん!母さんがおかしくなったのっていつからなんだよ?」


電話越しに聞いた。


「最初におかしくなったのはお前が小学生にあがるちょっと前。この頃はお前への愛情がいきすぎてるくらいだったんだけど徐々にエスカレートしていって。お前の前では必死に隠したり、俺が話をそらしたりしてバレないようにしてたんだけど限界がきちゃって。お前にバレる前に離れて暮らすことにしたんだ!おそらくお前が遊ばなくなったぬいぐるみもお前への愛情がいきすぎて隠したんだろうな。で、最近、アルツハイマーを発症して過去の記憶と混同しちゃってお前にぬいぐるみを送ったんだろうな。自分が買ったぬいぐるみで遊んでほしい一心で。」



そういうことか。俺はやっと納得した。あのぬいぐるみを捨てたか無くしたか、はたまたさっちゃんにあげたのか覚えてなかったのはそれほど俺にとってあのぬいぐるみがどうでもいい存在になっていたのかもしれない。せっかく母さんが買ってくれたのに。だから母さんはあの頃のようにぬいぐるみ遊びをしてほしくて俺にぬいぐるみを送ってきたんだ。でも俺はそのぬいぐるみを燃やしてしまった。もうこの世にはない。



「母さん。ごめん。俺、あのぬいぐるみ、燃やしちゃったよ。もうないんだ、、」


それを聞くと母は狂ったように俺に掴みかかってきた。



「じゃああなたがぬいぐるみになるのよ!私がせっかく買ったぬいぐるみよ?ずーっとあのぬいぐるみであなたは遊ばないといけないのよ!もしないならまた作ればいいのよ!」



そう言ってカッターを取り出して俺の額に俺の名前を刻み始めた。血が垂れる。


「やめて、母さん!」


叫んだ。必死に叫んだ。なのに母は切り刻むのをやめなかった。それどころか、俺の腹をナイフで刺し始めた。


「あなたは一生私のぬいぐるみよ!」



何度も何度も俺は刺された。そしてそのまま俺は息を引き取った。



母は死んだ俺の頬にキスをして言う。



「おかえり!私の大好きな歩ちゃん!もう私から離れちゃダメだよ?」




こうして俺は母と生涯共に過ごすこととなった。

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