幕間 新人メイドB

「よし。ここは終了っと」


 私は……まあ名乗るほどでもないから、仮にB子とでも名乗ろうかな。

 この異世界のお姫様が住む屋敷で、最近雇われたメイドなんだよね。

 前はある会社に勤めていたんだけど、それがもうブラックな所で!

 って、それも今は関係ないっか。


「っと」


 水の入ったバケツを持ち上げて、次の掃除場所へ移動する。

 この屋敷って無駄に広いから掃除するだけでも大変なんだよね。


「……メイド長は私たちの倍はしてる訳だけどね」


 忍野と名乗った私たちの上司、通称メイド長。

 仕事の鬼で細か~い指導まで徹底的に仕込んできた、正直苦手な人だ。

 だけど当の本人が私たちの倍以上は仕事してるから、文句も言えない訳で。

 まあ給料も良い訳だし、理不尽でもないから辞めようとは思わないけどね。


「けど異世界のお姫様か~。皆素敵だったな~」


 初めて挨拶した時、かなり緊張したけど四人とも優し気に受け入れてくれたのは嬉しかったな。

 マリアンヌ王女はザ・王族って立ち振る舞いだけど、私のような下の立場な人間にも優しい。


「あとスタイル凄すぎ。やっぱり良い物食べてるからかな?」


 マナナン王女は本好きで、最近は色んな本の事を聞いて来たりする。


「背が小さいのもあって妹みたいに感じちゃうんだよね」


 エイリー王女はとても活発で、マナナン王女以上に色んな事を聞いて来る。


「一緒にいると楽しいから、全然苦じゃないだよね」


 フェルニゲッシュ王女はとてもクールで、部屋よりもトレーニングルームにいる事が多い。


「立ち振る舞いからしてカッコイイし、男装とか似合いそう」


 四人の王女、そして私も含めたメイド四人。

 それがこの屋敷にいる全員……ではないんだよねコレが。

 飛鳥聖。

 異世界の存在を発表されたと同時に有名となった飛鳥剣の息子さん。

 あの子の事については……ちょっと分からない。

 知ろうにもメイド長から聞く事を禁止されてるだよね。


「けどやっぱり気になるな~」


 匿うにしても他に場所があるだろうし、本人もあまり楽しそうじゃなさそうのも気になる。

 お姫様たちも文句を言っている様子もないし、謎だらけなんだよね。

 A子とC子さんと話し合ってみたけど、二人とも必要以上の事は知らないみたい。

 メイド長が忙しそうにしてる今が本人に突撃するチャンスかも知れないけど、バレた時が怖いので止めておく。

 いま一番可能性が高いのは、四人のお姫様にあの少年が惚れられてるというラブコメみたいな展開。

 お姫さま見てると、正直一番これが可能性が高そうなんだよね。


(っと。噂をすれば)


 そんな事を思って歩いていると、ある部屋の前で立っている飛鳥聖くんの姿があった。

 逸る好奇心を押さえつつ、あくまでメイドとして接する。


「どうかなされました」

「!?」


 声をかけると飛鳥聖くんはまるでこの世の終わりのような顔をしながら驚いて、逆にこっちの方が驚いちゃった。


「イ、イエ。ナンデモナイデスヨ?」


 そう言ってその場を去ろうとする飛鳥聖くんだけど、明らかに様子がおかしい。

 流石にこれは見逃さない方がいいと思って観察してみると、右手に何か握り込んでいる。


「失礼ですけど、右手に持っているのは何ですか?」


 思い切って質問すると、少年は一切の動きを止めてこっちに振り返る。


「……誰にも言わない?」

「場合によります」


 飛鳥聖くんは諦めたようにため息を吐くと、近くまで寄って握り込んでいた右手を開く。


「布?」

「……忍野さんの下着。これを部屋に戻そうと思って」

「は?」

「いや聞いてくれ! そもそもこれは」


 何か説明してくれてはいるけれど、全く耳に入ってこなかった。

 何故メイド長の下着を彼が持っていたのか?

 盗んだのならこうして返すなんて事はしないだろし、そんな事をする人物とも思えなかった。

 ならば何故?

 今までの疑問の糸も含め、こんがらがっていたのが一つになった気がした。


「と言う訳で、別に望んで手にしている訳では」

「……大丈夫。全部解りました」

「そ、そう。分かってくれた?」


 ……そう、全部理解した。

 つまりメイド長と飛鳥聖くんは、禁断の恋仲だと言う事が!

 国の陰謀でお姫様たちと結婚させられた少年。

 だけど彼の心は傍にいてくれるメイド長に惹かれていく。

 禁断とは知りつつも、愛し合う事を止められない二人はこうした贈り物をしあう事に!

 こ、これは推せる!


「悪いんだけどコレを忍野さんの部屋に」

「大丈夫。他の誰かに何を言われても、二人の事を応援してますから!」

「ん? あの、何の事を」

「説明は大丈夫です! 私は何も見なかった、それでいいんです」

「いや絶対なにか勘違いしてるよ!?」

「もう何も言わなくていいんです。では、私は仕事があるので!」


 急いでバケツを持ってその場を去っていく私。

 後ろから何か聞こえるような気もするけど、気にしない。

 これからあの二人の恋路を、陰から見守っていこう。

 そう心に決めたのだから。




 あとがき

 皆さま、お元気でしょうか? 蒼色ノ狐です。

 正月休みも終わり、中々心がついて行かないと思う方も多い中で読んで頂きありがとうございます。

 2025年は飛躍の年にしたいと思っていますので、これからも頑張って書いていきたいと思います。

 では皆さま、また次回の更新にてお会いしましょう!

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