第19話 異世界王女観光記②

「久しぶりだな、ここも」


 この辺にしては唯一賑わっている商店街を歩きながら、思わず呟く。

 ガヤガヤと、まばらに混んでいるのも昔から変わらない風景だ。


「随分とお店が並んでいるようですけど、ここにはよく来たんですの?」

「まあね。親父がよくここに来ていたから、自然とね」


 マリアの質問に答えながらも、俺の視線は懐かしさであっちこっちの店に向いている。

 そんな様子にエリがクスッと笑う。


「嬉しそうだね、聖くん」

「久しぶりの馴染みの地なのですから、それも仕方ない事かと」

「まあ、確かにな」


 何か姫様たちが慈愛の微笑みで見ているような気もするが、俺の脳内は視線に入ったある店で一杯だった。


「忍野さん、あの店に寄ってもいい? 馴染みの店なんだ」

「それは構いませんが、認識阻害の魔法が掛かっている事はお忘れなく」


 忍野さんにそう念押しされると、数千円ほどの現金を渡される。

 今回は安全性も考えて貴重品は預けてあるのだ。

 忠告を刻みながら、久しぶりとなる店に足を運ぶ。


「す、すみませ~ん」

「あらあら。いらっしゃいませ」


 ここは早乙女のおじいさんとおばあさん、二人でやっている和菓子店。

 昔から世話になっているお店で、親父も顔なじみだ。


「初めてのお客さんだねぇ」

「っ……。ええまあ、近くに旅行で」


 やっぱりと言うべきか、おばあさんは俺の事を飛鳥聖とは認識できなかった。

 そこに少し寂しさは感じるが、今はもう一回この味を食べれる事に感謝しとこう。


「まあそうなの。じゃあどれにする?」

「えぇと、饅頭を六個と羊羹を。あっ、羊羹はお土産用で」

「はいはい。少し待っててね」


 そう言って少し遅いペースながらも慣れた様子で饅頭を包んでいくおばあさん。

 よく見てみると、おばあさんの顔には笑みが浮かんでいる。


「? 何かいい事でもあったんですか?」

「ああ、そういう訳じゃないんだけどねぇ。若い人は好みが似通っているのかね?」

「?」

「よく饅頭と羊羹を買いに来てくれた子がいてねぇ。最近は顔を店に来てくれないのだけど、何だか懐かしくなってね」

「……きっとまた来てくれますよ」

「そうだと良いがねぇ。はいお饅頭と羊羹だよ」


 そう手渡された饅頭と羊羹を受け取って、代金を渡す。

 お釣りをもらって、戻ろうとしてると。


「またご贔屓に」

「……ええ、また」


 そう返して、俺は姫様たちの元に戻る。


「ごめん、待たせた?」

「あら? もう少しゆっくりされても良かったのに」

「はは。そんなに時間はかけられないよ。あ、これ俺のオススメ」


 饅頭を姫様たちと忍野さんに手渡して、俺も久しぶりの味を口にする。

 相変わらずフカフカの皮と甘い餡子の味が絶妙なバランスだ。


「美味しいですわね」

「うんうん! 聖くんがオススメするのも分かるね!」

「よい甘さです」

「まあ、悪くはないな」


 姫様にもどうやら好評らしく、全員が笑顔で頬張っている。

 その様子を見ていた俺だが、忍野さんに肩を叩かれる。


「? 忍野さん、気に入らなかった?」

「いえ、大変美味しく頂きました。……それよりも」


 スッとハンカチを手渡されると、耳元で呟かれる。


「目に涙が浮かんでいますよ」

「え! 本当に!?」


 懐かしさで思わず涙腺が緩んでしまったのだろうか?

 急いで目元を拭ってハンカチを返す。


「姫様たちにもバレてる?」

「勿論」

「あ~。出来るだけ泣かないようにしてたんだけどな。反省」

「気にしてはいらっしゃらないと思いますが」

「だといいけど」


 そんな風に忍野さんと話していると、今度は饅頭を食べ終わったマリアに肩を突かれる。


「さて聖さん? まさかこれでエスコートが終わりなんて事は無いですわよね?」

「当然。一般的な商店街の魅力、沢山お教えしましょう」

 

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