第5話 開催宣言

『いま異世界より、四人の親善大使である姫が飛行機から日本に降り立ちました! ここに新たな歴史が刻まれようとしています!』


 そんなテレビの中継を、俺は冷めた目で見ていた。

 何か経済学のお偉いさんみたいなのが力説しているが、正直いまの俺にはどうでもいい。

 何せ


「ふふ。こうして改めて自分の姿を見るというのは、かなり斬新ですわね」

「そうですね。こればかりはこちらの世界の優秀さを認めざるを得ません」

「あ! 見て見て! 私が動いてる!」

「いや、これはそういう機械とやらだろ? 理屈は知らんが」


 その親善大使はいま全員揃って俺の傍にいるのだから。

 先ほど式典やら何やらを終えた四人を出迎え、折角だからとテレビ初体験を兼ねてのニュース鑑賞会である。

 魔法がある『オーテク』には似たようなものも無いらしく、全員が珍獣を見るような感じでテレビを注視している。

 その間に俺はスマホを取り出してあるサイトに飛ぶ。


 ちなみにこのスマホは以前から使ってたものではなく、忍野さんから新たに渡された特別製らしい。

 ネットへのアクセスは何も言われなかったが、ソーシャルメディアや掲示板への書き込みは禁止されている。

 ……まあ流石にこの状況下で不用意に書きこむ真似は怖くてしないが。

 そんな事を考えている内にスマホに映し出されたのは、とある有名な掲示板。

 勿論この一連についてのコメントもあり、盛り上がっているのはやはり王女たちの話題だ。


 幾つか要約すると

・王女たちが美人すぎる

・マリアンヌ様の一部を支える係になりたい

・マナナン王女をペロペロしたい

・エイリー姫のような同級生が欲しい人生だった

・ドラゴン娘、ハァハァ


 と言った、比較的好印象(?)なものが目立つ。

 しかし当然というべきか否定的な意見も混じっており、過激なものは侵略をほのめかす書き込みをしている。


(俺自身はどうなんだろうな)


 流石に侵略するべきなどとは思わないが、正直分からない。

 なにせ何もかもが突然過ぎてまだ整理がついていない状況だ。

 許嫁とされる姫様たちとも、どう距離を取っていいか分からないでいる。


「どうしたものかな」

「何がですの?」

「ん? うおっ!?」


 何時の間にやらその長いまつ毛が数えられるほど接近していたマリアンヌ王女。

 驚いて飛び上がった俺は、思わずスマホを落としてしまう。


「あら、急に飛び上がったりしたら危ないですわよ?」

「そ、そう思うのでしたら脅かせないでください」

「ふふ。善処しますわ」


 俺の反応が面白かったのか、マリアンヌ王女は笑みを絶やさない。

 とりあえずスマホを拾おうとすると、先に小さな手が俺のスマホを掴んだ。


「これがスマホ、ですか。これをこの世界の方は大勢が持っているのですね」

「興味あります? マナナン王女?」


 その長い耳をピクピク動かしながら、興味深そうにスマホを触るマナナン王女に思わずそう問いかける。


「いいのですか? スマホには個人の機密性が高い情報もあると聞きますが」

「まだ貰ったばかりなのでそこはお気になさらず」

「……では、もう少しだけ」


 少し顔を赤らめながらそう言うと、マナナン王女はさらにスマホを触りつつどんな物かを確かめていく。


(ま、ああして触る分には問題ないだろうしな)


 どのみちスマホにはパスワードを設定しているので、中身を見られる心配はない。

 そんな事を考えていると、突然後ろから衝撃が来た。


「あー! マナナンちゃんだけずるーい! 私も触りたい!」

「ちょっ! エイリー王女! 重い!」


 何とか踏ん張れたが、いきなり体重をかけて来たエイリー王女に思わずそう言ってしまう。


「えー? 私そんなに重くないよ! ほら!」


 そう言ってさらに体重を乗せてくるエイリー王女に対し、思わず俺は動揺してしまう。

 何せ背中越しに彼女の柔らかなアレの感触が、押し付けられるのだ。

 意思が弱ければ虜になってしまってたかも知れない。


「そこまでにしておけ。困っているぞ」


 そこに現れたのは救いの女神、ではなくフェルニゲッシュ王女だった。

 軽々とエイリー王女を猫のように持ち上げると、ソファーに座らせる。


「あ、ありがとうございますフェルニゲッシュ……さん」

「ん。この間の言葉、覚えているようでなにより」


 王女扱いしなかった事に頷くフェルニゲッシュ王女だったが、俺の体を見ながら苦言を言い始める。


「しかし、貴殿はもう少し筋肉をつけた方がいいのではないか? 幾ら戦いとは縁遠かったとは言え、鍛えるべきだと思うが」

「……そう、ですね」


 今後何が起こるか分かったものじゃない。

 もしかしたら体力が必要な場面も出てくる可能性だってある。

 幸いにも目の前には、そういった事に詳しそうな人物がいる。


「もし良ければご教授、お願い出来ます? あまり知識がなくて」

「自分がか? 構わないが、ただの人間にはハードかも知れんぞ?」

「うっ!? お、お手柔らかに」

「だがその意欲は良し。貴殿を立派な兵士にしてやろう」


 笑いながらそんな不安しかない言葉を放つフェルニゲッシュの後ろから、エイリー王女が文句を言い始める。


「むー。フェルニゲッシュが私を利用して聖くんを自分のフィールドで誘惑しようとしてる」

「なっ! バカな事を言うな! そもそも自分が言いだした事ではない!」

「あら? でしたらワタクシでも問題ありませんわよね? 騎士団長として、訓練の心得もありますもの」

「アルビオンの精強さは認めるが、それでも我がドラゴネスの鍛錬は『オーテク』随一だ! 口を挟まないでもらいたい!」

「やっぱり聖くんを好みに改造しようと」

「だから違うと言っているだろう!?」


 三人の王女が言い争っているのを見ながら、被害が出ない内にこっそりと中心から逃げ出す。

 そこには待ち構えていたかのように立っていた、もう一人の王女がいた。


「お返しします。中々に大変そうですね」

「ええ、まあ。ありがとうございます」


 スマホを受け取ってポケットに入れ、俺は力なく椅子に座り込む。


「ふぅ」

「そこまで現状が疲れるのでしたらいっその事、早く第一夫人を決められたらどうです? 少なくとも気苦労は減りますよ?」

「まぁ、そうなんでしょうけど……。やっぱりそんな理由や流されて決めたくない、と言うか何と言うか……。上手く言葉にできなくてすみません」

「……そうですか」

「?」


 何か言いたげなマナナン王女。

 それを聞こうとしていた瞬間に、皆がいる広間の扉が開かれる。


「皆さま、お話の最中に申し訳ございません」

「忍野さん?」


 入って来たのは忍野さんだった。

 うやうやしく行動する忍野さんに注目が集まる中で彼女は


「ではこれより『第一回 アピールタイム大会』の開催を宣言させてもらいます」

「……はい?」


 そんな、トンチキな事を言い出したのであった。

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異世界勇者、その息子の災難と麗しの姫たち 蒼色ノ狐 @aoirofox

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