第4話 麗しの姫たち
「う……わぁ……」
忍野さんによって大きく開かれた扉の先。
そこには予想よりも広い空間が広がっていた。
かなり豪華そうな装飾の家具も置かれてはいたが、そんな物には俺の目には入らなかった。
その広間にそれぞれに過ごしていた四人の少女、彼女たちがあまりに輝いて見えたのだ。
「皆さま、お待たせいたしました。こちらが飛鳥聖さまです」
「は、初めまし」
「君が聖くんなの!?」
「うおっ!?」
俺が挨拶を言い終わる前に、その整った顔を鼻先まで近づけて来た少女。
日焼けなのか程よく焼けた肌を、露出度高めの服で存分に見せてくる少女は距離も気にする事なく人懐っこい笑顔を向けてくる。
「うわー本物だ! あ、私エイリー・ティッチ! 海に囲まれたポセアニア出身だよ!」
「よ、よろし」
「ねぇねぇ! 聖くんって普段なにしてるの? 好物は? 嫌いな物は? どんな子が好み? それから」
「あ、あの」
まさに矢継ぎ早に俺の事を聞いてくるエイリーと名乗る少女に圧倒されていると、彼女の後ろから澄んだ声が聞こえてくる。
「エイリーさん。少し落ち着きになられては? 困惑されてますわよ」
「あ、ごめん! つい気分が上がっちゃって」
ようやくエイリーが顔を放してくれた事で、視界が広がる。
そこには優雅な立ち振る舞いを見せる美女が俺を見つめていた。
「初めまして飛鳥聖さん。ワタクシは騎士の国、アルビオンの第一王女。名をマリアンヌ・ニュウ・アルビオンと申します。以後、お見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします」
(うわ、デカい)
身長は俺とそう変わらないが、ゆったりとした服を着ているにも関わらずその存在を存分主張しているお山。
目を逸らそうとはしているが、引力があるかのように引き付けられてしまう。
「……ふふ」
「な、何か!?」
「いえ? 純粋な方だと思っただけですわ」
「は、はぁ」
「ですが今は他の方もおられます。続きは是非、二人きりの時に」
(気づかれてるぅぅ!!)
羞恥心やら何やらで恥ずかしい気持ちが湧く俺をおいて、マリアンヌは広間の端に移動する。
すると、さっきまでソファーに腰かけながら本を読んでいた小柄な少女が近づいて来る。
(あれ?)
だが気になったのは少女の耳。
やけに長いその耳はファンタジー常連のエルフを想像させた。
「フォルツ連合国の第四王女、マナナンです。耳長族と呼ばれる亜人とのハーフとなります。よろしく」
「よ、よろしく。あの、失礼ですが耳長族とは?」
聞きなれないワードを質問すると、マナナンはあまり感情を見せずに淡々と説明する。
「耳長族とは『オーテク』でも珍しい種族で、その多くが魔法に長けています。こちらで言うエルフに近しいもの、そう認識してもらえば結構です」
「ご、ご丁寧にありがとうございます」
「……」
そう礼を言う俺に対して、マナナンは黙ったまま俺を見つめる。
「え、え~と。何か?」
「……いえ、何も」
そう言うとマナナンは再びソファーに座り、本を読み始めた。
だが、その態度に疑問を持つ間もなく腕が誰かによって触られる感触がした。
「うおっ!?」
「ふむ。全く筋肉がない訳ではなさそうだが……。脚の方はどうだろうか」
俺が反応したのにも関わらず、その女性は俺の脚や腰を触りまくる。
かなり長身のその女性は、一しきり触り終えると腕を組みながら。
「貧弱だな」
と言い切った。
「……」
普通なら怒っても当然の言葉だろうが、いまの俺の関心はそこには無かった。
何故ならその女性の頭には、一対の角。
そして背中には大きな翼が。
美人な事には違いないが、どこからどう見ても。
「ドラゴン?」
であった。
「ふん。反論をする訳でもなく、真っ先に外見とはな。愚か者か、それとも大物か」
「す、すみません」
「……いや。こちらも見ず知らずの相手にする行動ではなかった」
女性はそう謝罪するし、俺の目を見ながら自己紹介をし始めた。
「自分の名はフェルニゲッシュ。フェルニゲッシュ・イーラ・ドラゴネス。見ての通り竜人族だ」
「よ、よろしくお願いします」
「ああ。だが一つ言っておく」
「はい?」
「自分は肩書こそ王女ではあるが、本質的には武人であると定めている。なのでそう扱うように」
「は、はあ」
フェルニゲッシュはそう言うと、壁に背を預けて腕組みをする。
それは話かけるな。
そう言っているようでもあった。
「この四名の王女が、これから聖さまと共に過ごしていただく方々です」
さっきから邪魔にならないようにか、黙っていた忍野さんがようやく口を開く。
「補足させてもらいますと、他の王女の方々。つまり他の許嫁の方もいます。ここにおられる方々は言わば初期メンバーです」
「初期メンバーって、そんなゲームみたいな」
俺のそんな言葉をスルーしつつ、忍野さんはここに居る全員を見渡しながら声を発する。
「そして皆さま方、言うまでもありませんがここは既に地球。こちらのルールに従って過ごされるよう、お願い致します」
「はーい!」
「勿論ですわ」
「はい」
「無論だ」
四名がそれぞれ了解の意思を示すと、忍野さんは俺の方を見る。
「そして聖さま」
「は、はい?」
「聖さまにはやるべき事がございます」
「え? そ、それって?」
「それは勿論、決まっております」
忍野さんはこの広間にいる四人の王女を見渡しながら、俺に言うのであった。
「この中より、第一夫人を決める事です」
「……は?」
思わぬ言葉に思わずそんな声を出してしまうが、そんな事はお構いなく話は進んでいく。
「全員と結婚する。それは既に決まっておりますが」
「いや、その時点で可笑しいよね!?」
「そうなると、誰が。いえ、どの国の王女が最初に選ばれるかが非常に重要になってきます。それによって国の未来が傾く事もあるかも知れません」
「……」
あまりに大規模な話に、何も言えなくなる俺。
だが、そこにある言葉が掛けられる。
「しかし、これらの前提を覆す。そんな道筋もあります」
「そ、それは一体!?」
忍野さんは妙な間を作ると、その口を開く。
「三年。三年の間までにどの王女とも恋愛関係にならなかった場合、全ての関係は解消。聖さまも自由の身です」
「……本当に?」
「本当、です」
突然の条件に、内心喜ぶ俺。
訳の分からないまま嫁選びとか、ごめんである。
「……ふふ」
だが、そんな俺の耳にマリアンヌの全てを見透かすような笑いが聞こえる。
俺にはそれが。
「逃げられると思ってますの?」
そう言っているように見えた。
他の王女たちを見渡すと、全員が俺を見つめている。
(……大丈夫か? 俺?)
こうして、俺の身の自由を賭けた三年の戦いが始まろうとしていた。
あとがき
今回はここまでとなります。
ついにメインとなる四人のヒロインのご紹介です!
聖は彼女たちの誘惑を振り切り、自由を手にする事ができるのか!
今後の展開をお楽しみに!
※次回の内容は未定ですが、もしかすると幕間を挟むかも知れません。
感想、意見募集中です!
よければお願いします!
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