第3話 やっぱり親父、あんたのせい

「ん? ……うおぉ!?」


 目が覚めると、そこは別世界だった。

 そこは慣れ親しんだ自分の部屋などでなく、まるで高級ホテルの一室のような部屋だった。

 一人では持て余す広い部屋に、明らかに一人用ではないサイズのベットで寝ている俺。

 導き出される答えはただ一つ。


「夢か。寝よ」

「残念ですが、夢ではありませんよ」


 俺の結論を覆しながら現れた。

 というか目立たないように影に隠れていたメイドさんの登場に、思わず心臓が飛び出そうになる。

 名前は確か……。


「え、えっと? 確か忍野さん……でしたっけ?」

「憶えて頂き感謝いたします」


 そう言って頭を下げる姿は、まさにメイドという感じがした。

 いや、今はそれよりも。


「あの、質問いいですか?」

「どうぞ」

「ここ、何処です? 何時帰れます?」


 俺としては真っ当な質問のつもりだったが、忍野さんは少し困ったように眉をひそめる。


「本当にお父様から聞かされていないのですね」

「は、はあ」

「了解いたしました。説明させてもらいますのでコチラをご覧ください」


 忍野さんは部屋を暗くすると、リモコンを操作して壁に映像を映し出す。


「まず此処が何処かという質問ですが、詳しい場所はお答えできません」

「な、何で?」

「こちらをご覧になれば納得してもらえるかと」


 忍野さんがそう言うと、どうやらニュースと思われる映像が壁に映る。

 だが。


「これ英語?」

「はい。お父様が向かわれている某大国における大手ニュース局のものです。これを見て何か分かりますか?」

「そう言われても」


 本場の英語など分かるわけ無いが、少なくとも映像で内容は何となく伝わってきた。


「デモ……なのかな? それにコメンテーター同士で言い争っているような」

「正解です。より正確に申しますと、これらは異世界との交流に反対するデモです」

「え!」

「世界各地で異世界に反発するデモ、あるいは抗議が勃発しています。さて、ここまで言えば何故ご自身がここにいるかは分かりますね」

「……俺の身を守るため、ですか?」


 その言葉に忍野さんは頷きを返す。

 もし本当にこんなデモが起きているなら、親父の息子である俺は恰好の的だろう。

 そう納得していたが、次の忍野さんの言葉に俺は固まる他なかった。


「そして何時帰れるか、これに関してもお答えできません。何故ならば既に此処が聖さまの家なのですから」

「……は?」


 そんな間抜けな声を出す俺を放置し、忍野さんは再びリモコンを弄る。

 そして映し出された映像に、俺は絶句する他なかった。


「これが聖さまが以前住んでいた場所の衛星画像です」


 立ち並んでいる住宅地に、ポツンとある空き地。

 そこは間違いなく、飛鳥家があったはずであった。


「……」

「万が一を考え元の家は解体させてもらいました。ああご安心を。荷物は輪ゴム一つに至るまで全て持ち出しております。無論ベット下の本も」

「何やってるの!?」


 ようやく絞り出した声を気にする事無く、忍野さんはやさしく微笑む。


「結構なご趣味で」

「止めてぇぇぇぇ!!」


 何故出会ってからそれほど経っていない女性に癖を理解されなければならないのか。

 だが何時までも嘆いている訳にもいかず、俺は情報を整理しようとする。


「つまり俺はこの家で一生を過ごさないといけない訳?」

「はい」

「此処が何処か分からないのに?」

「はい」

「一人寂しく?」

「いいえ」

「……ん?」

「一人ではありません。此処に住むのは基本聖さまとその世話と護衛をする自分。そしてあと四名となります」

「その四名って誰? 政府の要人?」


 そう質問すると、忍野さんは部屋を明るくしながら軽く答える。


「許嫁ですよ」

「誰の?」

「聖さまのです」

「は?」

「四名全員」

「ん!?」

「まだ此方に来られていない方もおられるので、もっと増えるでしょうが」

「……ワケワカンナイ」


 思わず片言で返すが、忍野さんは気にした様子もなく説明をし続ける。


「付け加えますと、四名全員が異世界である『オーテク』に存在する国々。その王女です」

「王女!? 王女何で!?」


 思わずそう叫ぶと、忍野さんは懇切丁寧に教えてくれた。


「事の始まりは十数年前、飛鳥剣氏がオーテクに転移された事から始まります。その時彼の地では大魔王がおり、それを倒すために呼ばれたのです」

「はぁ」

「仲間を集め旅をしていく剣氏でしたが、立ち寄った国々でこう言ったのです『俺に子どもが生まれたら結婚させようぜ』と」

「……え、ちょっと待って? それって」

「問題なのは多くの国がそれを本気にした事、そして剣氏側に子どもが一人しか生まれなかった事」

「忍野さん?」

「結果、どの国の王女が剣氏の息子。つまりは聖さまを射止めるか? 今の『オーテク』の話題の中心はそれのようですね」


 正直まだ頭の整理が全然出来ていない。

 だが、一つだけ。

 そう一つだけ確かな事が、ある。


「聞いてもいいです?」

「どうぞ」

「それってつまり、少なくとも許嫁が四人。もしくはそれ以上いるのは、親父の適当な口約束の所為って事?」

「ありていに言えば」

「……何じゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 どこぞと分からない場所の中心で、ただ叫ぶしかない俺であった。



「はぁ」

「聖さま、しっかりされてください。これから許嫁に会いに行く態度ではありませんよ」


 俺の意味もない叫びの後、忍野さんは一着の衣服を渡して来た。


「ご理解頂けたところですが、お早く着替えてください。四名とも屋敷の広間にお集まりの時間です」

「え? 何かやるの?」

「ええ。簡単な顔見せです」


 そして着替え終えた今、俺は無駄に長い廊下を歩きながら許嫁たちが待っているという広間へ向かっていた。


「……」

「聖さま。緊張されておりますか?」

「いや当然でしょう。許嫁ですよ? 四人ですよ? 王女ですよ? もうどう空気を吸っていいかも」

「落ち着きを。何か粗相をされても自分がカバーさせてもらいます。聖さまは自然体でお話をして頂ければ」

「は、はあ」


 忍野さんにそう言われても、俺の心が晴れる事は無かった。

 さっきから真っ直ぐ歩けているかも分からない。

 ぶっちゃけ胃から何かが込み上げそうな気配もする。

 忍野さんが居なければ逃げ出していたかも知れなかった。


「着きました」


 その一言が、ここまで聞きたくないのも人生初かも知れない。

 大きな扉の前で足どころか全身震えている俺をよそに、忍野さんは扉越しに何かを話している。


「では聖さま。お覚悟を決めてください」


 そう忍野さんが言うと、扉は大きく開かれるのであった。




 あとがき

 今回はここまでとなります。

 次の話! 次の話でヒロインが本格的に登場です!

 果たしてどんな王女たちが出てくるのか?

 ご期待ください!


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