幕間 フェルニゲッシュ
ドカドカとやや荒い足音を立てながら、自分は少し慣れた屋敷内を歩く。
行儀は悪いとは思うが、今はそんな事は気にしてられる余裕は無い。
自室へと戻るとそのままベットの上にダイブし、枕を手にする。
「ァァァァァァ!?」
そして口を塞ぐと、思いっきり叫ぶ。
曲がりなりにも一応は王女という役割を受けている身としては、人に見られる訳にはいかない姿だろう。
それでもせずにはいられないほど、自分の心はかき乱されていた。
一応言っておくが、胸を揉まれた事が原因ではない。
確かに驚きはした。
だがアレに関しては隙を見せた自分も悪いし、そもそもわざとでは無いのだから怒るのも違うと考えている。
……問題なのは。
(何故自分はあのような事を聞いてしまったのだ!?)
そう、何よりも恥じるのは自分の言動。
武人扱いしろと言っておきながら「女らしかったか?」などと何故聞いてしまったのか、冷静になった今でも分からない。
「……本当に、今更何を言っているのだ。フェルニゲッシュ・イーラ・ドラゴネスよ」
我が国ドラゴネシアは誇り高い竜人族によって建国された。
もちろん他の種族も迎え入れてはいるが、半数以上は竜人族によって構成されている。
そして竜人族は屈強な身体を持っている。
かの大魔王との戦いの時においても、一歩も引く事無く戦った事は誇りである。
そんなドラゴネシアにおいて、今一番の問題は人口の現象であろう。
元々戦いに適した身体を持っているため冒険者として国を離れる者も多いが、この問題はもっと根本的な問題だ。
子どもが出来ずらい。
それが竜人族に課せられた問題であった。
その竜人族が集まるドラゴネシア故に、王女である自分にかかる期待は相当な物であろう事は言うまでもないだろう。
父上たちからすれば、自分を蝶よ花よ育てたかったに違いない。
だが自分は多くの竜人族と同じく、武芸に生きる事を決めた。
無論父上たちの思惑とは異なるが、それでも自分はこの道を進むと決めたのだ。
最終的には認めてもらい、この歳になるまでは比較的自由に過ごさせてもらった。
「フェルニゲッシュよ。お前には地球に行ってもらい、勇者の子と結婚してもらう」
「……はい?」
なので父上にそう言われた時は、思わず間抜けな声を出してしまったものだ。
父上も自分を送り出すのは相当迷っただろう。
だが勇者の血を取り入れる事は必須であるし、そもそも王族で女は自分一人である。
……だが、それで納得するかどうかは別問題である。
しかもそれを言われたのがもう断りきれないタイミングなのだから、流石に腹も立つと言うものだ。
それはもう大立ち回りだった。
王である父上の前であるというのに武器を持っての大暴れをし、数十分は周りの兵士をなぎ倒していた。
まあそれも無駄な抵抗というもので、最終的には拘束された上に長時間の説得を受けしぶしぶ引き受けたのである。
出立の日、母上は自分にこう言われた。
「フェルニゲッシュ。今は不満かもしれませんが、何時か納得する事でしょう」
かつては名の馳せた武人であったという母上にそう言われも未だ釈然としなかったが、こうして自分はドラゴネシアを離れ地球へとやって来たのである。
(軟弱そうな男)
それが飛鳥聖を見て思った第一印象だった。
戦いとは大きく離れた地球で暮らしているのだからそれも仕方ないと思ったが、それでも落胆の方が大きかった。
それにここには自分よりも女らしい姫が三人もいる。
自分が選ばれる事も、まして自分から積極的に動く事もない。
少なくともこの時点ではそう思っていた。
故に、飛鳥聖が鍛えて欲しいと言ってきた時には驚いた。
そんなタイプには見えなかった上に、自分に言ってくるとは思えなかったからだ。
その時もまだ、そういう事もあるかと思った程度であった。
見る目が変わったのはあのメイドが企画したアピールタイムの時からだ。
一通りの剣舞を見せ感想を言わると、一つだけ忠告すつ。
少なくとも悪い人間では無さそうであるし、何より舐められた行動を取られるのも困るからだ。
素直に言葉を受け取ったのを見て、時間も余っているのでそのまま質問を受ける。
「いえ、可愛らしいところもあるんだなっと」
その言葉を受けた時、この男は何を言っているか一瞬分からないでいた。
確かに甘い物を食べるのは意外だったかも知れないが、それでも自分と可愛いという言葉は不釣り合いだと思えた。
その時は思わず照れてしまったが、部屋に戻り冷静になってみるとアレは飛鳥聖の冗談だったと考えるようになった。
正直そう考えなければ納得できなかったからだ。
そうして本日、以前言ってた通りトレーニングを開始した。
一応初心者向けに組んだが、途中でギブアップするだろうと考えていた。
だが飛鳥聖はやり遂げた。
根性はあると認めると、確かめたい事もありリングへと誘った。
流石に自分に勝てと言う気はない。
そもそも弱い物イジメのような事はする気もない。
組み合えば多少なりとも考え方が分かる。
そんなつもりで誘ったのだ。
そうして今に至る訳で、思い返しても飛鳥聖に非はない。
……だと言うのに。
(どうしてこんなに顔が赤くなる!)
思い返すだけで顔が赤くなり、怒りやら羞恥心やらで頭がパニックになりそうになる。
何かされたのでないかと勘繰ってしまうほど赤くなった顔を枕に叩きつけながら、この状況について考える。
胸に触れられるなど訓練をしていればままある事だ、実際ドラゴネシアにいた時にも何度かあった事。
その時は確かに笑って受け流しせたハズなのだ。
だと言うのに、飛鳥聖に触られたというだけでこんなにも羞恥心が湧くのはなぜだろうか。
そう考えた時にふと思い返したのは、若い女兵士たちが見ていた地球の書物。
確か少女漫画と言うものだったか?
それはともかく、その内容をチラ見した時の主人公の表情に自分が似ている事に気づく。
少女が異性に恋心を抱く場面で……。
「ッ~~~~!!」
そこまで考えてさらに顔を赤くしながらベットの上で暴れる。
(無い! それだけは無い!)
自分は女である前に武人なのだと言ってたくせに、出会って数日で恋するなどあり得ない!
そう考えはするが、一度こびり付いた考えは中々取れる事無く。
「ッ~~~~~~~~~!!」
思い返す度に顔が赤くなるのだった。
結局冷静になるまで、丸一日を費やす事になってしまったのだった。
あとがき
今回はここまでとなります。
前回に引き続き、フェルニゲッシュが主役の回となりました。
武人として生きてきた彼女の、悶える姿は如何でしたか?
次回はマナナンの幕間となる予定です。
クレバー(賢い)な彼女は、一人で何を思うのか?
ご期待ください。
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