第12話 忍野さんのお仕事
「忍野さんどこかな?」
いま俺は忍野さんに用があって屋敷を歩き回っていた。
普段なら呼べばすぐに来てくれる忍野さんだが、何故か今日は幾ら呼んでも来なかったので探しているのである。
「それにしても……。無駄に広いよな、ここ」
既に相当な時間を歩き回っているが、それでも全体の四割ぐらいじゃないかと思う。
まあ王女様たちが住むぐらいなのだから当然と言えば当然なのかも知れないが。
「だと言うのに外の様子は一切分からないというのは、マイナス点以外何物でもないよな」
屋敷には窓がなく全て壁で覆われているので、時計がないと時間も分からないという状況。
安全面か何かを気にしての事なんだろうけど、それにしてもやり過ぎだと思う。
「っと。これ以上動いていたらこっちが迷うな」
急用という訳でもないし今日の所は諦めようとしていると、ある部屋にドアが開いているのが見えた。
そこだけ開いているといのも気持ちが悪かったので、閉めようと近づくと何か寝息が聞こえて来た。
(誰か寝ているのかな?)
そう思って覗いて見ると、そこには机に突っ伏した状態で寝ている忍野さんの姿があった。
珍しいものを見た気になるが、よくよく考えたら忍野さんも人間なんだから睡眠ぐらいは取るだろう。
何時も動いてる姿しか見ないから、ついついそんな事を考えてしまった。
(ん? って事は。ここって忍野さんの自室なのかな?)
周りを見渡してみると、あまり生活感は感じられないほど整理されていた。
けれど所々を見れば何かの書類が山済みになっていたり、メイド服が脱ぎ捨てられていたりと私室の感じが出ている。
(これ以上見るのは流石に失礼だし、そろそろ出ようかな)
寝ている忍野さんを起こさないように静かに出て行こうとしていると、何か踏みつけた感じがした。
(何だろう?)
そう思って拾い上げると、それはレースが彩られた布製品であった。
ハンカチかとも思ったが、それにしては形が妙だ。
けれどどこかで見たような形をしていたので、必死に頭を巡らせると。
一つの結論に達した。
……達してしまった。
「パ!?」
思わず大声を出しそうになり、必死に口を手で塞ぐ。
この布の正体、それは間違いなく忍野さんの下着だろう。
こんな事なら深く考えず床に置いたままにしておけばよかった。
(それにしても……)
意外と、と考えるのは失礼かもしれないが。
随分と大人な下着を履いているのだと、ついついマジマジと見てしまう。
しかも心なしか温もりも感じれれるような気もする。
(って! これじゃただの変態じゃねぇか!)
この姿を見られれば確かに縁談は破棄されるかも知れないが、流石にこんなやり方は問題がありすぎる。
急いで床に問題の物を置こうとしていると。
「……ん。聖、さま?」
この部屋の主で持ち主が起きてしまった。
慌てて思わず下着をポケットに入れると、平常を装いながら返事をする。
「お、おおおお忍野さん。お、おはよう」
「? おはようございます。……済みません、寝ていましたか?」
「う、うん」
「失礼しました。何かご用でしたでしょうか?」
「あ~いや。急用って訳でもないし」
忍野さんは立ち上がって身なりを整えると、頭を下げる。
「申し訳ありません。以後この様な事は致しませんので、ご安心を」
「いや、それはいいんだけど。……忍野さん大丈夫? 見ただけでも仕事が山積みだけど」
整理されているとは言え、机の上には書類の山。
そしてこのバカ広い屋敷の管理を一人で管理している事を考えれば、負担は相当なものだろう。
「気にして頂き、感謝いたします。ですが問題ありません」
「……本当に?」
断言する彼女の顔色を窺うように質問すると、忍野さんは机の上の紙の束から一枚を取り出して見せてきた。
「これって、履歴書?」
「はい。外の混乱も一先ず落ち着いてきたようですし、人手は欲しいところですから」
「へ~。つまりこの屋敷にも人が増える訳だ」
「数人程度にはなるとは思いますが、そうなりますね。身辺調査は何重にもしてますので、安心なさってください」
「いや、別にそこの心配はしてないんだけど」
まあ、これで忍野さんも楽になるのかも知れない。
元々この屋敷を一人で何とかしようというのが無理難題だったんだから。
「しばらくは新人の教育等で忙しくなるかと思われますが、何か御用があれば遠慮なく申し付けてください」
「は、はあ」
どうやら忍野さんが楽になるのもまだ遠いらしいが、それでも人手が増える事はいい事なんだろう。
「それにしても忍野さんも大変ですね」
「何がでしょうか?」
「いや、何がって。こんな屋敷を一人で管理して、俺や王女たちのお世話も。その上今度は新人教育もやって。体、壊す前に休憩取っていいんだよ」
「……聖さま」
「ん?」
「お気を使っていただき、ありがとうございます。ですが問題ありません。私は私のやるべき事、やりたい事をしているに過ぎませんから」
「メイドが忍野さんのやりたい事?」
そう質問したら忍野さんは俺を優しく見つめたと思うと、何も言わずに再び書類に目をやる。
「申し訳ありませんが聖さま。この書類を片づけますますので、ご用がなければ退室をお願いします」
「あ、うん。……お仕事頑張ってね」
それだけ言うと、俺は足早に部屋を出ていく。
「何だかんだで、忍野さんも謎が多いよな」
そう思いながら自室へと戻っていく。
その途中で何かを忘れてるような気がしたが、結局思い出せずに再び歩き始める。
「……あ」
ポケットに入れたままの忍野さんの下着を思い出したのと、この下着をどうするかを思い悩むのは結局部屋に戻ってきてからの事であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます