幕間 新人メイドA

  皆さん始めまして。

 私は国が募集していた異世界のお姫様をお世話するメイド役に選ばれた者です。

 名前は……まあ今回はそれが主題ではないから省きます。


 下手に就職するよりも給料もいいし、安全だからという親の勧めもあってこの仕事に応募しました。

 けど同じ事を考えている人は多くて倍率は相当高かったんですけど、その分ふるい落としは凄いものでした。

 噂によると、履歴書の時点で半分以上の人数が落とされたようです。


 書類審査の通ったと思ったら、心理テスト。

 その次は体力測定にペーパーテストと、およそメイドを選ぶとは思えない項目が続きます。

 さらにはスマホの中身も調べられていたようで、SNSの投稿内容も検査対象に入っていました。


 この時点で全国から数千の応募があったと言われる応募者は、十数人にまで減ってしまいました。

 最後は面接……だったんですけど。

 正直これが一番思い出したくないです。

 真っ白い部屋にパイプ椅子がポツンと置かれていて、そのすぐ傍には簡易なテーブルともう一つのパイプ椅子。

 そしてそこに座っているメイド服を着ている女の人。

 そこから始まったのは圧迫、いや圧迫面接なんて生ぬるいものじゃなかったですアレは。

 もう口にするのも恐ろしい面接が終わった時は思わず涙が出そうでした。


 そんなこんなの激闘を経て、メイドに選ばれたのは私を含めて三人。

 そして今、私たちは窓が塞がれてるバスに乗って、お姫様たちがいるというお屋敷へと向かっているのです。


「……少しいい?」


 ひたすら揺られる時間を過ごしていると、三人の内の一人が突然口を開きました。

 仮に私をA子だとすると、いま口を開いたのをB子さんとしましょう。


「な、なんでしょう」

「いや、大した事じゃないんだけどさ。ただこうして揺られるのも暇だから何か話そうかなって。話すの禁止されてなかったし」

「そうですね。折角同じ場所で働くんですし、お話するのもいいかも知れませんね」


 B子さんに同調するようにC子さんが同意しました。

 私としても特に反対という訳じゃ無いので、お話する事にしました。


「どんな事を?」

「例えば……どうしてこの仕事に応募したのか、とかさ」

「私は大学行くより給料いいからって親が」

「もしかして未成年かしら?」

「ええ、まあ」

「いいわね若くて、私なんてもう四十代よ」

「ええ! 全然見えない!」

「よく若いとは言われるけどね」


 C子さんは微笑みながらそう言うと、少し考え込みながら口を開く、


「私が応募したのは夫が単身赴任中でね、家で一人居るのも寂しいから。住み込みの仕事だけど、家に一人居るよりましだと思ってね」

「結婚とかいいな~。私なんてブラックな所に勤めていたから結婚どころか誰かと付き合った事もないよ。この仕事を応募するからって辞めれたのは正直ラッキーだったね」


 そう言いながらB子さんは、これから会うであろうお姫様について話始めました。


「これから行く屋敷って、どんな所なんだろうね。やっぱり異世界ぽい所なのかな?」

「どうですかね。別にお姫様が住んでるからって異世界ぽいとは限らないんじゃ?」

「いやいや分からないよ? 入った瞬間にモンスターが襲い掛かってくるかも知れないし」

「さ、流石にそれは無いんじゃないかしら」


 そんな事を話し合っていると、乗っていたバスが停止したのかエンジン音が止んだ。

 ドアが開くと、この前の面接をしたメイドさんが乗って一礼した。


「皆さんお久しぶりです。改めて自己紹介をさせて頂きます。私はこれから屋敷で働く皆さんの上司にあたる忍野と言います」


 忍野さん、メイドの上司だからメイド長って言えばいいのかな?

 ともかく彼女は私たち三人の顔を、確認するように見渡すと頷いてまずは降り始める。


「聞きたい事もあるかも知れませんが、まずは降りてください。質問は適宜受け付けます」


 有無も言わせない態度に多少言いたい気持ちはあってけれど、そこはグッと抑えて荷物を持ってバスを降りる。

 するとそこには。


「デカ!?」


 B子さんが思わずそう叫んでしまうような大きさのお屋敷がそびえていました。

 私もC子さんも啞然として言葉を失っていると、メイド長が屋敷の前に立って説明し始める。


「ここが皆さまがこれから住み込みで働く屋敷です。ここに住まわれているのは、どなたも重要人物ばかり。粗相のないようお願いします。では、行きましょう」


 その言葉に黙って頷く私たち。

 住む世界が違う人たちが住むに相応しい様相の屋敷に圧倒されながら、メイド長に導かれるように進んでいると。


「……申し訳ありません。一つ、大事な事を言い忘れておりました」


 と言いながらもう一度私たちの方を向くと、面接の時のような気迫で口を開きました。


「この屋敷には知っての通り四人の姫が住まわれていますが、もう一人ここに住まわれている方がいます。ですが例えどんな人物か分かっても、絶対に詮索してはいけません」

「「「え?」」」

「では、今度こそ行きましょう」


 メイド長はまた有無を言わせない態度で話を打ち切ると、今度は完全に屋敷に入っていく。

 私たちは顔を見合わせると、何とも言えない表情で屋敷に入りました。

 どうやら波乱に満ちたお仕事になりそうですが、折角なので頑張ろうと思う。


 ―四月○日 A子の日記より

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