第2話 「時空移動の波」
その日、エルフ忍者の風魔小太郎は伊勢原市の
無事に参拝を終えて思い切り背伸びをした小太郎。5月の陽気と
5月は山の緑が美しくて、空気が清々しい。まだ優しく若い色合いの緑が、
かつて人と自然は当たり前のように共存していた。それは小太郎にとって今も変わらず、この信仰の山を訪れる。
紺色のデニムに、新緑の季節をイメージした薄いグリーンの長袖のシャツ。そして、クリーム色の上着を羽織り、登山用の小型リュックを背負う小太郎。髪型はポニーテールにして、エルフの長い耳を隠すために登山用帽子を被る。その出で立ちは、一人の観光客であり、彼女は何の違和感もなく参拝者の中に混じっていた。エルフ忍者である小太郎にとって、人の中に紛れるのは造作も無い。
2200年以上もの由緒ある神社で、かつて女人禁制の時代もあった大山。現代のように自由に参拝できるのはありがたい。しかも、今の時代は
今日は天気が良いためか、平日にも関わらず参拝客が多い。小太郎のように参拝目的の人もいれば、本格的なハイキングを楽しむためにしっかりと登山用装備に身を固めた人もいる。
みな、下社付近から眼下に広がる相模国を眺めて、その絶景をスマホで撮影する。そして、砂粒のように小さく見える街を指さしては、『あそこは秦野だ』、『そこは藤沢だ』だと楽しげに話している。
ここからの景色はいつ見ても素晴らしい。正直に言えばスマホで撮影した写真では、この感動を納めきれないだろう。空の蒼さ、山の緑の絨毯、霞んだ白い雲。キラキラ光り、ぼやけた美しさを放つ相模湾。ここまで来ればその絶景に心奪われて、しばらく見入ってしまう。
もう少しだけ眺めたら今日は引き上げよう。そう思っていた小太郎の耳がピンと反応した。絶景に見入っていた彼女に緊張が走る。
東の方角からフワリと風が小太郎を撫でた。他の参拝者には5月のそよ風にしか感じなかっただろう。しかし彼女にとって、そうとは言えなかった。
遠く微かに見える東京の街を鋭く睨む小太郎。
一瞬、勘違いかと思ったが、そうではない。間違えようがない。彼女は東京方面からエルフ魔法の周波数を感知した。しかも、それは誰でもない自分自身の魔力周波数だった。
この『魔力周波数』とは、文字通り魔法を発動した際に発生する魔力の『
これは一体・・・!小太郎は自ら体感したことに困惑する。魔法を全く使用していない状態で、なぜ自分の魔法が東京方面から発せられた?彼女はジッと東京方面を見つめたまま考える。
誰かの計略か?だとしても意図が読めない。どうして自分にすぐバレるような真似をする?
自分でいうのも偉そうだが、他の魔法使いが真似できるような簡単な魔術は用いていないし、そもそもエルフと他の魔法使いでは明らかに周波数が違う。
周波数の複製は魔法理論上は可能。が、そう易々とできることではないし、
それに何よりも看過できないのは、この魔力周波数が
何かが起きている!そう直感した小太郎の行動は素早かった。彼女はすぐに人の集まる場所から離れる。参拝者や観光客がいない場所へ来ると、彼女はそこでスマホを取り出した。この異変を伝えるべき者がいるからだ。
※※※※※
鼻唄を奏でながら、自宅のキッチンにいた
今は高校生の娘・アリサと小学生の娘・
以前、テレビショッピングで美味しいと紹介されていた米粉ホットケーキ。試しに購入し、焼いてみたところ絶品だった。従来のホットケーキと比較して、生地がモチッとしている。それにバターと相性も良く、これに餡を添えて食べればパーフェクトな美味さだ。
米粉ホットケーキが焼ける匂いがこれまた心地良い。ほんのりとした甘い匂いは、調理するときも食べるときも幸せにしてくれる。楽しみながら調理していると、不意に雷鳴は天井を仰いだ。
「ん?何だ、今のは?」
雷鳴は周囲を見渡しながら警戒する。
気のせいだろうか、彼女は魔力を感じた。しかも、今のは─。
「エルフ魔法・・・?」
普通の人にはわからない魔力周波数を感知した雷鳴。それが普通の魔力周波数でないことも見抜いた。エルフ魔法だ。雷鳴やその他の魔法使いとは基礎的な周波数が異なるため、すぐに判別できる。
雷鳴はホットケーキを焼く手を止めた。これはおかしいと判断した彼女はキッチンの片隅に置かれたスマホを手にする。
『エルフ魔法』と聞いて、すぐに思いつくのは一人しかいない。小田原のエルフ忍者魔法使い・風魔小太郎である。
小太郎との出会いは戦国時代、後北条氏が関東をおさめていた時代まで遡る。それからというもの、小太郎とは長きに渡る付き合い。
『あやつ、何をする気だ?』
雷鳴は気づいていた。それ故、焦りがあった。先程の魔力周波数が示しているのは、
雷鳴が小太郎へ連絡を試みようとしたときだ。彼女のスマホへメッセージが届く。それは誰でもない、風魔小太郎からの連絡だった。
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