第3話 「お呼び出し」
八千代がいなくなった後、成行は着替えをして昼食に向かった。見事と共に学食へ向かうも、やはり海鮮焼きそば売り切れ。なので、見事から勧められたコロッケバーガーで昼食とした。
昼食中、見事は成行のつまらない冗談にご機嫌斜めだった。
しかし、八千代と会っていたことに関して、深く聞いてこなかった。おそらく、『体育の授業後の片付け』という話を信じたのだろう。その件に突っ込まれなくて正直助かったと思う成行。
その日の午後、八千代は何事もないかのように過ごしていた。いつも通りの優等生のクラス委員長。まるで昼休みの話は、最初からなかったかのような素振り。
もっとも、八千代はタイムリープの提案を見事には内緒と言っていた。なので、成行には何も話しかけなかった可能性がある。
一方、午後の授業中にずっと考えていた成行。過去の世界へ向かい、本の魔法使いの正体を探るという提案。
興味はある。しかし、整理のつかない部分もある。八千代はタイムリープの方法をハッキリ教えてくれなかった。魔法でタイムリープというのは想定内としても、今の気持ちは『興味』と『警戒心』が半分ずつの状態。
それにタイムリープで、見事にまた心配をかけるのではという懸念もある。これでは詳しい話を聞かないと判断できない。
※※※※※
帰りのHRが終わり、成行は帰宅の準備をする。他のクラスメイトも帰宅や部活へ向かう準備をしていて教室内は慌しい。
「成行君、ちょっといいかしら?」と、見事が話しかけてきた。
もしや、昼休みのことを聞いてくるのだろうかと思った成行。だが、その予想はハズレ。見事は成行を廊下へ連れ出すと、
「今日なんだけど、魔法の特訓は無しでも構わない?」
「えっ?それは大丈夫ですけど」
引き続き見事から魔法の特訓を受ける予定でいた成行。今日もその予定だったのだが、急な中止である。
周囲の人気に警戒しながら、「何か急用でも?」と理由を聞く成行。
すると、申し訳無さそうに見事は事情を話す。
「実はママから一緒に買い物をしようって誘われたの。予定にはなかった話で、私も困っちゃったけど。どうしてもって言われて」
「そうだったんだ。じゃあ、仕方ないか」
そういう事情ならば無理に特訓をお願いすることもないだろう。魔法使いの買い物がどんなものか少し気になるが、案外、その辺は普通の人間と変わらない気がする。
「ごめんね、成行君」
見事は律儀に頭を下げたので、むしろこちらこそ申し訳ないという思いに駆り立てられる成行。
「大丈夫ですって。魔法の練習は自宅でも可能だし」
「だから、途中まで一緒に行きましょう?」と、顔を上げる見事。
彼女の提案に『おやっ?』と思う成行。『一緒に行く』とは、どういう意味か。
「見事さんは、どこに行くんですか?」
成行は見事の目的地を尋ねた。
「新宿の京王百貨店よ」
「ああっ。なるほど・・・」
行き先を聞いて合点がいく成行。京王百貨店なら、調布駅まで路線バスで一緒に行ける。調布駅から京王線で成行は稲城へ帰り、見事は新宿へ向かうことになる。
「わかりました。じゃあ、駅まで一緒に行きましょう」
見事のお誘いを快く受け入れる成行。
「ありがとう、成行君」
見事は今日一番の嬉しそうな表情をみせた。
「じゃあ、教室へ戻って鞄を取りにいきましょう」
そう言って教室へ戻ろうとする成行。すると、背後にはいつの間にか八千代がいた。驚きのあまり心臓が止まるような思いをした成行。
しかし、そんな様子にはお構いなしに、八千代はニコッと微笑むと成行へ話しかけてくる。
「岩濱君、先生が呼んでたわよ?」
「えっ?先生が?」
ここで言う『先生』とは、担任の教師を指している。しかし、何か呼び出しを受けるようなことをしたか?成行は首を傾げながら、
自分自身は目立つような性格でもないが、生憎と陰キャだとも思っていない成行。担任から目を付けられるような振る舞いは一切していない。『
「詳しい話はわからないけど、多分、進路調査のことじゃない?この前、調査があったでしょう?」
八千代の言葉を聞いて、成行は思案する。
「進路調査か・・・」
進路調査は確かにあった。
大学進学など、将来の道を見据えて1年生の時点から進路調査が行われている。それは高等部から入学の成行も知っていたし、中等部からエスカレートしてきた見事や八千代も承知しているだろう。
傍らで話を聞いていた見事が成行へ顔を近づける。
「成行君、進路調査に何を書いたの?」
すると、成行は小声で答える。
「一応、大学進学って書きました。あと、報道関係って」
「報道関係?」と聞いた見事は怪訝そうな顔をした。
「ええ。専門予想紙『
ケロッとした表情で答えた成行。
「それじゃあ、呼び出されるわね」
成行の進路希望を聞いた八千代はクスクスと笑う。
「もう!成行君、もっと真剣に書かないとダメでしょう?」
見事は怒ったお母さんみたいに成行へ注意する。
「見事、お母さんみたいね」と、またクスクス笑う八千代。
「笑い事じゃないから。あと、お母さんって言うな」
見事はムスッとしつつも、真剣な表情で言った。
「でも、まさか進路調査に『立派な魔法使い』って書けます?」
成行は見事に尋ねた。
「そうね。それは確かに無理だろうけど・・・」
見事は呆れつつも成行の問いかけに同意する。
「岩濱君。先生は『音楽室に来て』って言ってたわ。30分後に始めるって。持ち物とかは特に不要。本人が忘れずに来て下さいって」
八千代は引き続き用件を成行に伝える。
「音楽室に?」と、成行は首を傾げる。
何でまた音楽室でやるのだろう?普通に教室を使えばいいのに。成行がそう思っていると、見事が補足説明する。
「音楽室を面談に使う可能性はあるわよ?進路指導室は3年生、2年生が優先だから、1年生だと音楽室や美術室を臨時で借りて面談会場にすることがあるの。中等部時代はそれがあったし、高等部もそれは変わらないのね」
見事は腕を組みながら、自身の経験を交えつつ補足した。
「そうなんだ。じゃあ、見事さんとは別行動か」
「そうね。進路相談なら、私が邪魔できないし。私は一人で行くわ。ママとの待ち合わせの時間もあるし」
見事は少し残念そうな表情をした。しかし、成行の事情を察してか、不機嫌そうな素振りは一切無かった。
「じゃあ、岩濱君。よろしくね」
用件を伝え終えた八千代は二人の前から去る。
「ごめんね、見事さん。途中まで一緒に行けると思ったのに」
成行が謝ると、見事は顔をブンブンと横に振る。
「いいの。それよりも成行君は進路について真剣に考えてね」
見事は成行へ釘を刺す。
「わかりました。とりあえず、先生と話し合ってきます。じゃあ、また明日」
「うん。じゃあね」
二人で顔を見合わせると、ニコッと微笑み合う。ここから成行と見事は別行動になった。
二人がそれぞれの目的地に向かうのを、八千代は廊下の離れた場所から見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます