選抜試験

数週間後、護衛騎士の選抜試験が開催された。試験は騎士達が訓練で使う森林で行われる。

 フレイルも試験の見学の為、森の入り口まで来ていた。

「皆さん、どうかお怪我をなさらずに」

 フレイルは選抜試験に挑む騎士達に心配してる風な言葉を掛けているが微塵もそんな事は思っていない。実際の試験は森の中で行われフレイルは見れない為「つまんねーな」と不貞腐れていた。

 試験に挑む騎士に対して一人の試験官がついて選抜は行われる。ルールは簡単であり騎士は自らの試験官を守りながら相手の騎士の撃破を目指すのだ。試験官にかすり傷一つでもついたらその騎士は失格となる厳しい試験となっている。

 そんな厳しい試験でルーンを担当する試験官はオーズであった。ここでもフレイルは無理やりオーズを試験にねじ込んだのだ。一応ソニアから厳格な試験なので不正は無いようにと厳しく忠告されているのでオーズ自身がルーンに手助けする事も土下座により攻撃を防ぐ事も禁じられた。

 それでもフレイルが試験官としてオーズを捩じ込んだ理由は故意にルーンを試験で落とす者がいる可能性を考慮した為だ。護衛騎士を独占しているレッドグレイブ家をよく思わない人間はいくらでもいる。その対策としてオーズを試験官に据えたのだ。

「それでは選抜試験を開始する。まずは一組目から森に入ってくれ」

 ソニアの指示により一人の騎士と試験官が森の中に入って行った。その数分後にもう一組、更にもう一組と森の中に入って行く。

 ルーンは全体の半分くらいの所で呼ばれてオーズと共に森の中に入って行った。

 これは試験なのでどんなにルーンがオーズの事を嫌っていてもルーンはオーズに近寄り行動しなければならない。オーズとしてはこの二人っきりの状況で何とか歩み寄りたいと考えていた。

 ルーンもレッドグレイブ家の人間なのでオーズの事は全部話してもいいと考えていたが、オーズのスキルは公然の機密だが一応護衛騎士に受かるまで黙っている事になっている。フレイルはルーンに話しても問題と考えているがソニアが断固反対した。言いたくても言えない、そのもどかしさもオーズを苦しめていた。


 森の中をオーズとルーンは歩いて行く。試験中とはいえ何も喋らない気まずい沈黙にオーズ耐えきれずルーンに話しかけた。

「あのールーンちゃん?」

「なんですか」

「いや、その試験頑張ってね」

「言われなくても。ソニア姉様とフレイル様が何を考えているか分かりませんが貴方の助けはいりませんから」

「大丈夫、手助けしないようにってソニアさんに言われているから」

「そうですか」

 ルーンは目も合わせずオーズと会話した。またもや二人の間に気まずい沈黙が訪れた。、歩く音と鳥の囀りしか聞こえない。

「あの……」

 オーズが話しかけた瞬間、ルーンは言葉を遮ってオーズの方を向いた。

「私、貴方の事を疑っています」

「えっと何を?」

「私は厳しい訓練を乗り越えて騎士になりました。それなのに貴方は平民出身なのに突然護衛騎士になって、更にマルテ姉様と結婚するなんて絶対おかしいです」

「まあ、そうだよね」

「マルテ姉様もソニア姉様も貴方に騙されているんです!そうとしか考えられません!それにギースリー兄様もおかしくなったって聞きました。しかも貴方がマルテ姉様と結婚した時と同じ時期に!」

「そうだよねー」

「これで貴方を疑わない方がおかしいです!私が護衛騎士になったら貴方の不正を暴いて皆んなの目を覚まさせます!」

 フンガフンガとルーンは息巻いている。そうして言い訳しようにも何も言い返すことが出来ないオーズはただあたふたしていた。

「えっと本当は大切な事情があるんだよ」

「突然結婚する事情ってなんですか?」

「普通はないよねー」

「それにアーティさんも本当に貴方の妹なのかも怪しいです」

「え、そっちも?」

「あんな気の利くいい子が貴方のような悪人の妹の訳がありません」

 妹を褒められるのは嬉しいオーズだが自分を悪人扱いされるのは、それはそれでショックであった。これまでも小心者だとか恥ずかしげもなく土下座する小物だとかは言われたが、悪人とまでは流石に言われなかった。

 すると遠くから笛の音が聞こえた。この笛はソニアが吹いてる。ルーンは模造刀を抜き盾を構えた。

「試験開始の合図だね」

「邪魔をしないで下さいね」

「しないよー」

 オーズは情けない声で反論した。


 ソニアが笛を吹くと森の中が一気にざわつき始めた。

「ねえ、ソニア。ルーンは選抜試験に受かると思う?」

 フレイルはソニアに質問した。

「ルーンもレッドグレイブ家の人間です。幼少より訓練をしてきましたので簡単に負ける事はないです」

「なら安心ね」

「ただ志願者の中にはスキルを持っている物もいます。それを使われると戦況は厳しいものになるかと」

「でもルーンもスキルを持っているのでしょ?」

「はい、かなり強力なスキルです。ただルーンはスキルを使わないの筈です」

「え?」

 フレイルはソニアの言っている意味が分からなかった。ただソニアの表情は曇っており、ルーンはスキルが使えない何なかの事情がある事は何と無く分かった。

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