衝突

戦場は混乱を極めていた。

 フレイルは何よりも早く邪竜の下へ行きたいのに対し、邪竜教徒はフレイルだけは行かせてはならないと必死になって抵抗した。多くの邪竜教徒がフレイルに集中し前へ進む事を拒んだ。

 兵士達も戦っているが化け物となった邪竜教徒に苦戦を強いられており、その数は一向に減らない。

 フレイルも無理矢理突破して単身邪竜の下へ向かう事も可能なのだろうが、この状況で化け物と渡り合えるフレイル達が抜けると戦線の崩壊は免れない。フレイルに出来る事は向かって来る敵を一人づつ倒していくだけであった。

「これじゃ埒があきません、お姉様!それにこいつら死を恐れず突っ込んできます!」

「それだけ狂信しているのだろう!とにかくフレイル様に近付けさせるな!」

 ルーンとソニアはフレイルの周りで戦っているがその人数の多さに圧倒されている。

 墓所での戦闘がパリンストンによって伝えられたのだろう、フレイル達の体力を減らすかの如く邪竜教徒達が押し寄せる。教徒達は抱きつき、切り伏せられても足にしがみつき抵抗し、徐々にフレイル達は身動きが取れなくなっていった。

「きゃあ!」

 アーティは教徒達に押し潰され完全に動けなくなってしまった。助けに行きたくても周りも動けない。ルーンは爆発を繰り返してなんとかアーティを助けようと抵抗するが一瞬の隙をつかれ教徒が腕にしがみついて離さずこちらも動けなくなってしまった。

「邪魔するな!」

 ルーンが何度も爆発させても教徒は抵抗をやめない。いよいよ後ろからも抱きつかれてルーンは地に倒された。

「ルーン!大丈夫か!」

 ソニアもルーンの事が気掛かりだが自分の戦闘で余裕がない。ソニアが焦り戦況をどうすれば変えられるかと考え始めると遠くから馬が駆けてくる音が聞こえた。それも一匹ではない明らかに群れで迫って来ている。ソニアが横目で音が聞こえる方を見ると馬の集団が迫ってくるのが見えた。そして集団はレッドグレイヴ家の紋章が描かれている旗が掲げていた。

「ご無事ですか!フレイル様!遅ればせながらギースリー・レッドグレイヴ参上致しました!」

 馬にはギースリーを始めレッドグレイヴ家の兵達が騎乗しており、フレイル達の援軍に駆け付けてくれた。

「兄上!来てくれたのですか!」

「その声はギースリーお兄様!」

 ソニアとルーンの表情から曇りが消えた。

「ギースリー!この狂信者共を切り伏せ道を開きなさい!」

 フレイルはギースリーに命令した。

「承知しました!!全軍突撃!!レッドグレイヴ領を荒らした事を後悔させてやれ!」

 ギースリーは騎乗したまま集団に突っ込んできた。鍛えられた馬は教徒を踏み潰し蹴散らし道を開けていく。他の兵士達も同様にギースリーの後ろから突っ込んできた。

 教徒とも教徒ならレッドグレイヴの兵士も大概おかしい。化け物をものともせず平気な顔で戦場を駆け回る。

 ギースリーはアーティの周りにいる教徒を蹴散らし救出した。

「ありがとうございます」

 アーティはギースリーにお礼を言ってフレイルの下へ急いだ。

「なんでここに側仕えが?まあいい」

 アーティが戦場にいる事に少し疑問に思ったギースリーだが直ぐに戦闘に戻っていった。

「フレイル様!ここはお任せ下さい!さあ早く!」

 ギースリーが無理矢理瘴気の谷への道を切り拓いてくれた。

「感謝します!ソニア!ルーン!アーティ!行きますよ!」

 フレイル達は混戦から抜け出して瘴気の谷へ走り出した。追いかけようとする教徒達の前に騎乗したギースリーが立ち塞がる。

「行かせぬぞ」

 片腕の無いギースリーだがその迫力は凄まじく死を恐れぬ筈の教徒達がすくんでしまうほどであった。

「ソニア、ルーン、生きて帰れよ」

 ギースリーはほんの少しの願いを口にして戦いに戻っていった。

 

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