最終話
瘴気の谷
王墓での襲撃から息つく暇もなくフレイルは王都に戻っていた。そこで瘴気の谷に向かう準備をする。
巡回している兵士からの情報によると怪しい集団が瘴気の谷に向かって移動しているそうだ。その集団は状況から推察するに邪竜教徒で間違いないだろう。
フレイルは直ぐに部隊の編成を命令した。この機に一気に方を付けるつもりである。城では慌ただしく人が動き回り遠征の準備をしている。明日には出発する予定なのだ。
フレイルは今すぐにでも出発したかったがそれはあまりに無謀であり、エリザベートとソニアに嗜めなられながら明日を待った。
同時に神殿への調査が行われた。ただ思った成果は出なかった。
いつからパリンストンがいるのか、どうやって潜入したのか、聞き込みをしても誰もが煮え切らない返事をした。
恐ろしい事にいつの間にか神官になって、神殿に住んでいた。それに誰も疑問に思わず受け入れた。それだけパリンストンのスキルが強力なのであった。
翌日の早朝、部隊は王都を出発した。エリザベートは城に残りフレイルを見送った。
「フレイル、無事に帰ってきなさい」
「はい!お祖母様!必ず奴らを一人残らず豚箱にぶち込んでやります!」
力強く答えたフレイルの返答にエリザベートは額に手を添えて大きなため息をついた。
「皆さん、フレイルをよろしくお願いします」
エリザベートはソニア達に孫娘を頼んだ。それは守ってくれと言う意味と暴走しない様に見張ってくれの二つの意味があった。
城から出発した部隊はまるで戦争に行くかの如くの雰囲気で市民の間に不安が広がった。市民には大型の魔物を討伐すると伝えた。伝説上の怪物、邪竜の事は一切伏せている。
それはこれ以上市民を不安にさせない為である。フレイルも出来る限り馬車から手を振り市民を安心させた。
王都から瘴気の谷まで八日間掛かる。その間何も出来ない歯痒さがフレイルを苛立たせる。フレイル達が瘴気の谷に向かうまでそれだけの日数が掛かると言うことは、勿論パリンストンにとっても同じである。頭では分かっているが馬車に揺られながらフレイルは落ち着きなく何度も外を見て着くはずのない目的地に思いを馳せた。
王都から出発して八日後、遂にその日が来た。
兵士達は朝から戦闘準備をして慌ただしく動いている。この戦闘にフレイルも参加する。と言うより邪竜に対してはフレイル達しか近付けない筈だからだ。
フレイルも王族専用の鎧に着替えた。フレイル鎧は細やかな装飾が施され曇り一つない綺麗な鎧である。そして見た目だけでは無く鎧としてもしっかりと機能する、まさに王族のために作られた鎧である。
全ての準備が終わり整列した兵士達の前にフレイルが立った。そして兵士達に向けて演説を始めた。
「長きに渡る行軍お疲れ様でした。斥候より瘴気の谷の前に邪竜教徒が陣取り我々を待ち構えていると知らせがありました。幸いな事に未だに邪竜の姿は確認出来ていません。この機会を逃すわけには行きません。二度と奴等に邪竜復活など企む事が出来ぬ様に徹底的に壊滅させなさい。遠慮はいりません。誰一人として逃してはいけません。今日この日をもって邪竜の伝説に終止符を打ち、真の平和を勝ち取るのです。我々が新たな伝説になるのです」
フレイルの演説に兵士達は叫び声をもって応えた。それもフレイルの人柄だろう。これまでその小さな体で戦ってきたフレイルの事を皆は尊敬しており戦いに殉じる覚悟があるのだ。
「出撃!」
フレイルが高らかに命令した。兵士は列を成し行軍していく。勿論その先頭はフレイルである。その横にソニアとルーンが並び、後ろではアーティが土下座をしてるオーズを台車に乗せてついて来ている。
林を抜けると目の前に荒野が広がった、そこは草木が一切生えない不毛の地であった。奥には切り立った谷が見える。
そしてフレイルと谷の間には黒尽くめの集団が剣や槍を持ちこちらを睨んでいた。
「目標確認!戦闘態勢に入ってください!瘴気の毒に注意して深追いは避けるように!」
フレイルが叫ぶと兵士達は武器を構え戦闘態勢に入った。それと同時に邪竜教徒達は一斉にこちらに突撃して来た。中には化け物になる人間もいた。
フレイルはハンマーを掲げて叫んだ。
「迎え撃て!」
その掛け声に兵士達は叫びながら邪竜教徒達に向かって走り出した。
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