兄ちゃんボンバー
森の外では戦いが続いていた。化け物となったジュリアスの分身がフレイル達を襲っていたのだ。フレイルは自慢のハンマーを持っておらず戦いに参加出来ていない。他の騎士達が必死になって戦っているが化け物となったジュリアス達に決定打を与える事が出来ず、ジリジリと劣勢になっていた。
「フレイル様!お逃げ下さい!」
「逃げるって言ったって!」
周りの騎士は必死にフレイルを逃がそうとするがジュリアス達に囲まれてどうにも出来ない。
ソニアもこの危機的状況を打開するにはどうするべきか考えていた。
――どうする……このままでは危ない。倒しても倒しても分身してくる。手数が圧倒的に足りない……幸いにもオーズは土下座をしてくれてる様だが、姿が見えない限り安心は出来ない
ソニアは戦いながらも必死に考えていた。
その時森の中から爆発音が聞こえた。
「何ですかこの音は?」
アーティは怯えながら森の方を見た。この場にいる全員が何の音か分からなかった。ただ一人ソニアを除いては。
「これはルーンのスキルです!姫様!もしかしたら勝機があるかもしれません!」
「本当なのね!」
二人は喜び、目を合わせると爆発音以外の音も聞こえてきた。何処か遠くからまるで何かの叫び声の様なものだ。爆発音は徐々にこちらに近付いてくるのが分かる。何かを爆破させながらこちらに向かって来ている。そして爆発が起きるたびに何者かの叫び声が大きくなったり小さくなったりと響き渡る。
「何の音だ?それより誰の声だ?」
ジュリアス達も森の方を見た。よく見ると木のてっぺんの方で何かが爆発と共に上がって、そして落下しているのが見えた。それはどんどんとこちらに近付いて来ている。
その正体が何なのか一番早く気付いたのはフレイルであった。
「兄ちゃん!」
そうオーズが土下座の態勢で爆破されて宙を飛び、こちらに向かっているのだ。
近くで爆発音がした。すると、「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」オーズの悲鳴がこだまする。そしてオーズは森の上から現れて、森の中に落ちていく。そして爆発すると悲鳴と共にオーズが木々の上から飛び出して落ちていく。その繰り返しである。
誰もが、そして敵であるジュリアスでさえその光景に顔が引き攣っている。およそ人間にやっていい移動方法ではない。拷問である。
呆然とする集団で唯一フレイルだけがアーティに指示を出した。
「アーティ!次にオーズが見えたら直ぐに引き寄せて!」
「あっ!はい!」
爆破されている兄を呆然と見ていたアーティが返事をした。そして爆発と共にオーズが叫びながら飛び上がって来た。
「お兄ちゃん!来て!」
すると煙を纏いながらオーズがアーティの下へ飛んできた。その顔は恐怖でやつれていた。
飛んでくるオーズをフレイルは空中で掴み、振り回し、そして構えた。武器を手にしたフレイルの顔は自信に満ち溢れていた。無敵な体、壊れない武器、怖いものなしである。
「よく戻ってきたわね!褒めて遣わす」
「どうもです……」
オーズは疲れ果てていた。それでも土下座はやめない。
森の中からルーンが走りながら出て来た。
「姫様!ソニアお姉様!ご無事でしたか!」
「ルーン!加勢を頼む!」
「はい!お姉様!」
そこからは地獄絵図である。オーズを振り回すフレイルと両手を爆発させて吹き飛ばすルーンがジュリアス達相手に暴れ回った。
凄まじい爆発音で声が掻き消されるのをいい事にフレイルは好き勝手に叫びながらオーズを振り回す。
「ほら!ほら!ほら!分身してみろよ!何度だって叩き潰してやるからよ!モグラ叩きみたいで痛快だよ!ジュリアスさんよー!ほら、ほらペース落ちてるぞ!本気出せよ!さっきまでの威勢は何処に行ったんだ?」
唯一フレイルの声が届くオーズは何も聞こえないふりをしていた。
ルーンはルーンで久しぶりに使う爆発スキルをこれでもかと堪能していた。
「気持ちいいー!やっぱり縮こまってるのは性に合わないわ!敵は爆発させて倒すのが一番!どんどんジャンジャン分身してきな!」
こちらもソニアは聞こえないふりをしていた。我が妹ながら恥ずかしかったのだ。
先程まで必死に戦っていた騎士達もこの暴れ回る二人の中に割って入ることは出来ず、周囲で呆然としているだけである。
一人また一人とジュリアスが虐殺され、そしてついに最後の一人が倒されて消えてしまった。
「これでお終い?本体は?」
「どうやら逃げた様です」
フレイルとルーンは不満気であった。フレイルはようやくオーズを地面に置いた。オーズはフラフラになりながら立ち上がった。
「ルーン!」
「はい!何でしょう!姫様!」
「此度の活躍は見事でした。悪しき邪竜教徒を撃退したその力、私の為に使ってくれますか?」
明らかに護衛騎士の誘いである。選抜試験はジュリアスの襲撃で有耶無耶になったが先程の活躍を見ればルーンが相応しいの明らかであった。
「はい!この身朽ち果てるその日までフレイル様に仕えることを誓います」
ルーンは膝をつき忠誠を誓った。誰からも文句は出ない。と言うよりあの虐殺を目の当たりにして自分こそが相応しいなど言えるはず無く、巻き込まれるのも御免であった。
フレイルとルーンの間だけにいい感じの雰囲気が漂っていた。ソニアも頭を抱えて何も言えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます