提案

「なるほど、土下座をするとフレイル様が無敵になると……にわかに信じられませんが」

 屋敷に戻りソニアは必死にマルテに説明をしている。その間オーズはエントランスのど真ん中で正座をして床に座っている。

「本当なんです!自分が土下座をすると自分自身と姫様と妹のアーティが無敵になるんです!」

「うーん、オーズさん土下座してみて下さい」

 マルテの指示でオーズは土下座をした。マルテは壁に掛かっている剣を取り構えた。

「失礼します」

 マルテは剣をオーズの背中に振り下ろした。

「ひえ!」

 勿論オーズは傷一つつかない。ただいきなり斬りかかった事にオーズは情け無い悲鳴を上げた。

 ――この人迷いなく切ってきた……怖すぎる

 オーズは何も喋らないが内心マルテにビビり散らかしていた。

「信じていただけましたか?」

 ソニアは剣先を確認するマルテに聞いた。

「確かにこれは凄いですね、私では歯が立ちませんね。分かりました、オーズさん」

「何でしょう」

「事情を知りもせず疑った私をお許しください。そしてフレイル様も貴重な時間を無駄にしてしまい申し訳ございません」

「いいのですよ、彼のスキルは勘違いされやすいので」

 フレイルは微笑んでマルテの行いを許した。ただオーズには分かった。フレイルはこの状況を楽しんでいる事を。その口角が薄っすらとニヤついてるのがオーズには分かったのだ。

「その無敵のスキルは誰でもその恩恵を受けられるのですか?」

「今の所姫様とアーティだけです」

「何か条件でも?」

「えっと、妹的な存在だと無敵になれます」

 オーズは正直に答えるが流石に前世フレイルは妹ですなんて言える訳がないのでぼやかして伝えた。

「妹的存在?フレイル様は妹のではないのでは?」

「あの、だから妹的存在なんです。年下で守ってやりたいみたいな感じです」

 しどろもどろに答えるオーズを見てフレイルは笑うのを必死に堪えている。

「でもアーティさんは妹的存在ではなく、本当の妹ですよね?」

「えっと、妹的存在と本当の妹なら無敵になれます」

「なら他に年下の女の子がいれば無敵になれるの?」

「いや、それは出来ないかなと」

 どうしても答えが詰まるオーズだがそんな曖昧な返答にマルテは何か考えている。そして何か答えが出たのかマルテの口が開いた。

「オーズさんと私が結婚すればソニアは義理の妹になるのだけど無敵になれますか?」

 あまりに突拍子のない提案に一同驚いた。その中でも特にソニアが慌てている。

「なにを言ってるのですか!姉上!」

「でも理屈としてはそうでしょ?姉としてはソニアちゃんが心配なの。でも無敵になるなら安心でしょ?」

「そう言うことではなくて!」

「私が結婚するだけで別にソニアちゃんが結婚する訳じゃないのよ?」

「それでいいのですか!姉上は!」

「騎士爵の娘なんて誰も欲しがらないでしょ?運良く相手が見つかってもどうせ政略結婚でしょうし。それならソニアちゃん為にオーズさんと結婚した方がいいじゃない」

 二人はオーズを無視してやいのやいの言い合っている。だがマルテの方が弁が立つのかソニアは全く反論できていない。

 そんな二人をオーズは正座して見守るし事しか出来なかった。助けを求めようとフレイルを見たがフレイルは何やら考え込んでいる。アーティは兄が結婚するかもしれない事に思考を停止している。

 二人の言い争いにフレイルが割って入った。

「いいじゃないですか結婚して」

「ですよね!」

「姫様!」

「ちょっ!えっ!うそ!」

 口々にフレイルの言葉に反応する。

「オーズはレッドグレイブ家の一員になる事で王宮での風当たりも弱くなるでしょう。そしてソニアも無敵になる。誰も損をしません」

「そもそも本当に私も無敵になるか分からないのですよ!」

「その時はその時です。ただやってみる価値はあるかと」

「あのー私の気持ちは無視ですか?」

 オーズは恐る恐る聞いてみた。

「オーズも貴族の一員になれて嬉しいですよね?」

「え?でも?」

「貴族の結婚の申し出をまさか平民の貴方が断われるとでも?」

 フレイルの圧に押し込められるオーズは何も言えない。どんどん外堀を埋められいくオーズの結婚に誰も反対が出来なくなった。

「そうと決まれば結婚の準備をしなくちゃ、手紙を出して、それから……」

「あの私はどうなるのですか?」

 アーティはマルテに質問した。

「もちろん貴方もレッドグレイブ家に迎えるわ。新しく妹ができて私も嬉しいわ。何たって騎士の家系だから誰もオシャレに気を使わないの。アーティさん……アーティちゃんなら何でも着てくれるわよね?」

「は、はい……」

 既に妹扱いされているアーティもマルテの勢いに押されて返事しか出来ない。

 そんな風にマルテだけウキウキしていると扉が開かれ兵士が入ってきた。

「失礼します。拘束したドナルドル・ルドルドルフから証言を引き出せました」

 するとマルテは先程の浮かれ気分から直ぐに切り替わり真剣な面持ちになった。

「それでどうでした?」

「城門近くの武器庫を根倉にしていたらしく、立ち入り残党の捜索にあたっています」

「分かりました。残党は全て捕えなさい。生死は問いません」

「はっ!」

 マルテは簡単な指示を出して兵士を送り出した。

「姉上、城門近くの武器庫は……」

「ええ、兄様が管理している筈だわ」

「そんな、まさか」

 ソニアとマルテは何か悪い予感がしているらしく暗く真剣な顔をしている。

「私も空から侵入したと思ってたけど、兄様が手引きしたとなると簡単に街に侵入出来るわ」

「しかし兄上に限ってそんな事」

「私も信じられないけど……仕方ない兄様に直接問い出してみましょう」

 一行は事の真相を問いただす為にギースリーの下に向かった。

 

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