王墓での邂逅

フレイル達は馬車に乗っていた。ソニアとルーンは御者台に座り、オーズとアーティは馬車の中にいた。その中にはエリザベートもいる。周りにはフレイルの護衛騎士だけではなく多くの騎士が囲んで馬車を守りながら目的地に進んでいく。

 目的地は王墓。歴代の王族が眠る地である。勿論その中にはフレイルの両親も眠っている。

 馬車の中は重い空気が漂っていた。フレイルの目の前にエリザベートが座っているのも理由の一つだが一番の理由はそうではない。

「やはり辛いですか?両親の墓参りは?」

 エリザベートは心配そうにフレイルに声を掛けた。

「大丈夫です。辛いのはお婆様も同じでしょう?私だけが甘えるわけにはいきません」

「そう、成長したわね」

 エリザベートはそれ以上フレイルに何も言わなかった。

「お婆様、継承の儀はどの様に行うのですか?」

 フレイル達が王墓に向かっているのはただ墓参りをする為だけではない。その場で女神から授かった鎧を継承する儀式を行う為である。

 エリザベートから聞いた話では鎧は王墓に隠されているらしい。

「特別な様式はありません。鎧の隠し場所を教えるだけです」

 それを聞いてフレイルは安心した。またエリザベートに礼儀作法のレッスンを追加されるのではないかとハラハラしていたのだ。

「フレイル様、エリザベート様、見えてきました」

 御者台に座っているソニアから話しかけてきた。

 一行が馬車から降りるとそこには絶壁があった。見上げる程の高さのある崖の一部が削られ柱の彫刻が施されている。王墓は崖を掘られて造られていた。

「すごい……」

 思わずオーズは声を漏らした。それは圧巻の光景だったからだ。しかしそんな荘厳な王墓を見てもフレイルの表情は固い。どんなに大きく荘厳でもやはり両親の墓には変わらないのだ。

「これより先は私とフレイル、そして護衛騎士だけで行きます」

 エリザベートは周りの騎士にそう指示した。

「いってらっしゃいませ」

 アーティがフレイルにそう言うと、

「アーティにも着いてきてもらいます。重要な仕事を任せるわ」

 フレイルは嬉しそうにそう言った。何のことか分からないがアーティは了承した。


 王墓に入ると暗く長い通路になっていた。先頭にソニアが立ち明かりを灯しながら歩いてく。フレイルとエリザベートの近くにはルーンが足元を灯しながら歩いている。その後ろにオーズが土下座をしながらアーティに運ばれている。カラカラと音を立てて運ばれている。

 オーズは台車に乗せられて運ばれているのだ。

 これがフレイルがオーズに内緒で工房に話し合っていた物である。アーティはオーズが土下座をしながら移動できないかと考えた時に前世の知識から台車を思い出し工房に作ってもらったのだ。

 台車にベルトでオーズを固定して落ちない様にし、後ろから誰かに押してもらえばオーズは土下座をしながら何処へで行けるのだ。

「どうですかオーズ?台車の乗り心地は?」

 フレイルは嬉しそうに質問する。

「……はい、大変乗り心地は宜しいです。姫様のご慈悲、痛み入ります。」

 オーズは淡々と答えた。

 そもそも事の発端はオーズが普通に移動したいと言った事なのだ。今までオーズが土下座しながら運ぶ方法はフレイルが振り回しながら持っていく、馬に引き摺られながら連れて行かれる、スキルによって引き寄せられる、爆発の衝撃で吹き飛ばされるであった。これではいけないとオーズがソニアに相談した結果がこれだ。

 なのでオーズは今の状況を受け入れるしかなかった。最善ではないが他よりマシだからだ。

 そんなオーズに哀れみの視線を送るのが初めてこの状況を見るエリザベートだ。

「話には聞いていましたが……何というか……不憫ね……」

 エリザベートがこんなにも同情しているのは珍しい。フレイルはその事も何だが嬉しくなった。

「お、お気になさらず。姫様を守る為です。私もこれで食っていますから」

「そ、そうね」

 オーズはどう言えばいいか分からず心配しない様に言ってみたが、それでもエリザベートの表情は曇っている。この場合何を言っても反応はたいして変わらないだろう。

 そんな微笑みと哀れみと諦めの表情をそれぞれが浮かべつつ一行が歩いていると大きな扉の前に着いた。

「開けて下さい」

 エリザベートが指示するとソニアとルーンは二人がかりで重い大きな扉を開けた。扉は重くゴゴゴと音を立てながら開かれていく。

 扉を開けると広い空間が広がっていた。壁には幾つもの穴が掘られており棺が納められていた。

「まずは挨拶をしに行きましょう」

 エリザベートがそう言うと二つ並んでいる棺の下へ歩き出した。棺にはフレイルの両親の名が刻まれている。

 エリザベートとフレイルは二つの棺の前に立った。

「お父様、お母様、お久しぶりです。今は城の中も外も混乱しております。それでも私を守ってくれる多くの方のおかげで今もこうして生きています。だから安心して眠って下さい」

 フレイルは優しく棺に語りかけた。エリザベートも挨拶を済ませると本題に入った。

「今度はこちらに来てください」

 エリザベートが歩いた先にも棺が置いてあった。棺には何の名前も刻まれていない。

「開けてください」

 エリザベートがソニアに指示した。

「え、宜しいのですか?」

 ソニアが動揺すると、

「構いません」

 エリザベートは開ける様に促した。

 棺の蓋が開かれるとそこに鎧が安置されていた。その鎧は長年安置されていたのにも関わらず錆一つなく輝きを放っていた。

「これが女神様の鎧……」

 フレイルは思わず呟いた。誰もがその美しさに見惚れており息を呑んでいた。オーズもこの時ばかりは土下座をやめて鎧を眺めていた。

「これがスウィンバーン家に代々継承されてきた女神の鎧です。貴方はこれからこれを守り、次の代に継承しなければなりません」

 エリザベートは淡々と説明していく。フレイルも鎧に魅入りながらもエリザベートの話を聞いていた。その時、

「ご苦労様です」

 聞き慣れぬ男の声が響き渡った。その瞬間にオーズは土下座をして、ソニアとルーンは剣を抜いた。

 フレイル達が入ってきた扉の方を見ると二人の男が立っていた。一人は先日、選抜試験を襲撃したジュリアスである。もう一人は、

「神官様?」

 アーティがそう呟いた。

 もう一人の男は服は黒いローブを羽織っているがその顔は神殿でスキルを授けてくれた神官であった。

「まさか貴方が邪竜教徒とは驚いたわ」

 フレイルは神官に向かって言った。フレイルは顔には余裕な笑みを浮かべているが内心ではかなり驚いていた。

「目的達成の為には必要な事でしたから。申し遅れました、私はパリンストン・パックストンと言います」

 パリンストンは丁寧にお辞儀をした。

「さあ、挨拶も済みましたし、その鎧を渡してもらいましょうか。私も無意味な争いは好みません」

 ソニアとルーンは身構えた。

「ふーんそれでようやく邪竜とやらに会えるってわけ?」

 フレイルはパリンストンに向かって言った。

「と言うと?」

 パリンストンは表情を崩さずにフレイルに聞き返した。

「あんた達邪竜教徒のくせに邪竜に近付けないんでしょ?邪竜から瘴気が出てるからね」

「……」

「それで鎧が欲しいのでしょ?それか無敵になれるオーズや私を攫って何かさせようと企んでたんでしょ?」

 パリンストンは笑いながら答えた。

「随分察しがいいのですね。そうです、その為にわざわざ城や神殿、レッドグレイヴ家に潜入して探りを入れてたのです。まあレッドグレイヴ家は無駄足でしたけどね」

 パリンストは挑発する様にソニアとルーンを見た。ソニアもルーンも敬愛する兄が洗脳されたことに怒りを覚えていた。今すぐにでも切り掛かりたいがその気持ちを押し込めている。

「とんだお笑いね、信奉してるくせに近付けないなんて」

「神に近付く為にはそれ相応の準備が必要なのですよ。もうお喋りはいいでしょう。行きなさい!ジュリアス・ジェニアスJr.!」

 ジュリアスはパリンストンの指示により石を取り出して化け物に変身した。その事にもフレイルは突っかかった。

「ところでその下品な石っころは何?誰かのスキルなの?」

「これは代々邪竜教徒に受け継がれてきた邪竜様の一部です。邪竜様の力を宿し我らに力を与えてくれるのです」

 フレイルが質問するとパリンストは丁寧に答えてくれる。それ程余裕なのだろう。

「さあ!その鎧を渡してもらおうか!」

 ジュリアスは分身をしてフレイル達に襲いかかってきた。

「ソニア、ルーン行きなさい!」

 フレイルの命によりソニアとルーンはジュリアスに向かって走り出した。

 

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