第45話 昇降口前の会話

学校のざわざわ賑わう昇降口で、咲夜は靴箱から上靴を出した。

隣には、上靴に履き替えた悠がいた。一緒に今朝も登校して、心がほくほくしていた。今日の悠の髪型は決めて来たのかと思いきや後ろの方が寝ぐせでチョンとはねていた。


「悠、髪少しはねてるよ」

「嘘、マジで? 今朝、鏡見ながら水付けまくったよ?」

「残念だったねぇ。ちょっとはねてる」

「おかしいなぁ。ワックスもつけてきたのに……」

 

咲夜は、悠の困った顔を見て、うれしくなった。なかなかダメなところを見せない悠。ほとんど完璧なところばかりしか見えてなかった。珍しく、抜けてるところを見て、ほっこりした。


「教室行こう?」

 昇降口前の大きな鏡を見て、再チェックする悠は咲夜のことを忘れるくらいだった。

「あ、ごめん。もう、今朝はちょっとやな気分。

 寝坊したわけじゃないのにさ。むしろ、めっちゃ早起きしたんだよ」

 

 廊下を歩きながら、後頭部をかく。


「私は、悠の寝ぐせつきも含めて好きだけどな。

 なんか、かっこかわいいし……」

「そ、そう??」

「うん。気にしないでいいって。ほら、整っているから」


 そこへ2人の間を割って入る人がいた。


「はいはいはい。朝から熱々は学校で見せないでくださーーい」


 琉偉は、咲夜と悠の間を割って入って進む。その後ろには翼が見守っていた。


「はぁ?! ちょっと邪魔しないでよ」


 咲夜は琉偉を見て怒り始めた。悠は咲夜の横にいるだけで満足していたため、琉偉がいても気にならなかった。


「先輩、最悪。人の邪魔するって……」


 翼はぼそっとつぶやいた。その顔を見て、冷や汗をかく。


「うそ、冗談通じない? 俺、変なことした?」

「あれ、翼。おはよう。なんだ、来てたんだね。ん? 2人で来たの?」

 

 咲夜は空気を察していた。悠は状況を知らずに理解に苦しむ。


「咲夜、おはよう。うん、まぁ。そんなところだけど、いろいろねぇ、見てて何だか本当に先輩かなぁって思うところが……」

「だよね。琉偉って精神年齢がね。わかるよ、その気持ち」


「なぁ、あんた、咲夜と付き合ってるんだよな。しっかり守らないと許さないからな!!」

 ばちばちと目から雷を出すくらいの勢いで悠と琉偉は睨みあっていた。2人は、犬猿の仲だ。翼という彼女ができても引きずっているのかもしれない。


「琉偉!! もういいから。翼のこと大事にしなさいって!!」


「……え? なんでそのこと知ってるの。俺、まだ何も言ってない」

「大体想像つくよ。琉偉のことだから」

「マジか。俺のこと、やっぱり好きだったんだな。ごめんな、今大事なのは翼ちゃんだからさ。咲夜、もう、お前のことは……」


 一人芝居が始まっているようで、琉偉は翼の横に立ち、肩に触れた。翼は何だか複雑な顔をする。


「咲夜、私、間違ったかな」

「……ごめん、私、何とも言えないわ」

「さっきから話し見えないんだけど、どういうこと?」


 悠は状況がいまだに飲み込めていない。琉偉はデレデレで後頭部をかいていた。

 咲夜と翼は、見つめ合って、呆れ顔だった。

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