第10話 悠の想い

始業のチャイムが鳴る。

咲夜は、まだ昇降口で靴を履き替えていた。


昨日の出来事で、考えすぎて眠れなかった。


悠と過ごした1日がとても楽しかったのを覚えているが、最後のあれは、受け入れても大丈夫なのだろうかと自問自答してしまう。自分自身がおかしくなってしまったのか。それとも悠の方が…。いや、人のせいにしてはいけない。これは自分の問題だと言い聞かせながら、首をブンブン振って、靴箱の扉を閉めた。


「おはよ。」


横から声をかけてきたのは

昨日会った悠だった。


「あ、あーーー。」


顔を赤くなっているのを隠せなかった。


「お、お、おはよう。悠。

 昨日はありがとうね。

 楽しかった。」


 とりあえずはこれは言っておこうと

 ドキドキしながら話すが、

 声が裏返っている。


「う、うん。それはよかったね。

 咲夜、急がないと、

 担任の先生来ちゃうよ。」


 悠は、今それどころじゃないよと

 促すように小走りで2階にある教室に

 足を進めた。


 悠は1年2組、

 咲夜は1年3組で別のクラスだった。

 手を振って、それぞれの教室へ向かう。

 ギリギリセーフで担任の先生は

 まだ教壇に到着していなかった。

 職員会議で遅れていたらしい。

 会議が長引いてラッキーとさえ感じる。


 同じクラスの翼が咲夜の前の席に

 座っていた。先生が来ていたため、

 口パクで挨拶した。


 朝のHRが終わるとざわつく教室で

 翼がじーと咲夜を見る。


「昨日、悠と一緒にデートしたって?」


「え、なんで知ってるの??」


「聞いたよ。友紀奈から。」


「え?なんで友紀奈ちゃんが知ってるの。」


「さーて、なんででしょう。」


「えー、気になるでしょう。」


「まぁまぁ、出所はいいから、

 どんな感じだったか教えてよ。」


「どうして、翼は気になるの。

 別に普通だよ。

 女子デートみたいな…うん。

 そういう雰囲気の楽しい感じ。」


「…?

 その間は何かな?

 まさか…それ以上?」


 咲夜は慌てて翼の口を塞ぐ。

 周りの視線が気になった。


「むぐむぐ…(まだ何も言ってない)」


「恥ずかしいから昼休みにその話しよう。」

 口を塞がれながらこくこくと頷いた。


**** 

授業が終わっての昼休み


咲夜と翼は教室のベランダに移動して、

お弁当を広げた。


「さてと、聞きますか。

 どうでしたか?咲夜ちゃん?」


「…もう、朝に聞いてきた時は

 ひやっとしたよ。

 みんなに聞かれてたらどうするの?」


「そんな恥ずかしいこと聞いたかな。」


翼は箸で卵焼きを摘んだ。

咲夜はペットボトルのほうじ茶をごくごくと飲んでのどを潤した。


「翼はどう思ってるかわからないけどさ。

 悠ってかっこいいよね。」


「悠は中学の頃から

 女子にモテモテだったよ。

 バスケしててね。

 それはバレンタインチョコも

 男子に負けじとたくさん

 もらってたのよ。 

 先輩後輩関わらずね。」


「え?!そうなの?

 女子なのに?

 男子よりもモテるの?」


「だって、かっこよくて

 女子の気持ちをわかってくれるなんて

 最高じゃん。

 変に、男子と一緒にいるより

 みんな癒されるのよ。

 男子は臭いダサい幼いだから。

 悠は男っぽいけど男じゃないからね。」


「ズバッと言うね。翼。

 クラスの男子ドン引きだよ。」

 

 後ろで少し聞こえていた男子が

 がっかりしていた。


「まぁ、そんなの図星ってことっしょ。」


「いや、まぁその、わからないけど

 え、それは本当に

 悠はお付き合いしていた人も

 いたのかな。」


 咲夜は小さな声で話し出す。

 翼はニヤニヤと笑いながら、

 口をおさえた。


「咲夜ちゃん、昨日何があったのかな?」


「ちょっと、はぐらかさないでよぉ!」


「もう、仕方ないなぁ。

 悠本人は認めてないけど、 

 そういう雰囲気になったっていう女子

 たくさん聞くよ。

 あやつは策士だね。」


「え、そうなの?

 そしたら、私だけじゃないんだね。」


「え、だから、何があったのさ。」


「そ、そ。それはちょっと……。」


「ハグされた?」


「……ま、まあ、そんな感じだったかなぁ。」


「実は寸止めハグあるよ。

 なんでってくらいで止めてさ。

 あーじれったいって感じで笑っているの。

 もっとやってって言うと

 もうやだって言うんだよ。

 悠は天邪鬼だわ。」


「…へぇ、天邪鬼なの。

 翼にはそういう感じか。」


「んで?咲夜は?」


 咲夜は恥ずかしくなって、

 翼に耳打ちした。

 翼は恥ずかしくなって

 耳まで赤くしていた。


「嘘。悠がそこまでした女子

 今まで聞いたことないんだけど、

 咲夜本命なんじゃない?」


「……え?私、本命?

 でも、どうしたら良いのかな。」


「咲夜、悠のことは?」


「嫌いではないんだけど、困惑してて…。」


「……受け入れにくい?」


「まだね。女子同士だし

 私大丈夫かなって。

 傷つけたりしないかなという

 不安もある。」


 翼はバシバシと咲夜の背中を叩く。


「まぁまぁなるようになるよ。

 かたくならずに自分がこうだって

 思ったように動けばいいじゃない?

 周りの視線とか意見とか関係なしに

 自分自身の想いには素直になった方

 いいよ。」


「……だよね。

 まだ何も始まってないけど。

 真剣に考えておこうかなって思う。」


「悠も喜ぶと思うよ。

 いいなぁ、羨ましいなぁ。」


 翼は頬杖をついて咲夜をジロジロ見る。

 咲夜は頬を赤くして顔を隠す。

 

 

 空では、飛行機が

 低空飛行していて音が響いていた。

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