第49話 ほんわかした気持ち

どんよりと曇った空、少しずつ雨が降ってきた。

傘が壊れてしまい、買いなおしたばかりの紫色のドッド柄の傘。

お気に入りだった。悠は、深呼吸をして、家の玄関を出た。

救急車で運ばれて元気の出る咲夜と翼のメッセージに勇気をもらった。

ほんの些細な言葉でもこんな元気に出るんだと思うとウキウキしてきた。

もう変な誹謗中傷な言葉なんてなんだったっけと忘れるくらいだった。


水たまりに勢いよくスニーカーで入ったが、水は入らなかった。

厚底スニーカーで良かった。

雨でもいいことが起こりそうだと笑みをこぼす。


◇◇◇


「悠、おはよう」


 学校の昇降口、後ろから咲夜が声をかけた。傘で顔が見えないはずなのに、すぐわかったらしい。それだけでも嬉しかった。


「咲夜、おはよう。すぐわかった?」

「うん。だって、制服のズボン履いてて、紫の傘持つのって悠くらいかなって思っちゃってね」

「え、そう?」

「別に、紫って色は男女どっちでもいいんだろうけど、ドッド柄は悠らしいかな」

「嘘、私はドッド柄っぽい?」

「うん」


 咲夜はニコニコ笑顔で答えた。彼女が笑顔になって、傘のことなんてどうでもよくなった。


「咲夜、3日前はごめんね。心配かけたよね」

「ううん。大丈夫。元気になったらよかったよ。ゆっくり休めた?」

「うん。そうだね。ちょっと寝すぎて腰痛いくらい」

「若いのに、腰痛いって……」

「やりすぎた時も腰痛くなるんじゃないの? やってないけど……年齢関係ないよね」

「あーーー、そういう話? 私そういうのまだよくわからないからなぁ」


 空気を読んだ咲夜は、あごに手をあてて考える。


「んじゃ、試す? 今度」

 

 キラキラビジョンで咲夜に近づく悠。そこへ、邪魔が入った。


「はいはいはい。朝からそういうの見せないでぇーーー」

 

 琉偉がお決まりコースで昇降口の廊下で、2人の間を割って入った。

 翼が横でポコポコと琉偉をたたいた。


「琉偉、2人を邪魔しちゃダメだよ!! ばか!」

「いいだろ。俺はこの役回りなんだから。公共の場でよくないだろ。みんなジロジロ見てるから」

「えー、でもさぁ。彼氏彼女の邪魔しちゃいかんって」

「んじゃ、俺らは俺らでラブラブね」

「自分のことはいいのね」


 咲夜は呆れてため息をつく。悠は気持ちを切り替えて、琉偉に声をかける。


「琉偉先輩」


 神妙な面持ちでいつもと違う悠が逆に引く琉偉だった。


「え、何。いつもと違うじゃん。気持ち悪いなぁ」

 

 ぞわぞわと鳥肌が立つ。

 悠は深々とお辞儀をした。


「この間は、ありがとうございました。助かりました」

 

 目が点になる琉偉はしばらく沈黙になってから


「マジか。俺、今、お礼されたんか。まさか、あんたにお礼を言われるとは思わなかったぜ。犬猿の仲だと思っていたからさ」

「いえ、見直しました。もう、前の失礼な態度はとりませんので、失礼いたしました」

「いやいや、キモイキモイ。やめてよ。喧嘩できねぇじゃん」


 お辞儀したまま、起き上がろうとしない悠。真剣に挨拶する。弓道部に所属するだけ礼儀はきちんとという思いが強かった。


「お、おう」

 

 むしろ威圧感を感じてしまう琉偉は翼のことをそっちのけに教室へささっと移動していく。


「ちょっと、琉偉! 私のこと忘れている!!」

「なんだかわかり合えたみたいだね。2人とも」

 

 咲夜はほっと一言つぶやいた。咲夜と悠は、顔を見合わせて、微笑んだ。

 ちょうどその時に学校のチャイムが鳴る。

 3人は慌てて、教室の方へ移動した。


 校舎のカザミドリがカラカラとまわっている。




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