第42話 気持ち晴れやかな通学路

部活終わりの咲夜は、汗をかいてすっきりした悠と並んで歩いていた。

軽自動車が一台通り過ぎると悠は、道端の転がる石を蹴飛ばした。


「何か、今日、咲夜さ。ご機嫌じゃない?」

「そ、そう?」

「さっきから鼻歌聞こえるよ」

「えー、無意識で出てくるんだよね。」

「翼のことでそうなったの?」

「あ、うん。もう、元通りになったからさ。

 親友に格上げです!」

「なんか、もち妬くなぁ……」

「なんで、なんで? あ、そっか。

 悠にとってのライバルは男子だけじゃないもんね。

 女子もかぁ。ごめん、ちょっとめんどいよぉ~!」

「あーーー、ひどい、咲夜、めんどいとかいうー。

 泣くよ、マジ泣きたくなるよ、それ言われると」


 急に女々しい考え方になる悠に咲夜は目を丸くして

 驚いた。悠は、少しだけ涙が出る。


「悠がそんなふうに言うなんて想像してなかった」

「私は、元は女子ですから!!」

「まぁ、男子でも女々しい人いるからね。

 琉偉もそうかもしんない」

「な!!琉偉先輩と一緒にしないでよぉ!!!」


 悠は、本気でお怒りのようだ。頬を膨らませて憤慨している。

 感情の高ぶりが激しかった。


「ごめん」

「うん、許し難し!」

「えー!?」

「アイスおごってくれたら、許す!」

「アイスですか……」

「うん。チョコミントが好きだなぁ?」

「はいはい。ギリギリ300円財布に入ってたから

 いいよ。コンビニの指定はありますか?」

「ありません!行こう」


 急にご機嫌になってきた悠の足取りは早かった。

 さっきとご機嫌が逆転している。

 財布の中が寂しくなるのが悲しくなる咲夜だった。

 2人仲良くコンビニ入って行った。


◇◇◇


 一方その頃、翼は昇降口で柱に背をつけて、

 あっちやこっちをキョロキョロしながら、誰かを待っていた。

 待ち合わせをしていたわけじゃない。

 この時間をここを通るだろうと予測して待っている。

 しつこいやつかと嫌がられるかなとか、

 なんでここにいるかと不思議に思われるとか

 いろんなことを考えて、少し思案顔をしていたら、

 後ろから声をかけられた。

 

「翼ちゃん?ここで何してるの?」

「わ、わ、わぁ!!!」

 肩をポンとたたかれて、ジャンプして

 驚いた。声をかけてきたのは琉偉だった。

 しゅーとやかんで沸騰したように

 顔が一気に赤くなった。

「誰かと待ち合わせ?」

 翼は、何も言わずにブンブン顔を横に振る。

 周りは帰宅生徒たちでちらほらと溢れていた。


「琉偉!!また明日な!!」

「お、おう」

 突然、琉偉の同級生が手を振って声をかけてきた。

 琉偉はすぐに反応して手を振る。


「あ、ごめん。大きい声出したわ」

「いえ、まぁ、大丈夫です」

「翼ちゃん、帰り1人なの?」

「あ、はい。まぁ、そうですね……。」

 顔を赤くしたまま、下を向いて返事した。

 琉偉は、翼の行動が気になって、下から顔を覗く。

 さらに恥ずかしくなった。

「さっきから何してるの?

 顔熱い?熱でもある?」

 琉偉は、翼の額に手を当てた。

 まさかそんなことをされると思わなかった翼は、

 さらに頭から煙が出るくらい緊張していた。

「熱はないみたいだね。大丈夫?」

 琉偉のビジョンがキラキラに見えた。

 幻覚か。すごいイケメンに見えてくる。

 前はそこまで緊張しなかったのに、

 なんでこんな態度になってしまうのか自分でも

 わからなかった。その場にいることがものすごく

 恥ずかしくなって、ダッシュで逃げた。


「翼ちゃん!?」

 急に走り出したため、琉偉はびっくりしたが、

 なぜかとっさにすぐに追いかけた。


「おーい、なんで急に走るのさ。

 一緒に帰ろうよ。電車乗るの?」


 琉偉は、追いかけながら、翼に声をかける。

 振り返ることなく、そのまま早歩きで進む。

 どうにかたどり着いた琉偉は、翼の前に立ちはばかる。


「ストップ!!」


 急にはぐされた。急いで走る闘牛にでも思ったのか、

 琉偉が闘牛士にでもなったのか。

 走って行こうとする翼をとめた。


「そんな急いで走らないでもいいっしょ。

 まだ、時間あるから。歩いていこうよ」

「……先輩、近いです」


 腕をつかむ琉偉がㇵッと気づいて、

 パッと手をはずした。


「わぁ、ごめん。

 だって、すごい早く歩くから。

 転んじゃうからゆっくり行こうよ、ね」

 本当はもっと長く腕をつかんでほしかった。

 願望と現実は違うものなのか。

 恥ずかしさが強烈だった。

 周りの生徒たちがジロジロ見ているのもある。

 気にしないようにしないと今後この人と

 いられないのもわかっている。

 今は慣れていかないとと感じる翼だ。


 離れようとすると、翼の髪の毛が、

 琉偉のブレザーのボタンにひっかかった。


「痛っ」

「わ、ごめんごめん。今取るから。 

 じっとしてて」

 ものすごく近い。琉偉から柑橘系の匂いがする。

 きっと制汗剤スプレーの匂いだ。

 男子でも匂いに敏感なんだろうなと予測する。

 こんなに近くから顔を見たことがない。

 もっとさらに恥ずかしくなって、

 翼は、どんっとお腹あたりを手で押してしまった。 

 

「うはっ!強烈」

 翼はそのまま申し訳ないことをしたと

 駅の方まで走り去っていった。

 

 琉偉は、びっくりしたが、 

 特に怒ってる様子はなかった。

 むしろ、面白くなって笑みをこぼしていた。


 

 


 

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