第17話 教室の出入り口付近にあるもの

 授業終わりのチャイムが鳴る。

 翼が咲夜の近くの席に座った。


「ねぇねぇ、咲夜。

 今年のクリスマスって誰と過ごすの?」


 昼休みに翼が口を開いた。

 咲夜は食べていた卵焼きをポロッと

 お弁当箱の中に落とした。


「あ、危ない!セーフ。

 まだ食べられるね。

 って、翼、突然じゃない?

 びっくりしたよ。 

 そういう翼は決まってるの?」


「ふふふ…。

 スーパーのクリスマスケーキ担当の

 バイト入れました!!」


「えーー、ケーキ美味しそう。

 いいなぁ。予約してあげようか?」


「いやいや、ツッコミどころ

 ありすぎでしょう。

 クリスマスだよ?

 恋人と過ごさないの?とかないの?」



「いやいや、ケーキ食べたいなって

 思っちゃったよ。

 翼のバイトはどんな仕事するの?」


「えっと、注文したケーキを

 取りに来たお客さんに渡す係。

 ほら、お母さんがスーパーで

 働いてるから手伝ってって言われたんだ。

 って、咲夜、私が言いたいのは

 そのことじゃなくて…。」


「そうなんだ。

 ぜひ、ホールケーキ注文するね。

 バターケーキは苦手だから

 もちろんいちごの生クリームで

 お願いします!!」


「話を聞けや!」


「あ、ごめんごめん。

 何だっけ。

 えっと、クリスマス

 誰と過ごすかってことだよね。

 今、まだ11月だから

 決めてないけど…。

 多分、悠と過ごすかな。

 あ、バイトとか入れてないか

 確認してみないと…

 確か郵便局の年賀状の仕事

 面接受けるんだって言ってたんだ。」


 咲夜はスマホを出して、

 ぽちぽちとラインのメッセージを

 打ち始めた。

 するとすぐに既読になり返事がきた。

 向こうももちろん昼休みで

 スマホを見ていたらしい。


「翼、悠もその日バイト入ったんだって。

 あちゃー。何もできないや。

 仕方ない当日じゃなく…

 25日なら大丈夫らしい。」


「ふーん。24日はフリーダムなんだ。」


 横目でじーと見つめる翼。

 咲夜の考えてることは少しわかっていた。


「あれは?

 幼馴染の琉偉先輩いたよね?

 誘われてないの?」


「え?何?

 恋人でもなんでもないのに

 なんで?」


「だって、幼馴染のグループで

 カラオケ行ったりするんでしょう。」


 咲夜はお弁当の蓋をしめて、

 バックの中にしまった。

 お茶が入ったペットボトルを

 喉をならして飲む。


「そ、そうだね。

 気の知れた仲間って感じだし、

 最近頻繁に誘われてるんだ。

 それで、悠にヤキモチ妬かれて

 喧嘩しそうになった。

 ごまかして、買い物とかカフェに行く

 約束するけど…。」


「…ほら、言わんこっちゃない。

 悠のこと、本気にしてないでしょう。」


「え、本気だよ。

 好きだもん。で、でも、どこかね。」


「女子だと思ってるでしょう。

 それはそうだよ。

 男子3人に囲まれて、悠並べたら

 女子だもん。悠は。

 制服もスカートだし。

 私服にしたら超かっこいいけど。」


 翼は咲夜を睨んだ。

 咲夜はバックを持って顔を隠した。


「ご、ごめんなさい。

 まだ慣れていないっていうか

 彼氏って言って良いものかどうかで

 悩んでて…

 それでそのカラオケも断りづらい。」


「それさ、悠傷つくよ。

 咲夜、本気じゃないって思ってるかも。」


「……そ、そうだよね。

 私、何がしたいんだろう。

 確かに悠は私のこと大事にしてくれるし、

 話をしっかり聞いてくれるよ。

 あのカラオケメンバーは

 ただただ歌って楽しいって会で

 話なんて聞いてくれないし、

 琉偉なんて異様に隣に座って近いし

 パーソナルスペースって

 わかってるのかなって感じる時ある。」


 翼は腕を組んで考えた。

 咲夜のことをじっと見つめる。


「な、何??

 何かついてる。」


「咲夜って鈍感?」


「え?へ?何が?」


「琉偉先輩、咲夜のこと好きだわ。」


「は?!

 いやいやいや、それはないって。

 泣き虫だよ?弱いよ?

 男子じゃないって思ってるもん。」


「……そうじゃない。

 それは咲夜の気持ちであって先輩は

 そう思っていないよ。」


「えーー、やだやだ。

 変に意識しちゃうじゃん。

 やめてよ、翼。」


「……そしたら、

 次会った時聞いてみたらいいさ。

 それではっきり断って、悠のこと

 安心させてあげて。

 何度も言っておくけど悠は女子からかなり

 モテてるんだよ?

 ファンクラブあるって

 言わなかった???」


「うんうんうん。そうだよね。

 はっきりさせるよ。

 そうしないと悠がかわいそうだもんね。

 他の好きな女子にも迷惑かかる。

 優柔不断でごめんね。

 うん。頑張るよ、私。」


「うん、別に頑張ることはあまりないよ。

 自然でいいよ、自然で。」


「あ、そっか。

 だよね。うん。琉偉に聞いてみるね。」


 翼は何度も頷いて同意する。

 ここまで鈍感な咲夜を見て大丈夫かと

 心配になる。


 そうこうしている間に教室の出入り口で

 悠は目をギョロっと出して

 咲夜のことを見ていた。

 まるでストーカーのような

 行動をしている。


 廊下を通る悠の好きな女子たちが

 不審がっていた。


 咲夜は悠にかわいいスタンプを何個も

 送って安心させようとするが、

 悠はスマホを見ていなかった。


 校舎の上のカザミドリがカラカラと

 なっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る