第35話 新しい恋の予感
ライブ会場は
ざわざわと騒がしくなっていた。
ワンドリンク制の会場で
翼はレモンティーを選んだ。
琉偉とともにアマチュアバンドを
結成していたのは咲夜と幼馴染である
もっくんとやっさんだった。
琉偉はギターを片手にスタンドマイクを調整した。マイクテストをして、音を確認する。
「あーー。」
ビブラードを響かせた。
琉偉の顔を1番後ろの列から1人見守った。
誘おうと思っていた咲夜には
声をかけられず、当日になってしまった。
全く行かないのはせっかくのチケットが
もったいないと思い、翼は1人での参加を
決意した。ライブを1人で観客として
参加するなんて人生で初めてだった。
めいいっぱいオシャレをした。
目劣りしないようにといつもしたことない
くるくるふわふわのパーマにして
ひらひらのフリルつきネイビーの
ワンピースを着た。
化粧は学校では校則違反だとしたこと
なかったが、独学でYouTubeで学び、
瞼をブラウン系のアイシャドウに
してみた。
マスカラはお湯でも取れるもので
まつ毛がしっかりとボリュームが
あるもので仕上げた。
アイライナーは目尻をくいっとあげた。
長期休みのアルバイトで貯めたバイト代が
ほとんど化粧や洋服に消えていった。
翼はそこまで何をやっているんだろうと
放心状態になるくらいだった。
琉偉はマイクを握って、バラードを
歌い始めた。失恋の歌詞になっていた。
きっとこの歌は咲夜のことを言っているん
だろうなと想像する。
すっと胸の中に染み渡った。
涙がホロリと頬を伝う。
咲夜のことを思い出す。
琉偉の気持ちが歌詞に表現されていた。
♪なんで、俺じゃないんだ
そばで ずっと 見てきた はずなのに…
きみは すぐ 近くいても、
心は 遠くに いるんだね
こんなに 好きな 気持ちを
どこに ぶつけよう
……ああ……ああ…… ♪
全部で3曲歌った後に、
地元のインディーズバンドのメンバーと
入れ替わった。
翼は演奏が終わったのをしっかりと見て、
出入り口で待っていた。
いわゆる出待ちだ。
ファンがいるのかと思いきや、そこまで
殺到していなかった。琉偉たちよりも
インディーズバンドの“クリームソーダ”の
メンバーの声援が激しかった。
「やっぱ、インディーズはわけが違うよなぁ。」
背中にギターケースを背負って、
ボソッとつぶやく琉偉がライブ会場の
裏口からメンバーと一緒に出てきた。
翼はすぐそばで静かに待っていた。
「あ、あれ、きみ…翼ちゃんだよね??
ん……咲夜は来てなかったか。
やっぱ、振られたかな。ハハハ。」
泣きそうな笑いをする琉偉に励まそうと
力を入れようとしたら、滅多に履かない
ヒールでずっこけた。
琉偉が左腕で翼を受け止める。
ミックスベリーの香水が漂った。
「おっと、大丈夫か?」
翼の両手を受け止めた琉偉は、
香水の匂いにドキッとする。
咲夜と同じ匂いだった。
頬を真っ赤にした翼は、慌てて、
起き上がった。
「え、あ、いや、大丈夫です。
お気にせず。」
「お、おう。気をつけて。
咲夜来てないってことは
1人で見に来てくれたのか。
ごめんな、
こんな売れないメンバーで…。」
「お、おい!!!」
メンバーの他2人が騒いだ。
琉偉がゴメンのポーズで謝った。
「そ、そんなことないですよ!!
最後の“
って曲は胸にささりました!!
すごく良かったです。」
「まじで?!嘘。
超嬉しいんだけど。聞いた?
良かったってよ?」
「あー、そうだな。」
やっさんは琉偉をなだめるように
返事する。
もっくんは人見知りのため黙ったままだ。
「応援してますから。
またライブしてくださいね。
次はぜひ、ワンマンライブで!!」
「できるといいけど…
いや、絶対やるから。
翼ちゃんも見に来てね。」
「はい!!」
照れながら、翼はぐっと琉偉に
手を握られた。
骨骨とした男性の手で握られるのは
生まれて初めてだった翼は、
なんとも言えない顔をして、お猿のように
真っ赤に染めた。
西の空では下弦の月が輝いていた。
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