第78話 無限の正体




「その顔は、どうやってやったか理解してないようだな」

「……有を無に帰す力だったよね。まさか、そんなことは有り得るの?」

「ククッ、どうやら理解したようだな」


 そう話している間も、二人は不思議な動きで攻撃を繰り出し避けるの繰り返しだった。レイは自分がやっていることを似たようなことをしてくるアリスに驚いたが、今は冷静を取り戻しており、なんとか攻撃を避けていた。


「……空間を無くしている。だから、距離が元から無かったように、縮まっていた。でも、空間なんて、形が無い物を――――」

「誰が、形がある物や眼に見える物しか消せないと言った?」


 確かに、アリスは有を無に帰すことが出来ると言ったが、目には見えない空間までは消せないとは言っていない。アリスにとっては空間だって、|有る物(・・・)なのだから。


「……くっ」


 レイはなんとか避けている時に、隙を見つけて体術でアリスの身体へ打ち込んでいたが――――




「これが、三つ目だ。『無喰(ムク)』」




 レイが撃ち込んだ攻撃はアリスの身体に少しだけダメージを与えたが、アリスもそろそろ反撃に移ることにしていた。そして、撃ち込んだ拳がアリスの身体に接触した瞬間に、無に侵食されたように腕が少しずつ消えていく。


「……いっ!」

「その早い判断に救われたか」


 レイは完全に無へ侵食される前に肩辺りを手刀で斬り落としていた。無に侵食された腕は一秒もしない内に消え去っていた。


「…お、お兄ぃ!」

「レイ!」


 レイに呼ばれ、ゼロがレイに向かって手を伸ばすと、斬り落とした筈の腕が元に戻っていた。斬り落とした結果が無くなったように、腕は元通りになっており、服さえも綺麗なままだった。


「理想で傷をも無かったことにすることも出来るか。そうそう、三つ目だったな。その力を使っている間か、この結界にいると他のスキルが使えない。だから、体術ばかりで攻撃をして来る。間違っているかい?」

「……」


 これも図星だった。理想の結界が張られている間は、『理想王(オルタ)』以外のスキルが使えない。ゼロも同様で、『理想神(エデン)』しか使えなくなっており、理想を現実に変える強力な力の変わりに、これ程の制限が掛かってしまうのだ。大抵は理想を現実に変えるだけでも、ほぼ何でも出来るので、困ることは無いが――――『理想神(エデン)』に劣る『理想王(オルタ)』にはアリス相手では、役不足のようだった。


「まだゼロは参戦しないのか? そろそろ魔力も全快になっている頃だろ?」

「……これも勝つ為に」

「呆れた。実の妹を犠牲にしてまでも、俺を倒したいのか? それが望みなら、すぐやってやるがー――――ッ!?」


 なかなか参戦しないゼロに焦れたアリスは、もうレイを殺して引っ張り出そうとしたが、思ってなかった方向から予想外の攻撃が来た。すぐ迎撃をしたから、相殺してアリスは無傷だが、その攻撃がアリスにとっては驚愕することだった。何せ――――


「俺と同じ無の攻撃を? そんなことが出来る奴がまだいたのか?」


 そう、驚いたところは、自分が使う有を無に帰す攻撃を誰かが使って、自分に攻撃してきたことだ。あの力は『無明神(デウス)』が無ければ使えない力なのだから。

 誰が使ったのか、レイから視線を外して探してみると……


「まさか、お前が?」

「はぁはぁ、当たらなかったか……ぐぅっ!!」


 アリスに攻撃してきたのは、ガロに乗ったリントだった。そのリントは何故か、苦しそうに頭を抱えていた。


「な、なんだよ、これは……」

『大丈夫か?』

「これを長時間も続けるのは無理だ。もう攻撃は出来ないが、無限の正体がわかった……」

『なんと!? 何が――――うおっ!?』

「チッ、避けたか」


 あまりにも隙だらけだったので、攻撃をしたアリスだったが、リントを乗せていたガロは警戒だけは忘れていなかったようで、上手く避けていた。

 無限の正体がわかったことに、ゼロとレイは眼を大きく見開き、大きな声で問いかけていた。


「何かわかったのか!?」

「……すぐ話す」

「うわぁっ!? は、話すから、威圧は止めてくれ!?」

『済まないが、少しだけ弱めてくれんか?』

「ん、こうか?」


 ゼロとレイが放つ魔力の放流に、ただの勇者でしかないリントには強力過ぎた。だが、ガロの言葉を汲んでくれたのか、すぐ弱めてくれた。ホッとするリントはアリスに眼で恐怖を浮かべながら、チラッと見ていた。話し始めた瞬間に、また攻撃されはしないか、警戒しているようだ。

 アリスはまた攻撃を再開するかと皆もリントを守ろうと動くが――――


「構わん。話す間は待ってやる」

「え、いいのか?」

「……余裕を見せていいの?」

「正体を知られたとしても、俺の勝率が減る訳でもないしな。まぁ、これからのことを考えると、ハンデを与えた上で勝たないと、俺の目的を達成出来無そうだからな」

「……話して」

「う、うん」


 あっさりと腕を組み、攻撃をしないと姿勢を見せたアリスに眼を細めるレイだが、待ってくれるなら逃す手はない。すぐ話すようにと、命令を下すとリントは身体を震えながら、話し始めた。




「……アリスが持っている無限、|人の心(・・・)だった」

「……人の心?」




 人の心と言われても、ピンと来ない。それが、無限の力を生み出す根源になるとは思えなかった。人の心と言えば、精神力。それは誰にも備わっている力だが、数値や量にするには曖昧な所で言葉でも表すのは難しい。それが無限の力になるとは思えなかった。アリス一人の精神力が高いと言っても、無限とは言う程ではないと感じられ――――そこまで考えていた時に、レイは気付いた。


「……まさか、一人の心だけじゃない?」

「うん、アリスは他人の心のエネルギーを奪って、使っているんだ」

「ほう、お前に何故そう思う。というか、それが本当だとしても、どうやって知った?」


 黙っていたアリスも話に加わる。断言するリントだが、それをどうやって知ったのかも、皆は気になる。


「……俺のスキルが進化したんだ。『模倣者(マネルモノ)』が王者能力『完全再現(パーフェクトメイカー)』に。それで、アリスの力を再現出来たんだ。その力は一度しか使えなかったけどな」

「……それはチート過ぎる。でも、成る程。それなら、理解出来る」

「再現したことで、無限の力を手に入れたのか?」

「あぁ、出来たけど、長時間は使いたくない。その前に、俺の心が壊れる」


 強力な助っ人が出来たと思ったが、アリスの力を使いたくはないと言うリント。その理由は――――


「百、千じゃない、他人の心が流れて来るんだよ。色々な感情が混ざった状態で、膨大な放流のように心へ流れてくる。一秒でも耐えるのはきつ過ぎる……」

「……感情、確かに普通の心、魂では壊れるね。でも――――」

「なんで、アリスは耐えれるんだよ!?」


 味わったことだから、わかる。この力は元が人間で魂も心も人間がベースになっているアリスでも耐えれるとは思えない。だが、当のアリスは涼しい顔でその力を完璧に扱っていた。

 それが一番の疑問で、とてもおかしなことが起こっていると言うような怯えた眼でアリスを見るリント。




「ふーん、再現出来たから、わかったか。正解だ、俺は人の心をエネルギーとしている」

「……質問には答えないの?」

「どうして、耐えれるかだったな? 簡単なことだ、俺のステータスを見たら、すぐわかることなんだが?」

「ステータスを?」


 皆は思い出す。アリスが掲示したステータス、その中に無限の力を受け切ることを可能にする力があったのかを。すぐ答えを出したのは、レイだった。


「……精神不滅?」

「正解。俺はその力のお陰で、膨大な感情、他人の心であっても制御を可能にしている。まぁ、神になる前から俺は心を武器にしていたから、それが受け継いだのだろう」


 神之能力『無明神(ゼウス)』は王者能力『完全無欠(パーフェクトマイコンラート)』をベースにして生まれた。だから、『無明神(ゼウス)』は無と心を司る力になる。




「これで、無限の正体がわかったようだが――――――――――――――――――――――――お前らは俺に勝てるのか?」




 そう、正体がはっきりしただけで、この戦況が好転した訳でもない。そうわかっていたから、アリスは話している間は手を出さなかった。力を知られても、神である自分には勝てないとわかりきっていたのだから――――





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